医療制度と構造改革についてver2007/10/20(first2003/9/16)

医療政策を考える会


日本医師会の意見


4)日医の主張
3)集団罰則的医療費抑制政策の重大な問題 〜老人医療費伸び率管理制度の多角的検証結果〜(H.13.10)
2)平成13年度医療政策会議報告書医療と市場経済: 国民が安心できる医療−日本医師会医療政策会議
1)厚生労働省の医療制度改革試案に対する意見:2001年9月25日(社)日本医師会

21世紀の医療と医療経済を考える講演会(第3回尾道市医師会)


マネージドケアにみる米国の医療政策の検証−死守すべき日本皆保険制度と日本の医療ー
講師:李 啓充先生(ハーバード大・内分泌系助教授)日時:2001年10月19日会場:尾道国際ホテル2階『慶安の間』

懇親会の模様(李先生を囲んで)
[記念写真][会食][記念1][記念2]


基礎的資料:医療費の内訳の費用負担構造


我々の主張
聖域なき構造改革について


 小泉内閣の構造改革の基本理念は、資源の再配分を行い、市場原理の因に効率の良い社会を作ろうということのようです。市場の失敗による失われた10年のために、経済が厄介な事態になっている。このままでは日本は立ちいかない。確かに経済の合理化と活性化は必要かと思います。

セーフテイネットについて

 一方、構造改革により、市場原理にのっとった社会を作るなら、当然システムから落ちる方はいるわけで、失業対策ばかりではなく、福祉や、医療制度を充実して、社会全体で、落伍者を支えるシステムを確立しないと、国民の皆さんは安心して働けない。老後や健康が心配なら、どうしても、財布の紐は硬くなる。個人消費が冷え込めば、当然市場原理そのものが崩壊すると思うわけです。これがセーフテイネットの基本理念と思います。いわば構造改革を下ささえするネットを構築する必要がある。
セーフテイネットを構築しましょう
医療の基本的性質

現在の政府案について

 医療抜本改革については、経済諮問会議、財務省、厚労省案、自民党案、厚労省大臣案などが、時々刻々とでて、少々混乱はしております。論議の経過を明確にするねらいもあるようです。「聖域なき構造改革」という合言葉の因に、医療にも抜本改革を求めているわけですが、いずれの案にしても、持続可能な医療制度を構築しようという合言葉のもとに、はじめに医療費の抑制ありきという案で、あまりにも患者負担増を前面に出しすぎている案と思われます。これではセーフテイネットにはならない。セーフテイネットは、等しく皆が困ったときは享受できるように、安価でなければいけない。また、当然維持するためには、低コストでなければいけないと思います。いわば社会的に、公平で効率的なシステムである必要がある。一方、コスト削減と質は、相反する要求です。質を下げないで、いかに効率よいシステムを作るかが、問われているということでしょうか。
3)整形外科における最近の医療情勢について2004年5月8日
2)特権か市民権か(2003/11/28)
札幌市医師会講演会(Brobaテレビ会議による)
1)厚労省案に対する意見2001/10/08


医療の公平性について


医療は社会共通資本として、「公平性」と「効率性」を要求される財である。医療を初めとする福祉制度は、社会のセーフテイネットであるわけですから、信頼感に富んだ、公平で、誰でも安心して使えるものでなければならないわけです。まずは供給側である我々医師の倫理観や収入、医療事故の問題が問われるようです。

医師の不正請求について

 時々医師の不正請求が新聞をにぎわしますし、マスコミの批判も根強いものがある。また患者さんが医療機関の窓口での支払いに、疑問をもつ場面も多いようにも見受けられます。連合などは、明細書発行運動も展開している。
 医師の不正請求で告発されるのは医師、薬剤師、歯科医師を含めて、年間多くて20件程度です。医師だけで25万人いるわけですから、その数はきわめて少ないといってよいと思っております。大部分の医師においては倫理感はよく保たれている。しかし患者さんの信頼感が得られなければ、医療はなりたたないと思っております。透明性を確保することが必要になる。そういう意味では、明細書などの発行は大切なことかと思います。ただ確かに診療報酬制度が丸めでは内容が把握できない。診療報酬が包括化されていては、透明性は確保できないと思いますね。
医師の倫理(不正請求)
玖珂郡医師会読売新聞・毎日新聞の『不正請求』記事に対する我々の見解
報道チェック(吉村内科医院)

医師の収入について

 医師は特に開業医はお金持ちだという、根強い「常識」があります。調査では、勤務医は、苛酷な労働環境に置かれ、当直明けでも休みはないし、時間外労働も膨大である。研修医の過労死も最近話題になっております。その割には給料は高くはない。また開業医は、当然年収の多い方もいらっしゃいますが、大部分の開業医は勤務医より若干多い程度で、1千万以下の方が多いというデータでした。平均でも中小企業の社長さんより、若干低いというデータがあります。つまり開業医がお金持ちというのは幻想に過ぎない。保険診療ですから、収入の大部分は保険者から支払われる。当然税金の捕捉率も100%です。
医師の収入

 社会の構造改革により、専門家の価値はより向上する。
より良いもの。より品質の良いものしか生き残れない。より付加価値のついたものが要求される。医療という財なら、もともと品質が最も要求される財である。個人の専門性が尊ばれる。当然報酬はそれなりに与えなければ人材は集まらない。質の向上も望めない。職業としての魅力に加えて、金と名誉があればこそ、優秀な人材が、今後も医療に入っていくでしょう。アメリカでは、成功した人や、努力した人が、お金を儲けるのは当たり前で、例えば保険の不正などの「悪事」を働いた医師や、医療過誤を批判することはあっても、医師の平均収入が高いことを批判するような報道はありえません。
1)医師の適正な報酬は、どれぐらいか。
2)医師の報酬を、どのようにコントロールするのか。
基本的には市場原理に任せないと正確な数字は出ないということなんでしょう。で、アメリカは医療を市場原理に任せたら、ドクターフイーはかなり高額になった。医師の技術評価は至難である。拡大再生産できるホスピタルフイーと魅力的な職業になる程度のドクターフイーをいただけけなければ医療の質は保てない。しかるに、長期の低医療費政策のなかで、医師の収入は、勤務医は非常に低い。特に研修医は、低賃金と過重労働にあえいでいる。開業医は事業経営者としての収入である。しかも一般の企業経営者よりも低い収入に甘んじている。

医療事故:医療は消費者である患者さんの信頼性の確保が大切.透明性の確保が必要。


医療の効率性について

医療は日進月歩で、特に移植医療や遺伝子治療などの高度先進医療は非常に高額である。一方医療は前にも述べましたが、セーフテイネットのわけですから、低コストにしないと維持できないと思います。無駄をのぞき、しかも同時に質の向上をはからないといけないわけです。しかしコストをかけないで医療の質の向上をはかるという、この相反する要求にこたえるのは至難であると思います。

医療のIT化の光と影
日本版マネジドケア
国家医療情報システムNHIN
社会保障カード
疾病管理プログラム;特定検診保健指導プログラム
レセプトオンライン対応について


日本の医療の現状


キャンベル教授によれば、医療費の伸びが経済成長を上回っているからたいへんだといわれるが、60〜70年代の医療費の伸びは今よりもはるかに高かった。最近の医療費の伸びは落ち着いていて米国に比べても低い。「したがって問題は医療費ではなく、経済なのだ
小泉政権の登場で既存の制度はなんでも失敗であり、構造改革が必要といわれるが、日本の医療保険制度は効率的だし、WHOからも高い評価を受けている

「日本人は健康で、国民は平等に医療にかかれる。これは戦後日本の成功例。
 世界保健機構(WHO)が、昨年、加盟191カ国の保健医療システムについて比較した結果、総合評価では、日本が世界で一位でした。経済協力開発機構(OECD)の調査では、国内総生産(GDP)に対する総医療費の比率は、日本は、先進国の中で最も低いレベルでした。また、「医療費の伸びが経済成長を上回っているからたいへんだ」といわれますが、60〜70年代の医療費の伸びは今よりもはるかに高かった。最近の医療費の伸びは落ち着いていて、むしろ減少傾向にある。米国に比べたら、まったく伸びていないといってもよいと思います。医療費もちょうどアメリカの値の半分である。アメリカはいろいろな医療の市場化により、ラジカルな改革をおこなってきたが,医療費は急速にのびてきています。つまり、現在の日本の医療制度は、全体としては、安くて、効率が良く、質が高いといってよいと思います。

低医療費政策

 しかし、最大の問題は、このような、諸外国に比較して、低い持続的な低医療費政策のために、いままで十分な投資がなされていない。「医療経済実態調査(平成7年)」によれば、医療機関の医業収入から医業費用を控除した収支差額は、それぞれの医業収入を100とした場合、一般病院は1.1、一般診療所は17.3(有床)と25.1(無床)であり、病院の収益率が極端に低いことが分かる。その理由は病院の給与負担が5割も占めていることや(診療所は3割弱)、賃貸料・福利厚生などの経費や診療材料費、医療消耗器具備品費などの負担比率が高いことである。
 病院の現状は、悪名高き、三時間まちの三分診療。狭い汚い病室で、風呂もトイレも恵まれていない。食事も選択の余地がない。そして重大な病気でもっといたいのに早く追い出される。病院の標欠も問題になっています。患者さんは医師や病院を批判するわけです。しかしこれは医療機関のみが本当に悪いのでしょうか。
 診療報酬体系は病院の設備拡大投資費用などの、間接費用までは十分考慮されていない。単に直接経費(人件費、特定医療材料など)を考慮して作成しているものである。低医療費政策で、医療機関に拡大再生産するだけの十分な診療報酬をいただいていないのです。

病院の合理化

 医療技術の進歩はめざましく、高度医療を扱う病院が増大する一方で、大部分の急性期病院。特に公的病院は大部分が赤字なのです。医療という労働集約産業になかで人件費高騰に悩みながらの、病院の経営努力はきわめて限られるわけです。全体の病院の数の減少、国立病院、大学、自治体病院などの統廃合がはじまりつつあります。特に個人病院の没落もはじまってきております。 日本の医療は現在でも貧困のままである。そのために医療スタッフの劣悪な労働条件。入院環境その他、勤務医の低給与など多くの矛盾が噴出してきている。医療者のボランティア精神で何とか質を保っているというのが現状であろうかと思っております。
日本の医療の現状
日本の適正な医療費の計算
点数制度の制度疲労


医療費の内訳


 医療費の内訳は、レセプトの上位20%で75%の医療費を使っている。また上位5%で55%の医療費を使っているわけです。これは高額といっても。上位5%とは月の医療費は5-6万円。このレベルですと、短期間の入院や、外来でも(特に病院の)ちょっとした検査や手術をすれば時にあります。これが上位5%なのです。上位1%はほとんどが入院患者のレセプトといえるでしょうが、上位1%レベルでもまだ「高額医療」とは言えません。

 上位0,1%のレセプトに5%の医療費。「高額医療」と言える月100万円を超えるレセプトは、総レセプト枚数の0.1%でした。この月100万円を超すグループの使用している医療費は全体の約5.5%となります。このグループは急性期医療、高度先進医療、延命医療などで、高齢化や医療の進歩に伴い、今後ふくらんでくる部分ではあります。低医療費政策の中で、日本の医療費は低額に押さえられている。極貧医療である。急性期医療や高度医療に、今以上に医療費をつぎ込むことは、意味のあることと考えます。またGDPにしめる医療費の割合は先進国中19位と最低にちかい。
医療費の内訳
平成11年度国民医療費国民医療費は30兆9337億円であり、前年度の29兆8251億円に比べ1兆1086億円、3.7%の増加である。国民一人当たりの医療費は24万4200円であり、前年度の23万5800円に比べ3.6%の増加である。国民医療費の国民所得に対する割合は8.08%(前年度7.81%)である。
医療費高騰」の欺瞞(ぎまん)
本音に迫る医見異見野口行雄埼玉県立がんセンター呼吸器科

 元の平成11年度国民医療費の厚労省のグラフの左が縦軸を整数にしたグラフ、図の右が縦軸を対数にしたグラフです。国民所得(国民総生産額)と比較して国民医療費は著しく低く、決して高騰などしていません。対数目盛は増加率を示しているに過ぎません。1兆円の1割増加と100億円の1割増加は同じであるはずがありません。前者は1000億円の増加、後者は10億円の増加です。同じ1割の増加でも100倍の開きがあります。(medical朝日の2001年6月号87p記事一部改変)。
医療問題


政府案が実現しようとしている医療の世界


医療のリストラをするなら理念を持って、合理的な政策を作りましょう。医療の中身を問わない抑制策では医療の質の低下がおこる。

自己負担増について
医療の無駄って何?
在院日数の短縮は医療費の高騰をまねく
政府案が実現しようとしている世界
医療費抑制論について
民間保険導入論批判
医療の効率化を考える
営利企業参入について


総枠抑制論

 医療費の伸び率から総枠を決めてオーバした分を機械的に削るという案です。前GE会長のジャック・ウエルチの言葉で、「一般企業では、経営が苦しくなると、すぐに賃金の一律カットとか、給料の一斉凍結という手法が使う。これは経営者としては、「痛みを分かち合う」という名のもとに、現実を直視しない、逃げの経営姿勢でしかない。経営において、まず何よりも大切なことは、企業内の人的育成を図り、質の向上をはかりながら。常に合理的な、経費削減策をとるべきである。」(日経新聞2001・10・25)
 合理的な医療の効率化と、経費削減策をとれなければ、当然、会社はつぶれると思います。一律カットなどという施策は、無能な経営者の代名詞である。しかし、現在の財務省をはじめとする政府案は、人命に関わる医療にたいして、医療の総枠抑制とか、保険者と医療と、患者さんの三方痛み分けとか、乱暴な、理念もない、合理性もない、経費削減政策を提言しております。これは明らかに無能な政策といって良いでしょう。
根拠を保った医療の効率化と、合理的な医療費抑制をはかるべき
と思います。健康の定義は、社会構造の変化、疾病構造の変化で変わるのは当然です。鍼灸、温泉、皆効果はある。高額医療でも、いずれの分野でも、cost benefit studyが必要と思われます。それではじめて費用負担の論議となる。土建国家で60兆円も予算を使い、医療はたったの30兆円です。これは発展途上国並みの予算配分です。日本の医療が貧しいのも当然です。
 総枠予算制にすれば、基本的には極端な医療費抑制策であり、先進医療の導入を制限することになる。また定額制と同じく、過少診療になりやすい制度である。医療の質の低下が起こる可能性が高い。ドイツですでに失敗して撤回した制度ではある。
総枠予算制について

保険者機能の強化

1)電子化について
 電子化は賛成ですが、普及率が低すぎる現状では事実上不可能でしょう。レセコンの無償配布など経済的インセンティブをつける必要がある。そうでないと、導入コストがかかりすぎ、中小医療機関の経営を圧迫する。
2)保険者によるレセプト審査
2−1)レセプト審査は一元的に実施したほうが効率的
 保険者直接審査というが、無床の医療機関である当院でも、100個程度の保険者がいる。病院クラスなら1000件は越すであろう。それにすべて別々にレセプトを郵送するのか?郵送事務が大変である。
2−2)審査権を、直接、保険者に与えれば、公平性が担保されない
 直接契約した場合、医療機関や患者さんの生殺与奪権は、保険者が握ることになる。医療機関は安くしないと保険者と契約できない。したがって医療機関は、必要な医療もしない可能性がある。この場合医療の質の低下が起こる。また公平な第3者機関がなければ、患者さんから、あるいは医療機関からの保険者への訴訟は急増するでしょう。現在でも、交通事故をめぐる被害者からの訴訟のほとんどは、保険会社相手の任意保険関係です。
2−3)インフォームドコンセントと相入れない
 保険者は、不必要な入院や、不適切な医療について、支払いを拒否するとともに、悪質な医師・病院を排除する権限も与えられ、いわば医療警察としての強大な役割を担わされる形になります。患者を診察して、インフォームドコンセントを行い、実施された治療に対して、一度も患者を診たこともなく、また患者と話したこともない、非医療者の保険者が「医学的必要性が認められないので保険給付をしない」と、反故にするのが利用審査の制度です。公平性の担保されない審査では患者さんも、医師もとうてい納得しないでしょう。
3)保険者と医療機関の直接契約による診療報酬の引き下げ
 診療報酬の割引契約が、認められれば、健保の加入者が決められた医療機関にかかった場合、治療費の総額や自己負担が安くなることになる。患者さんにとっては、一見、お得な制度になりえます。
3−1)患者さんにとっては不平等となる
 現在は個人のリスクに関係なく、一定の負担で必要な医療を受けることができるように、医療機関へのフリーアクセスを確保しています。
保険者が一部の医療機関とのみ契約を結ぶシステムとなれば、
 保険者は、医療の質は二の次にして、安い医療機関を選ぶことになる可能性がある。また割引率は、医療機関と保険者間の力関係で決まる。保険者間の格差が目立つ中で、保険者を選べない患者さんの間で不平等が生ずる。フリーアクセスと公平性という医療保険の大原則が崩れる。これはいわば大企業の論理を強く感じます。他方、被保険者が保険者を選び、それを保険者は拒否できないとなると、賃金の低い人、年齢の高い人が集中した保険者の財政は、成り立たなくなる。
レセプトの電算化について
保険者との直接契約について
保険者機能の強化について
保険審査の質を上げるために

視点「医師会に対抗できる保険者機能の強化を」に対する私見


市場原理の導入

 医療に営利企業の参入や混合診療導入、自由診療など市場原理を持ち込もうという動きがあります。また保険者機能の強化というお話もあります。医療における医師の裁量権と合わせて、どう考えるかということかと思います。
 医療にも全面的に市場原理を導入しようとすれば2つの改革が必要になる。すなわち国民皆保険制度の解体と、営利企業による病院経営の自由化である。しかも、病院経営への営利企業参入による医療の「効率化」は、アメリカにおける膨大な実証研究で完全に否定されている。我が国でも営利企業が開設している病院の大半が赤字に悩んでおり、将来、仮に営利企業による病院経営が認められたとしても、企業立病院が急増するとは考えられない。ちなみに90年代前半に、イギリス、オランダ、カナダなどで、保守的政権により、市場原理を導入する医療改革が試みられたが、所期の目的を達成できずに見直しが行われている。また市場開放により医療費の高騰が起こる。
市場開放論の代表例

営利企業の参入
 市場原理の導入についてまずは一般的な概観を述べてみます。わが国の所得格差は、現在行われようとしている、「聖域なき構造改革」の推進により今後拡大傾向に進むとみられます。
市場原理の導入により主張されている事に対する反論を述べてみます
1)自助:自己責任の原則を明確にする?。
 社会共通資本としての医療は必要ない。リスクは自分で負いなさい。弱肉強食のまさに鉄火場のルール。弱者保護という、社会共通資本の役割を忘れているのではないか。
2)営利病院参入により効率化を図る?
 必ずしも営利病院が低コストで運営されているとはいえず、逆に不採算医療の抑制や、支払い能力の乏しい患者を拒否するなど、クリームスキミング(良いところ取り)を行う傾向がある可能性がある。
3)コスト感覚を上げるために自己負担をあげましょう?。需要抑制
 医療費の75%は入院で使われている。いわゆる社会的入院を除き、価格弾力性のない分野である。自己負担増にしてコスト感覚をあげて、影響が出るのは、まさしく軽医療である。よって患者さんはより重症化するまで受診しないことになる。病気の大原則は早期発見早期治療である。情報の非対称の存在下では、需要抑制策は解決にならない。
4)医療の効率化と質の向上が競争で果たされる?
 また、医療の効率化とは質の向上、コスト削減である。質の向上は選択性(多様性)をますことではない。ましてや競争原理であがるわけではない。医療という財の性質上、医師も患者も質の向上に対する、きわめて強いインセンティブを持つ。質の向上とは、外科医にとっては手術成績の向上。内科医にとっては治療成績の向上である。技術革新こそがポイントである。開放論者の言う保険外負担(自由診療)などのアメニテイを増やすことが、何故質の向上になるのか、ほとんど理解不可能である。それは医療の質の低下と、無意味な医療費の増加しかもたらさない。またそれは現状通り保険負担外であろう。アメニテイでしかない。サービスランチは保険外負担なのは自明である。
 社会共通資本である医療を、市場原理に委せれば、医療費の増加と、医療アクセスの不平等の拡大という副作用を生むことになる。医療においては、市場原理の単純なアナロジーは通用しない。医療に求められるのは、規制緩和ではなく、規制の再構築なのである。より効率的で、質の高い医療サービスの提供を促すインセンティブをどの様に構築するのかが問われている。本間氏を初めとする、経営諮問会議の論は、そういう意味では暴論に近いと思われる。


EBMガイドラインはEBMではない

 アメリカの医療におけEBMガイドラインは専門業者が作り、入院の日数まで決められている。それを保険者が買い取って一律に患者さんに適応する。患者さんのためのEBMではなくて、保険会社の経費削減のための、ガイドラインでしかない。根拠にのっとった医療というのは、あくまで患者さんの病態にあわせ、医師がEBMにのっとった文献を提示して、患者さんの同意のもとに治療を行うというものであろう。あくまでケースバイケースで、患者さんの同意のもとに行う個別的な治療であると考えます。
 定額医療制度(PPS)のもとで、EBMマニュアルにのっとり、機械的審査をすれば、医療現場では委縮診療となり、日本版患者残酷物語が出現する可能性が高い。DRGのみなら確かに診療の標準化には役立ち、病院の効率化と質の向上にはなりえる制度ではある。しかしPPSと組み合わされることで、結果的に米国では行き過ぎた医療費抑制策となってしまった。しかも、保険者の力が強くなりすぎて、医師の裁量権がなくなってしまった。医療の現場では混乱と委縮診療が起こったということかと思います。
管理EBMについて


DRG/PPSについて(保険審査)

 定額医療制度(PPS)のもとで医療費をEBMマニュアルにのっとり機械的審査をすれば、医療現場では委縮診療となり、日本版患者残酷物語が出現する可能性が高い。DRGのみなら確かに診療の標準化には役立ち、病院の効率化と質の向上にはなりえる制度ではある。しかしPPSと組み合わされることで、結果的に米国では行き過ぎた医療費抑制策となってしまった。しかも、保険者の力が強くなりすぎて、医師の裁量権がなくなってしまった。医療の現場では混乱と委縮診療が起こったということかと思います。理念は整合性は合っても結果は悲惨な事態となる。まさしく制度の導入にあたっても、そのアウトカムが問われる壮大な実験かと思われた。理念はそれなりでも、結果は悲惨なことになる。詳しくは以下を参照。資料集にもあります
DRG/PPSに期待された事
DRG/PPSの失敗
日本のDRG/PPS試行について
米国患者残酷物語(HMO Horror Stories)

混合診療の導入について

 ホテルコストは健康の範囲から外れるから、健康保険外です。「混合診療」の規制緩和、特定療養費の安易な拡大は、自費診療部分に民間保険が適用されるため、費用抑制効果はなく、かつ公私合わせた医療費の上昇をもたらす。同時に、診療の質の低下を招く可能性も高い。また、医療費抑制が目的であるからには、現在の、保険診療の範囲縮小につながると思われます。貧しい方は診療を受けられなくなる。安易に、自己負担増に結びつくような政策をとれば、医療はセーフテイネットではなくなる。避けるべきであるとは思います。
混合診療に関する論点

保険外負担について


我々の提言する医療とは

医療技術の進歩はめざましく、高度医療を扱う病院が増大する一方で、慢性疾患や老人の在宅医療などの地域医療の中心となる病院や診療所の強化も進んでいる。こうした、ますます多様化していく国民のニーズに応えるためには、まず医療原価をきちんと把握すべきであり、またそれぞれの医療機関の担うべき役割や機能をより明確にする必要がある。

 医療機関の合理化。国立病院、大学、自治体病院などの統廃合がはじまりつつある。医療機関の機能に応じて、病院と診療所を別の診療報酬体系にすることが必要である。さらに、診療報酬が医療にかかるすべての費用を補填するという考え方にこだわらず、施設や機器設備等の資本関連コストに対して、補助金や税金といった他の政策手段を積極的に活用することによって、病院機能の一層の充実を図るべきである

また健保や国保等の弱小の保険者の財政基盤が危うい現在、制度間の不均衡の是正。保険者の統廃合や事務の合理化は必要である。
保険の給付範囲について


医療費の支払い制度について

 診療報酬制度や、また保険の給付範囲について(民間医療、高額医療、命の値段)総枠予算制については
1)高額医療の財源について
 移植医療や遺伝子治療など、高額医療の財源をどの様に考えるかというのはたしかに難しい問題です。小島先生のいわれる、勤務医のコスト意識の無さの問題もある。しかしすぐ支えきれないから、民間保険に移行という考えではなくて、まずは高額医療の内容分析をはかる必要があると思います。実際問題、患者さんを前にして自費だから諦めてくださいとは、なかなかいえないでしょう。
2)まずは内容分析を
 高額医療は、データ的には薬剤費と手術料が大部分を占めるというなら、薬剤費の妥当性や手術料の妥当性(機材の内外価格差)、ホスピタルフイ-の妥当性(人件費、その他、質の維持にためには、現在十分に診療報酬で補填されていない、拡大再生産に回るまでのお金も必要でしょう。)そこらをひっくるめた医療原価を、まずだして、その費用負担をどうするか、広く論議いただく必要がある。

診療報酬制度について

 DRGは疾患別の標準化というけれど、有り体に言えば行為別でなく、疾患別にパターン化した包括化でしかない。要するに荒すぎる。200や300の分類でチェックできるわけがない。これでは医療行為や内容の分析は出来ない医療の平準化(標準化ではなく)をはかり、オーバーした分は削ると言う、一律上から押さえる発想だけの診療報酬でしかない。これではコスト計算も甘いし、「合理的」な医療費の抑制は出来ない。だからアメリカは失敗したんではないか。
1)医療の原価を出しましょう
 医療の効率化のためには、医療の無駄を除く必要があるわけですが、そのためには、点数制度を現在の不充分な出来高と、包括化の最悪の組合わせではなく、急性期、慢性期を問わず、診療点数をすべて、真の出来高制にして、かつ診療行為の単価は、できるだけ医療原価を反映した点数にする必要があると思います。また、診療報酬が、医療にかかるすべての費用を補填するという考え方にこだわらず、施設や機器設備等の資本関連コストに対して、補助金や税金といった、他の政策手段を積極的に活用することによって、病院機能の一層の充実を図るべきであると思います。また健保や国保等の、弱小の保険者の財政基盤が危うい現在、制度間の不均衡の是正。保険者の統廃合や事務の合理化は、必要であるとおもいます。厚労省も保険者の体質改善には乗り出しているようです。
診療報酬制度を真の出来高制にして医療の質の向上と、透明性を確保しましょう
出来高制は堅持
すべきですが、より大切な事は医療の原価を正確に把握する事かと思います。原価より支払いが高ければ過剰医療になり、支払いが少なければ過小医療となる。いずれにしても健全な医療とはならない。原価を反映しない、包括化の跋扈は医療をゆがめる。内部矛盾が拡大する。それは特に急性期医療と高齢医療に顕著にでるでしょう。205点という包括化をして、おかしいというなら、当然DRG/PPSもおかしいことになるのは理の当然。同じ問題が出る。205点ルールは包括化の良い実験である。

急性期医療は出来高に
医療費の支払い制度について
 経済に対して医療費が増大しすぎるというが、国内総生産に対する国民医療費の比率は7.2%で、OECD加盟先進国中21位(97年)という水準に止まっている。


以下は文献である。
外来の包括化に付いて
外来再診料逓減制廃止と外来包括払い制
原価について
発生源入力とIT術で原価管理システムを開発
原価管理
原価計算外保連試案
原価計算外保連試案(理学療法)

医療の裁量権の堅持

 プリンストン大学のラインハルト教授は,「誰かから細かく管理されたり常に干渉されたりすれば,実際に仕事をしている人に反感を抱かせるだけでなく,その勤労意欲を削ぐだけだということは、医療以外の分野では常識だった。マネジドケアは,こんな簡単なことに気がつくのに10年もかかった」と,マネジドケアの「革命的」決定を揶揄しました。医療にとって必要なのは、まず第一に、「評価」や「監視」や「管理」ではなく、医療従事者の働きやすい環境を作ることで、医療従事者の能力を最大限に発揮できるようにするべきである。技術革新は自由で闊達な環境でのみ行われる。管理強化で生まれるのは委縮診療だけである。医療現場は荒廃する。マネジドケアの失敗に学びましょう

医療の効率化と質の向上

 医療の効率化は、質の向上と、コストの削減によりはかられるが、医療という財の性質上、質の向上は、医師の教育と技術革新によってなされる。開放論者の言うごとく、競争原理や、選択性の向上(自由診療、保険外負担)ではかられるものではないと考える。医療の効率化は、まずは質とコスト感覚を持った医師を育てることが第一である。研修制度や専門医制度の充実が望まれる。

医療における情報公開の問題点。説明と同意の問題

 患者さんのニーズの多様化は時代の流れです。それに答えるためにも、各病院の情報公開は、もっとすべきと思います。しかしはたして、単純に情報公開して、しかも「比較広告」すれば、すべては解決するのでしょうか?病気は非常に多様であり、従って患者さんのニーズも多様である。家庭の事情なども有るでしょう。そういう意味では、決められたルールなどないにひとしい。あくまで病気は、個人的、個別的なものではないのか。医師も患者さんの事情に合わせて、現場で柔軟に対処する(裁量権を、最大限に発揮する)必要があると思います。また、そのためにも、患者さんの意志の元に、自由に医療機関を選択できるフリーアクセスを規制すべきではないと思います。
医療の効率化は質の向上と、コストの削減によりはかられるが、医療という財の性質上、質の向上は医師の教育と技術革新によってなされる。開放論者の言うごとく、競争原理や、選択性の向上(自由診療、保険外負担)ではかられるものではないと考える。医療の効率化はまずは質とコスト感覚を持った医師を育てることが第一である。研修制度や専門医制度の充実が望まれる。

良い病院、良い医者とは:名医リストというには意味があるのか

医療の効率化と質の向上

情報の非対称性を解消するシステムについて
情報の非対称が解消されるわけではないでしょうが、少なくとも格差は下げないといけない。医療評価機構の実際の審査は、書面と丸1日のサーベヤーによる実地審査のようです。第3者評価機構がどの程度のランニングコストがかかりるのかはわかりませんが、結構高くつくようですね。また定期的に改定も行われるようです。ISO9000とどちらが有用か。評価の内容は若干異なるか。費用は同程度でしょうか。ISOの方が細かく規定されているから高くつく可能性がある。


介護保険
「医療保険の失敗」に、対するアンチテーゼとしての介護保険制度の出現により、より医療の市場化が明確になった。

1)民間企業の参入:民間企業の参入。複合経営する医療法人が増加する
2)保険者の強化:医療では保険者がたくさんいるため、日本では弱体化している。介護保険では、市町村ということで一元化された。
3)フリーアクセスの制限:介護保険では介護認定を受けた者だけがサービスを受ける。
4)給付の制限(混合診療):最低補償として給付の限界を明確にして、医療保険では認められなかった上乗せサービス、横だしサービスを認める。
5)情報開示:介護計画を明示し、契約して、契約内容をオープンにする。
6)標準化:サービスや介護の標準化を進める。サービスの中身は弱者救済、救貧対策あるいは所得保障というものではなく、医療保険にはなかった自立を支援する、あるいは予防を給付する。
7)負担の一元化;保険証は家族という形ではなく、すべての40歳以上の国民が持つということになる。
8)定額制:逓減制を伴う、一日当たりの定額制。
9)高コストの専門家の排除:医師の役割の相対的低下。より低コストなケアマネージャ、ヘルパーの参入


介護保険の現状

サービスの利用状況
制度利用率;
 全国平均76%。施設介護は利用率が高いが、在宅がすくない。ある県のデータでは特別養護老人ホームなどの施設サービスが94・0%。在宅サービスは75・3%であった。ホームヘルプは37・7%であった。施設志向でかつ、退院したがらない傾向がはっきりしてきた。
患者負担の急激な増加:
 65歳以上の高齢者は、国の特別対策で、昨年4−9月は保険料を徴収されず、昨年10月−今年9月は本来の保険料の半額を納めていた。全額徴収の開始で、今年は年額ベースで昨年の3倍になる。利用限度額の範囲内でも経済負担が重く、思うようにサービスが使えないという声が大きい。
市町村による減免措置拡大:
 高齢者の保険料は五段階に分けられ、所得の低い人にはもともと減免措置が盛り込まれている。それでも、年収二百万円の人と、生活保護対象に近い人の保険料が同じになる。所得が低いほど相対的な負担が大きい「逆進性」がある
介護保険は家族介護の負担軽減になっていない:
 某県のアンケートの結果では介護者の肉体的・精神的な負担は「(介護保険以前と)変わらない」が半数近くを占めるほか、「増えた」も20%を超え、必ずしも家族介護の負担軽減につながっていない。
フリーアクセス制限(ゲートキーパー)の欠点が出ている:
 同上のアンケートでは、ケアマネジャーを通してサービスを依頼することが面倒が30%台で、最も多かった。

 できばかりで、まだどういう傾向になっていくかはわかりませんが、現状の所は、ゲートキーパーが、資質の問題や労働過重などの原因で、十分機能していない可能性がある。また負担率が高すぎて十分利用できていないというのが現状で、最も問題なのは家族介護の負担感が減っていないことかと思いました。