総枠予算制について2001/07/23

本田整形外科クリニック 本田忠


 経済に対して医療費が増大しすぎるというが、国内総生産に対する国民医療費の比率は7.2%で、OECD加盟先進国中21位(97年)という水準に止まっ ている。
 総枠予算制にすれば、基本的には極端な医療費抑制策であり、先進医療の導入を制限することになる。また定額制と同じく、過少診療になりやすい制度である。医療の質の低下が起こる可能性が高い。ドイツですでに失敗して撤回し た制度ではある。医療費抑制効果もさほどない。

政府原案
@抑制の対象は70歳以上の老人医療費、
A高齢者の増加による医療費の伸びは認めるが、治療費などそれ以外の伸びには上限を設ける、
Bこの上限を超えた場合は、医療機関の負担とし、診療報酬単価を操作して診療報酬請求分から差し引く、などが検討されているという。
7月Topics
第4回医療改革フォーラム」 (厚生労働省の外郭団体の医療経済研究機構主催)
■企業参入、混合診療の導入等は合意なくても中間報告に規制改革会議・宮内 議長
総合規制改革会議(議長=宮内義彦・オリックス会長兼グループCEO)は17日、全 体会合を開き、重点検討6分野の中間報告とりまとめに向けた意見交換を行った。 このうち、医療分野で論点にあがっている営利企業の医業経営への参入解禁や 混合診療の導入、磁気媒体によるレセプト提出を原則化することなどについて は、所管省庁である厚生労働省が反対姿勢を示すなど両者の見解に隔たりがあ る。宮内議長は会議終了後の会見で「構造改革を断行するという意識のうえで、 私どもにとって前向きの合意、あるいは合意に近いものをとっていきたい」と、 改めて意欲を表明。前身の規制改革委員会で何度も浮上しながら具現化に結びつけることができなかった課題を取り上げている点も考慮し、関係省庁との合 意に至らなくとも、秋以降引き続き義論を深める必要があると判断される項目については中間報告に盛り込んでいく考えを示した。同会議は来週24日に中問 報告をまとめる予定。
◆本人3割負担など医療費総枠抑制の具体化─医療改革フォーラム
6月28日、横浜市で開催された「第4回医療改革フォーラム」(厚生労働 省の外郭団体の医療経済研究機構主催)で、厚生労働省保険局総務課の渡邊芳 樹課長は、2002年度の医療「改革」は、高齢者医療保険とともに一般医療 保険制度にも踏み込んで、今秋に「たたき台」を取りまとめ、年末までには結 論を出したうえで、来春の次期通常国会へ予算関連法案として提出していくと の見通しを明らかにした。「改革」の中身について、「経済動向と乖離しない 医療費の伸び」を前提とすることを強調したうえで、健保本人と国保の給付格 差について「公平性に配慮していく」と述べ、健保本人3割負担を示唆した。 また、高齢者医療の制度設計では「後期高齢者を十分念頭に置いて検討する」 との考えを示したが、高齢者医療制度の対象や患者負担について、前・後期で 線引きしていく方向とみられる。また、医療費財源の6割を占める保険料引き 上げにも言及。とくに政管健保は避けられないと述べ、高齢者全員からの保険 料徴収(新たに300万人が対象)とあわせて検討していく方針を明らかにし た。
高齢者医療制度については、「老人医療費の政策的な枠組みを設定する」必 要があると指摘し、制度設計は持続可能なもので「ベストミックスを求めてい く」との方針を示した。
こうした「改革」構想は、小泉首相が国会で表明した健保本人3割負担、高 齢者1〜2割負担への引き上げ、「骨太方針」に明記された、医療費の総枠抑 制や「適正な患者負担増の実現・保険料負担の設定」を具体化したものといえ る。
◆高齢者負担増の社会保障改革案─経済産業省
経済産業省は社会保障制度の改革案をまとめた。少子高齢化で膨張する国民 や企業の負担を抑えるために、所得や資産が多い高齢者に応分の負担を求め、 年金制度や税制を見直すことで社会保障財政を年3兆6000億円好転させる 効果があると試算した。医療の効率化も推し進めれば国民医療費を4兆600 0億円節約できるとしている。
同省が社会保障改革をまとめたのは「制度が安定すれば国民の安心感を高め、 個人消費の喚起や関連産業を育成する効果が期待できる」としている。政府・ 与党の社会保障改革協議会などの場で提言する方針。
政府の社会保障有識者会議は昨年10月、高齢者の負担を増やすべきとの報 告をまとめたが、具体論には踏み込んでおらず、経産省の案がたたき台になる 可能性もある。同省は65歳以上の高齢者世帯の1人当たり所得は年金を含め ると平均213万円となり、世帯主が40歳代の家族1人当たりの所得200 万円と大差ないという調査結果を紹介。不動産など資産は現役を大きく上回る ため所得に応じた負担は可能と判断。6月24日付マスコミ報道より。

参考文献

総枠予算制はドイツやフランスで実施されている。その動向を探ってみましょう。

○ドイツの総枠予算制の動向
Sankei- 正論
オピニオンアップ論説委員岩渕勝好
<厳しい独の3連続改革>
八九年に第一次医療保険改革を実施したドイツは、
(1)医薬品給付の定額打ち切り制
(2)入院自己負担の引き上げ
(3)必要性の低い薬の給付除外
(4)保険料引き上げ―などを行った。
患者の負担を重くして需要の面から医療費を抑制しようとしたものである。
これにより最初の年は医療費が一・九%減少した。日本が来年度に実施を予 定している第一段階の医療保険改革とよく似ている。ところが、ドイツの医療 費は翌年からたちまち大幅増加に転じた。
このため、九三年に第二次改革を実施した。
(1)賃金の伸び率による医療費上限の設定
(2)家庭医の定額払い
(3)病院の一件当たり定額払い
(4)薬剤費超過分の医師・メーカー負担
(5)医師過剰地域の保険医認可基準強化
(6)保険者(疾病金庫)団体と病院の価格交渉
−など、医療供給を抑制しようというのである。
昨年からまたしても医療費が膨張し始めた。
<保険料引き下げを決定>
第三次改革案を国会で審議中だ。医療機関と疾病金庫双方に市 場原理を働かせ、コストを下げようというねらいである。
まず、今年の保険料率を凍結し、来年は〇・四ポイント引き下げて一三・一 %にする法案が先月可決された。給付カタログを使って、保険料に見合った給 付を行う。つまり、マニュアル通りの決まり切った医療しか行わないというこ とだ。
また、個別の疾病金庫が病院や開業医団体と交渉する制度を審議している。 さらに、国民が加入する疾病金庫を自由に選択する一方、疾病金庫は特別なサー ビスで保険料を引き上げたり、逆に効率化して保険料を返還することも可能に する。
疾病金庫同士の競争を促し、医療機関と直接交渉させ、医療費を削減しよう というわけだ。三年前に西ドイツ地域で千百三十三あった金庫が、競争力を強 化するために次々合併し、昨年は七百五十程度に減った。
とくに日本の国保と政管健保に当たる地区疾病金庫は二百六十九あったのが、 四十余りに激減している。日本の健保組合に当たる企業疾病金庫も次々に合併 し生き残りに懸命である。
また、九九年には保険医の定年を六十八歳にする予定だ。一般勤労者の六倍 もあった医師の賃金水準は四倍に急降下し、日本(三倍)より高いが米国(五倍) を下回った。
コール政権は各種の社会保険料率の合計(四二%)を四〇%以下に引き下げる ことを目指している。ドイツは社会保険に国庫負担を入れていないので、日本 (保険料率合計二七%程度)も実態はそれほど違わない。
ドイツ医療改革の流れ
歯科協・ドイツ歯科医療視察団長幹事・小山栄三
1989年医療保険構造改革法(GRG)
患者自己負担の引き上げ、医薬品にたいする定額給付制度の導入など、主に医 療需要側(患者側)をコントロールする。主な内容には
(1)患者自己負担の引き上げ(入院、歯科補綴、温泉療法、医薬品など)
(2)保険給付範囲の縮小・限定(メガネの給付、医薬品)
(3)医薬品への定額給付制度(参照価格制)
(4)在宅介護給付の導入
1993年医療保険構造法(GSG)
医療費上昇を抑制するため予算枠を設定して医療の供給側(医師側)のコン トロールに主眼を置く(特に病院、薬剤の支出抑制)。主な内容は次の通り。
(1)各分野で予算枠を設定(薬剤費以外は3年間の暫定措置)
(2)家庭医と専門医を区分し、家庭医の診療報酬を引き上げ(包括化)
(3)病院の出来高払いを廃止し(一日定額制)
一件当たりの包括払いなど新しい診療報酬体系の導入
(4)定員制を導入、保険医需要計画に沿って過剰地域での保険医の認可制限
(5)疾病金庫の選択の白由化
ICカード(被保険者の電子カード化)
1997年第3次医療改革
保険料の引き上げは雇用者は引き上げず、被雇用者のみで上げていく 18歳以上の人の治療は定額制となる。 総枠予算制は廃棄する。
1989年医療保険構造改革法(GRG) 患者自己負担の引き上げ、医薬品にたいする定額
欧州3 ヶ国の医療・介護分野における公的制の最新動向と民間保険市場の現状
ドイツの医療・介護分野における公的制度と民間保険市場
1. 本章の要約
 ドイツにおける公的医療制度および公的介護制度とも社会保険として運営され ている。公的医療保険制度は、一定の所得以下(1999 年現在、旧西ドイツ地区が 76,500マルク、旧東ドイツ地区が 64,800 マルク)の被雇用者は強制加入である が、一定の所得を超える被雇用者、自営業者等は任意被保険者となり、公的医療 保険または民間の医療保険(完全医療保険)のいずれかを選択することができる。 現在、約90%の国民が疾病金庫が保険者である公的医療保険に加入し、約10%の国 民が民間保険会社が保険者である医療保険に加入している。ただし、任意被保険 者を認めた結果、ごくわずかであるが無保険者が発生している。
 一方、高齢者介護については1995 年より介護保険制度が導入されたが、公的 医療保険に加入している人は自動的に各介護金庫内に設けられた介護金庫が保険 者である介護保険に加入し、民間保険会社の医療保険に加入している人は自動的 に当該保険会社の介護保険に加入することが義務づけられることとなった。
 このように、ドイツの場合は、公的制度の枠組みの中に、民間保険会社が組み 込まれている点が特徴的である。ただし、これは、公と民との競争を促すという 観点よりも、並存を目指すという観点にたっているものと考えられる。
 今後、医療保険分野において民間部門の役割がさらに高まるかどうかは今後の公 的部門の改革動向に大きく依存するものと考えられる。ドイツの医療・介護制度を 簡単にまとめたのが《図表18》である。
診療報酬制度
外来診察費については、総額予算が毎年保険医協会と疾病金庫連合会との間の交渉 により取り決められている。合意された金額に基づき各疾病金庫は保険医協会に四 半期ごとに報酬を支払う。保険医協会は固定点数単価表に基づき各保険医に配分す ることとなる。入院医療費にかかわる診療報酬総額については病院協会と疾病金庫 連合会との間で交渉される。診療報酬費は細分化された入院医療費日額制度により 決定されるが、一部、外科部門については包括払い制度や特別報酬制度も併 用されている。
薬剤については参照価格が設定されている薬とそれ以外に分かれている。参照価格を 超える薬の場合は、超過分は患者の自己負担となる。なお、すべての薬剤について包 装の大きさに応じた定額の自己負担がある。
E 開業医(一般医、専門医)と病院勤務医
医師は開業医と病院勤務医に大別される。病院勤務医は専門医のみであるが、開業 医は一般医と専門医に分かれる。従来は、被保険者はまず一般医にかかり、さらに 専門的な診療が必要な場合には専門医を紹介してもらっていたが、チップカード(医 療保険カード)の導入により、現在では60%の人が最初から専門医の診察を受けている と言われている。この結果、一般医と専門医との間で競争が生じ、一般医の数は減少 している。
 一方、一般医医療の強化策を打ち出している連邦政府は、疾病金庫を財源として、 一般医になるための継続教育を病院で実行している。医療保障改革2000 においても、 一般医の役割強化を打ち出している。
なお、病院へのアクセス(は緊急の場合を除いて、原則開業医による紹介が必要とな る。
3. 民間保険市場
 民間医療保険会社が引き受ける保険は公的保険の代替型である完全医療保険と公 的医療保険を補完する部分医療保険の二つに大別されるが、完全医療保険64%、部 分医療保険15%、その他21%となっている。保険種目別の保険料ウェイトは《図表23》 の通りである。医療保険全体の損害率・事業費率推移は《図表24》の通りであるが、 最近の収支残は安定的に推移していることがうかがえる
 なお、ドイツ医療保険協会は、標準保険約款の作成、参考料率の算出、医師会や 歯科医師会との交渉により診療報酬規定の作成等を行っている。
@ 完全保険の給付内容
法律上、民間保険会社が販売する代替型医療保険の給付内容は公的医療保険の給 付内容と同等かそれ以上の内容でなくてはならない。民間保険の最大の特徴は病 院は外国でも自由に選択できかつ、医者も選択できる点である。
a. リスクの選別自営業者、高額所得を得る被雇用者は、民間医療保険に加入する か公的医療保険に加入するか選択ができる。ただし、民間保険会社の場合、リス ク選別を行うので、既に病気の人は加入できないこともありえるので、このよう な場合は公的医療保険に加入するしかない。
B 部分医療保険
完全医療保険に加入している人は、公的医療保険より給付内容が広いカバーを得 ているため、通常さらに民間保険に加入することはない。従って、部分医療保険 に加入する人はほとんどが公的医療保険に加入している人々であり、何らかの給 付内容の不足部分を民間保険で補うために加入している。
5)医療費抑制策
最近注目すべき動きとして、大手医療保険会社が医療費抑制の観点から、医療の 供給システムに自ら関与する動きがでてきている。本来、損害率が悪化した場合 には、保険料調整条項に基づき保険料アツプを図ることは制度上可能であるが料 率アツプには自ずと限度がある。すなわち、新規加入者を増やすためには公的医 療制度と比較して保険料および保障内容両面で魅力あるものに維持しておくこと が不可欠であり、この観点から増加傾向にある医療費抑制にみずから関与しよう としているものと考えられる。
ドイツの公的医療保険の改革
ドイツ医療制度の概要
医療保険福祉審議会 第8回制度企画部会議事要旨
平成10年2月10日(火)10:00〜12:00
(岡本専門委員)
○ 総枠予算制の導入は現段階では無理であり、次の段階とし て考える方がよい。ドイツでも参照価格制がうまくいかなかったので、次の段 階として総枠予算制を導入している。
○ ただし、最近ドイツの総枠予算制も行き詰まっているようで、次の方法が考えられている ということだが、行き詰まった問題点はどこにあるのか。
(事務局 石井薬剤管理官)
○ ドイツの総枠予算制は、
地域の医師会と保険者団体が契約を結び、その地域における医療費の 枠を全体の予算の中で定め、その枠を超えた部分は減額するというものである。 行き詰まった問題点とは、実際に予算の額を超えて、その分を減額する段階で、 医師会と保険者の間で厳しい議論が生じていることだと理解している。○ また、 まだ実施されていないが、今後は地域での予算の枠でなく個々の医師レベルに 何らかの制限を設けていくべきであるという議論があり、そういう流れである と認識している。


欧州3ヶ国の医療・介護分野における公的制度の最新動向と民間保険市場の現状
フランスの医療・介護分野における公的制度と民間保険市場
1. 本章の要約
フランスの医療制度は、わが国同様「国民皆保険の原則」のもと、「高福祉高負 担」が特徴であると言える。フランスの国民一人あたりの医療費、および医療費 の対GDP比は英国より遙かに高い。
(《図表12》)イギリスの制度が租税を財源とするNHSを理念としたのに対し て、フランスの制度は国民連帯の理念のもと、社会保険を基盤としている。戦前 から発展した共済制度が、現在の医療制度の基礎となっているが、それは職域単 位で構成されるものであった。そのため、職域ベースの様々な制度が複雑に入り 組んだ「モザイク」状の体系(《図表13》)となり、社会保障制度の一本化を難 しいものにしている。民間医療保険は、公的医療保険の自己負担部分を補完する 役割があり、職域ベースで一定規模の普及が見られる。
また、介護制度は1997 年に独立した制度が創設されたが、あくまで低所得者のみ を対象としたものであり、高齢者福祉制度の一部分に過ぎない。
フランスの高齢者福祉制度は、社会保障制度(医療保険・老齢年金)と社会扶助 制度(高齢者扶助・障害者扶助)が並列する体系となっており、制度間の調整が 不十分で、統一性に欠けるものとなっている。民間介護保険は1986 年に発売開始さ れたが、家族介護が基本にあるため、あまり普及しておらず、保険会社側も積極 的に販売していない。
3. 民間保険市場
3-1 民間医療保険市場
(1)市場規模
上述のように、フランス国民の99%が公的医療保険の給付を受ける一方で、全国 民の約85%が民間医療保険にも加入している。民間医療保険の内訳は、60%が団 体医療保険、40%が個人医療保険である。これには歴史的な背景があり、元来フ ランスの医療保険は職域をベースにしてお互いの共済制度で始まり、その当時は 自己負担がゼロであった。それが1945 年以降、疾病金庫という形で統合され、既 得権(自己負担ゼロ)をどのように守るかが課題となり、労働協約の中で自己負 担分を補完する民間制度が発達してきたという経緯がある。また、民間医療保険 の加入先を見ると、全体の48%が非営利民間健保会社であり、18%が保険会社、 15%が相互扶助組合となっている。
 医療費支出の内訳で見ると、1998 年におけるフランスの総医療費は7,350 億フ ランであり、社会保険からの給付が75%、自己負担が13%、民間医療保険からの給 付が13%(共済:7%、民間保険会社:3%、相互扶助組合:2%)となっている。 さらに、医療費支出の内訳を細目別に見てみると下表のようになっている。この表 からもわかるように、民間医療保険の占める割合が大きいのは、「眼鏡」および 「歯」であり、「病院」や「開業医」、「薬」などは大部分が社会保険給付でカバー されている。
(2)商品内容
 民間医療保険に対する契約者のニーズは、次の三点に大別される。すなわち、@ 患者の選択肢(個室ベッドなど)を拡大するもの、A高度先進医療のような大きな リスクに備えるもの、B患者自己負担部分を補完するものである。
 具体的な商品内容はほぼ民間保険会社共通で、@個室ベッドの利用に対する給付 など入院時の選択肢を拡大する保険、A診療・薬剤費に限り自己負担部分を補填す る保険、B義歯、眼鏡、コンタクトレンズなど公的医療対象外のものをカバーする 保険などがある。患者自己負担部分を補填する商品は、入院費用については全額を、 入院以外の費用については半額をカバーし、残りは患者自己負担が残ることになる が、前出の細目別医療費支出表からもわかるように、フランス民間医療保険の主商 品は「義歯・眼鏡・コンタクトレンズ」の自己負担部分をカバーする商品であり、 日本とは大きく異なる点でもある。
また、医療保険市場では逆選択の問題が内在している。公的医療では診療対象外の ものについても、民間医療保険ではカバーしており、加入者は最も腕がよい医師に 診てもらおうとするインセンティブがはたらく。そのため、民間保険会社では保険 期間を短期で設定していたが、保険会社は保険始期から二年経過後は保険料変更が できないという法律が制定された。AXA 社では、特に歯科保険における審査基準を 厳しく設定していたが、このために販売状況が不振となり、現在では審査の一部を 代理店にまかせるなど基準を緩和している。
(3)民間保険会社によるマネージドケア実験
フランス政府は、民間保険会社に対してマネージドケア実験への取り組みを命じて おり、AXA 社は南仏で実験を開始している。具体的には、歯科治療の医療費を抑制 するためのケーススタディを実施しており、日常的予防に注力することによってトー タルとしての医療コストが削減できるか調査している。
またGroupama 社も、特定の眼鏡販売店と提携し、提携店での購入時には15%のディ スカウントを行うといった契約形態をとって、トータルとしての医療費支出を抑制 するようにつとめている。いずれの場合においても、アメリカ型マネージドケアと は多少性質が異なっており、医療費抑制の強制力がそろほど大きいものではない。  日本でも、健康保険による医療だけでは不十分だから、全てを自由診療にて行 うというセコム損保の「自由診療保険」が始まります。欧州では、民間医療保険 と公的制度の関係はどうなっているでしょうか。
フランス の 医療 制度
フランスの「インターン闘争」見聞録
医業 経営 情報
事務局がフランスにおける総枠予算制の概要を提出した。フランスの病院制度 は公立病院が主体で総病床数の7割以上を占める。フランス議会が議決する疾病 保険の全国支出目標に沿って、フランス厚生省が病院への支出総枠と各地方へ の配分額を決定し、全国22ケ所の「地方病院庁」に支給する。各病院庁は、地 方医療計画を策定し各病院の総枠予算制を決定する仕組み。各病院は、地方病 院庁に対し、DRGに基づく病院活動報告が義務づけられており、地方病院庁は、 医療行為実演による病院ごとの相対化を図り、経営の効率化を促進する総枠予 算の設定が可能になったとされている。
フランス の 医療 制度
 さらに、総枠予算制についても期待ほどの医療費抑制効果がないことも明ら かにされつつある。また、総枠予算制の算定基礎となる病院活動に関する指標 は必ずしも実際に行われた医療行為を反映していないこと、医療行為に直接関 係しない患者サービスは算定基礎とならないこと、などのために医療サービス の質に悪影響を及ぼしうると批判されている。そのため現在、保険者のバイヤー あるいはアドバイザーとしての機能を強化することで、医療サービスの一定の 質を保持した上で医療費の抑制を図るために、アメリカ同様の管理競争を地方 医療金庫レベルに取り入れる試みも検討されている。

欧州3ヶ国の医療・介護分野における公的制度の最新動向と民間保険市場の現状
イギリスの医療・介護分野における公的制度と民間保険市場
1. 本章の要約
 イギリスの公的医療制度はNHS と呼ばれ、税金を財源として運営されている。 国民はNHS 制度の下、原則として無料で医療サービスを受けることができる。し かし救急医療を除き、国民はあらかじめ登録したGP の診療を受けねばならず、 GP の紹介を得て初めて病院をベースとする専門医の治療を受けることができる 仕組みとなっている。
 このNHS が提供する医療サービスに国民が満足する限り、民間医療保険の必要 性は低い。しかし現実にはNHS の制度が利用病院を制限し、また簡単な手術でも 数週間待たねばならないという点に国民は不便さを感じている。この不便さを避 けるために一部の国民が民間病院を利用し、さらにこの費用をまかなう目的から 民間医療保険が購入されている。
 この民間医療保険は主に非営利民間健保会社から提供され、主要な商品として PMI (Private Medical Insurance) および低所得者層向けの HCP(Health Cash Plan)がある。
3. 民間保険市場
3-1. 民間医療保険市場
 民間医療保険の代表的な商品として挙げられるのはPMI(Private Medical Insurance)である。
 次にPMI に類似する商品で低所得者層をターゲットとしているHCP(Health Cash Plan)がある。このほかにも歯科治療のみを対象とするDental Planや癌などの重い 病気にかかった場合に保険金が支払われるCritical Illness という保険も販売され ている
 なお、イギリスでは、一般的に民間医療保険および民間介護保険のLTCI(Long Term Care Insurance) を合わせて健康保険( health insurance ) あるいは医療 保険( Medical Insurance)と呼んでいる。
(4)商品内容
1) PMI
PMI は一般的に急性(acute)の怪我、病気に関する契約者の負担をカバーする。 主な担保内容は、《図表9》が示すとおりであるが、保険金支払い対象となる具体 的な費用としては外来診察、入院時に生じる以下の費用がある。
a. 内科医、麻酔医、外科医などの診察費用
b. 看護費、施設費、手術費などの入院費用
c. 理学療法、化学療法、放射線療法などの治療費用
d. 薬剤、手当用品、レントゲンその他検査費用
e. 訪問看護費、外来診察費用
現在イギリスで販売されているPMI は担保範囲に従い、以下の3種類に大別できる。
・マキシマム:入院費用および外来診察費用の全額担保
・スタンダード:入院費用全額担保、ただし利用病院の範囲に制限があり、また外来  診察にも制限が加わる
・ベーシック:入院費用全額担保、外来診察費用は原則不担保
PMI はNHS 病院と競争関係にある民間病院の利用を目的として購入されているが、 支払い対象とする費用は高度先進医療や個室ベッド代など一部の費用を除き、NHS と比較して特別な治療内容、方法をカバーしているわけではない。NHS の制度は利 用病院を制限し、また簡単な手術でも患者は数週間待たねばならないという不便さ を抱えている。先述したようにこれらの不便さを避けるために民間病院が利用され、 さらにその費用をまかなう目的からPMI が購入されている。Standard Life Healthcare はPMI について「提供するPMI が契約者の民間病院の利用を可能とし、 入院待ち、不便な予約時間、不明確な治療開始時期、そして見舞い時間制限などの ストレスから契約者を開放する」と説明している。
2)HCP
PMI が基本的に民間病院の利用を可能にし、民間病院で負担した診察、治療費用の 支払いをカバーしているのに対し、HCP は基本的に治療費そのものを負担するわけ ではなく、被保険者が入院したり手術を受けたことに対して一定額の保険金を支払 う仕組みになっている。換言すると、PMI が治療に要し、被保険者が実際に支出し た費用自体を保険金として支払うのに対し、HCP は入院などの事実に対して一定額 の見舞金を保険金として支払う内容となっている。HCP は被保険者が支出した費用 全額ではなく、その一部をカバーすることになるが、その代わり保険料もPMI の 数分の一と負担が軽くなっている。

反論

【保険医協会の見解・声明】
(緊急談話)「医療費総枠抑制」は健康と生命への脅威
2001年6月19日
大阪府保険医協会・政策担当副理事長紀野正
一部報道によると、「医療費総額の伸びの抑制」の具体化のため厚労省では、 @抑制の対象は70歳以上の老人医療費、A高齢者の増加による医療費の伸びは 認めるが、治療費などそれ以外の伸びには上限を設ける、Bこの上限を超えた 場合は、医療機関の負担とし、診療報酬単価を操作して診療報酬請求分から差 し引く、などが検討されているという。経済に対して医療費が増大しすぎると いうが、国内総生産に対する国民医療費の比率は7.2%で、OECD加盟先進 国中21位(97年)という水準に止まっている。
第2回「医療改革フォーラム」福岡市で開催
2001/07/14
医療費総枠制導入に反論
もう一つの基調講演の石原謙愛媛大学医学部教授は,日本の医療は医療人の ボランティア精神と犠牲に依存しており,今の医療の現場では生死をかけると ころまで来ていることに理解を求め,「持続可能な医療体制のために」国は戦 略的成長事業として医療に投資すべきと訴えた.
次に,小泉首相が議長を務める「経済財政諮問会議」の基本方針原案に盛り 込まれた「医療費総額の伸びの抑制」に議論を移し,糸氏副会長は,「総枠抑制は,良質な皆保険制度を崩壊する危険性がある」と,安易な総枠管理の導入に懸念を示した.全国町村会長の山本添田町長も,「総枠抑制は考えられない. すべきではない」と発言した.