総合医について

2008年7月12日


日本版マネジドケアの完成
 医師を総合医(開業医)と専門医(勤務医)にわけて階層化して、制度化することで医療供給体制を整理する。トータルとしては、国家医療情報ネットワークNHINで個人と医療機関を徹底管理する。それによって、患者さんの行動や医療の無駄=医師の不徹底を取り除き、矯正して、医療費を抑制する。発生源入力ならぬ、発生源から撲滅しようという発生源撲滅作戦。焦土作戦です。オーウエルの1984年どころではない、地域の個人の生活管理までする訳ですから究極の管理国家像です。

管理医療
 管理医療は医療においては様々な方面で使われます。患者さんの管理強化を行うための制度としては特定健診、総合医などがあります。医療における、他の動きに関しては参考資料を参照ください。

総合医とは。
 一医療機関への患者登録制が制度の基本です。人頭制といいます。患者さんは特定の1人の総合医に登録します。すべてその総合医との相談の上でなければ、原則、他医療機関受診はできません。患者さんを医師の完全コントロールの元におくために、制度により様々な受診抑制をかけられます。現在のように、自由に医療機関にかかることは困難になりますので、患者さんにとって著しく利便性の低下になるものといえます。


総合医による徹底した患者さん管理医療
人頭制;患者登録制=総合医による一人主治医制度は、患者さんのかかえこみにより他科受診を抑制する
 総合医による一人主治医制は、現在の、患者さんが医療機関を自由に選んでいる受療形態を、医療の無駄を除き、かつ患者管理を徹底するために制限します。特定健診にみられるような、いわゆる管理医療的な考え方です。それにより医療費削減を図る。

導入理由
1)医療費削減:医療の無駄を除く。
2)簡単な病気でもかかるコンビニ批判
  軽症トリアージは患者さんには無理であるから、専門医受診を制限する。全て総合医を通す。
3)多数主治医による無責任医療
  患者さんを一人の主治医が集中管理すべき
 患者さんの管理を行うために総合医と患者さんで1対1の関係を制度化する。総合医による管理を徹底するために、患者さんが他院に受診するのを様々に制限する必要がでてきます。


総合医導入による様々な制限
 患者さんは、救急の場合を除き、まず地域の診療所に出向きそこでGP(General Practitioner:総合医)から必要な医療を受ける。専門医への紹介が必要な場合には、他の病院や専門施設を紹介する。GPは英国のプライマリケアを担う「家庭医」であり、PCTと契約を結び、診療所では複数のGPがグループ診療をしていることが多い。NHS医療を受けるためには、住民は必ず地域のGPに登録しなければならないので、専門的な治療を受けたい場合でも、GPの紹介がなければ長期間待機などかなり手間取ることになる。

1)登録制;総合医と患者さんの間で1対1の関係(主病は一つ、主治医は一人)を作り医師に管理責任を持たせる。患者さんを徹底管理教育する。
2)フリーアクセス制限;まず総合医を受診させる。専門医は不可
3)予約制;いちいち予約を取る
以上で他科への受診を極力制限する形でこれで総合医が患者さんの完全管理=コントロールができる。


実際の導入後のイメージ
 現在の保険診療で、似ているのは人頭制準備モデルである後期高齢者管理料(主病は一つ、主治医は一人、主算定機関は一つ)と「入院中の他科受診制限規定」です。「主治医は一人」はちょうど入院中の患者に比定されます。入院中の患者さんの他科受診は厳しく制限されています。参考文献に挙げておきましたので、他科受診がどの程度制限されるか参考にしてください。

イギリスでの総合医の状況
1)一人で開業する形態はほとんどない;現在の開業医の絶滅
家庭医の約5分の4が、診療活動に関して複数の家庭医が協力するグループ診療を行っている。一人で全ては事実上無理ということであろう。一人開業は10%以下というデータもある。日本はグループ診療はほとんどない
2)GP一人あたり登録患者は約1,000-1500名。
3)シングルであればまず零細となる。家族経営であるところも少なくありません。
4)患者さんは自由に通院先のGPを選択できますが、一旦決めたら、引き続きそこに通うことになります。
5)患者さんは、専門医による治療を阻まれると思うことが多い。
6)GPと専門医とのコミュニケーションが大変悪い


日本で予想される状況
1)登録される予想患者数は最大で1200名/一医療機関です。他国に比べて著しく少なくなると思われます。
2)登録された患者さんが全て受診するわけではありません。有病率は3割程度です。
3)診診連携の激減;主治医は一人ですから重複受診はほとんどなくなります。
4)他院受診は原則転医となると予想されます。入院中の他院受診規定より類推。
日本人口/医療機関数=1億2千万/10万件=1200名/1医療機関
レセプト枚数/日本人口=18億枚/1億2千万=15枚/1人
レセプト枚数/医療機関数=18億/10万=1800枚/1医療機関


まとめ
1)他科受診制限。

 登録制による他科の受診制限は如何なものかと思います。「患者さんはご自分で信ずるかかりつけ医に自由にかかる権利がある」はずです。診診連携や病診連携が否定されれば質の低下も起こります。
2)非効率
 いちいち予約を取るのは、はなはだ効率が悪いと思います。予約は本来制度ではなく、各医院の裁量で行えば良いはず。当院ではすでに行っていますが面倒とかで、ほとんどつかっていただけません。イギリスは結果として待ち時間の増大となった。
3)キャリア交流や人事交流がない。
 現在の日本の開業制度は、専門医が開業して、専門医と開業医の相互のキャリアの移動や交流があり、地域連携で診診連携や、病診連携で、いわば地域のチーム医療で対処している制度です。しかし総合医を導入して、GPと専門医を明確にはじめから養成コースを分ければ、専門医=勤務医と総合医=開業医はキャリアの移動や、人事交流はなくなります。また、総合医が、いわばタコツボ的に、患者さんかかえこみで、診療しますので、いわゆる診診連携はほとんどなくなると思われます。病診連携だけとなる。しかもキャリアの移動や人事交流がありませんから、イギリスのように、開業医と勤務医の相互のコミュニケーションが悪くなるのは明白です。
4)患者さんの反発
 医療機関の受診に当たっては様々な制限がかかる。このようなシステムが、自由に受診できる、今の医療に慣れている患者さんに受け入れられるとは到底思えません。当然かなりの反発が出るでしょう。受診抑制をかけたガチガチの管理医療です。参考文献にあげた健保連アンケートでも患者さん側からは否定的な結果がでています。日医も検討はしている様ですが、現時点では国民各位も望んでいない制度です。慎重なる対処を願いたいものです。

管理医療:日本版マネジドケア
以下の様々なうごきと緊密に結びついて、総合的なシステムが構築されつつあります。
1)日本版マネジドケア:日本における管理医療のための総合システムデザイン。
2)国家医療情報ネットワーク「NHIN」データベース化
3)社会保障カード:データ一元管理の方策
4)レセプトオンライン化:保険者機能強化
5)疾病管理プログラム:患者管理強化
6)総合医について:患者管理強化と開業医の管理強化
7)専門医制度と報酬:成果主義批判:専門医制度の確立による、医師の階層化と管理強化


参考文献
後期高齢者管理料について
http://www.orth.or.jp/seisaku/siryou/kaitei/h20/syubyou2.html
入院中の患者の他医療機関ヘの受診
http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1d.pdf
総合医の実際
英国(UK)におけるWBLの実際
http://www.gifu-cn.ac.jp/studysupport/international/h16_1.html
医療を受けたい利用者は、救急の場合を除き、まず地域の診療所に出向きそこでGP(General Practitioner)から必要な医療を受ける。専門医への紹介が必要な場合には、他の病院や専門施設を紹介するのである。GPは英国のプライマリケアを担う「家庭医」であり、PCTと契約を結び、診療所では複数のGPがグループ診療をしていることが多い。NHS医療を受けるためには、住民は必ず地域のGPに登録しなければならないので、専門的な治療を受けたい場合でも、GPの紹介がなければ長期間待機などかなり手間取ることになる。
岡部陽二のホームページ
http://www.y-okabe.org/interview/ihepgp_1.html
医療に関する国民意識調査平成19年11月20日健保連
http://www.kenporen.com/press/detail.php?id=20071121100507
日医;地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師(いわゆる総合医・総合診療医<仮称>)の認定制度
http://www.med.or.jp/doctor/sougou/