不正請求とは(医師の倫理感)2001/07/23(初出2001/07/07)
本田整形外科クリニック 本田忠
マスコミ報道
指導や監査では、不正請求はもちろん含まれるわけですが、その他にもいろ
んな要因があるわけです。にもかかわらず、報道で以下のようにすべて「不
正」と断ぜられると、いささかおかしいという気はしますね。それほどお医者
さんの不正が多いのでしょうか?
毎日新聞1998年12月11日医療費不正請求:
厚生省、60億3800万円返還命じたと発表
厚生省は11日、1997年度に保険医療機関や保険医を対象に行った監査・
指導結果を公表した。診療報酬の不正請求などを理由に返還を命じられた医療
費は過去2番目に多い約60億3800万円に上り、悪質な41人の医師・歯
科医師が保険医の登録を取り消された。今回は大阪府の安田病院グループが約
9億円を不正請求した例を含め、看護職員の水増しによる事例が6件と目立っ
ている。
返還命令額の内訳は、意図的な不正請求と認定したのが約35億2400万
円、診療報酬請求方法の誤りによる不当請求が約25億1300万円。今回の
返還額は「ミドリ十字」社の未承認放射線検査薬を使った不正請求が多額に上
った89年度の約69億円に次ぎ2番目に多い。
参考文献
Mainichi Interactive 記事 全文
1998年12月11日
医療費不正請求
読売新聞・毎日新聞の『不正請求』記事に対する我々の見解
玖珂郡医師会
報道チェック(吉村内科医院)
では何故おかしいと感ずるのか、以下に理由を考えてみましょう。またその
実数を検証してみます。
医療保険の仕組み
日本は国民皆保険制度であり,医療行為に対して,保険者と患者本人)が分担し
て、診療費を支払うことになっています。その割合は保険によって異なります。
また保険組合の支払方法は「出来高制」と言います。これは医療機関が行った
診療行為を点数化し,請求用紙(レセプト)に記入して,診療報酬支払基金に提
出します。支払基金は医療費の審査機関であり,適切と認められれば保険組合
に請求書が回されます。保険組合でもう1度チェックを受けた後に,診療報酬が
支払基金を通じて医療機関に支払われるという仕組みです。ちなみに,病院の
収入=患者の負担+国保連合会(支払基金)となります。
語句の説明
出来高制
個々の診療行為を点数化して患者ごとに1ヶ月分をまとめて診療報酬を国に請
求するシステム。1点10円で医療機関側には審査の上,請求から2ヶ月後に支払
われる。
診療報酬請求書(レセプト)
「医家診療の手引き」の点数に従って,診療内容や検査,処置,手術,投薬と
いった項目ごとに分けて診療報酬を請求する請求書。
療養担当規則
医師は保険診療を行う時はこの規則に縛られます。あくまで保険診療は、保
険者との契約である。2000ページを越す膨大なもので、日常の医療行為の
隅々まで規定されております。いわば医療の法律。その条文では、この規則は
必ずしも最新の医療とは違うこと。実験的な医療は認められないと明記されて
おります。このために医療現場では、いろいろな問題が起こります。
保険審査委員会
診療報酬請求書が厚生省が定めた療養担当規則に則って請求されているかを
審査する委員会。規則に違反したり,間違っていると査定される。委員会の委
員は厚生省の出先機関である支払基金事務所から依頼された医師がなる。
保険者と被保険者
同じ職種の人々(国・市町村、企業)が出資してつくった組織を保険者(保険組
合)といい,出資者を被保険者という。保険組合の仕事は,(1)被保険者から保
険料を徴収し保険証を交付する,(2)被保険者が医療機関を受診したときその費
用の70%を支払うことなどです。
○審査の仕組み
審査とは
医療機関から提出されたレセプトを定められた治療と照らし合わせることで
不必要な医療費の支払いを防止し,公正に医療費が支払われるようにするもの
審査では
レセプトに記載されている診療内容について,療養担当規則などの定めによ
って行われているかを審査する。診療内容が適切でないと判断されたら減点し,
診療行為の適否判断が難しいものには医療機関に差し戻して再提出を求める。
審査の問題点
審査委員会では,レセプトに基づいて行うため,適切でわかりやすいレセプ
トが必要である。医学的に適切であっても,保険制度上支払いの適応がないも
のは審査にて減点になる。
審査の方針
診療行為の種類・回数・実施量について療養担当規則に照らして,不当と認
められるかどうか。
○査定と再審査請求について
査定・再審査の流れは,
患者の支払いの残りを国保連合会に請求する(レセプト提出)
不備があると支払われない(審査)→正当な場合ここで支払いがなされる
病院に戻ってくる
正当な理由があると再び請求できる(再審査)
査定の際,減点の対象となるもの
適応外……「病名もれ」,「臨床上保険適応とならないもの」など
過剰……常用量以上の投与,多剤投与,高価薬投与,頻回検査など
重複……薬効類似薬品の同時投与,薬効類似の内服と注射など
規則違反……禁忌,不適当,用法外使用など
不必要と認めるもの。
○保険医の指導と監査
○指導について
保険医は健康保険法43条ノ七により厚生大臣または都道府県知事の指導を受
ける義務がある。これについては現在,社会保険医療担当者指導大綱(厚生省)
に基づき,毎年各都道府県の出す方針により保険医の指導が行われている。指
導の対象は全ての社会保険医療担当者であり,特定に機関に限っているのでは
なく,その点,不正,不当の疑いの濃厚な機関に対して行われる監査とは明確
に区別される。
大綱指導
平成8年度から,約40年ぶりに指導大綱並びに監査要綱が大幅に改正された。
目的
保険医療機関等又は保険医等に対して行う,保険診療及び診療報酬請求に関
する指導について基本的事項を定めることにより,保険診療の質的向上及び適
正化を図ることを目的とする。
指導方針
指導は保険医療機関等及び保険医等に対し,保険診療の取扱い,診療報酬の
請求等に関する事項について,周知徹底させることを主眼とし,懇切丁寧に行う。
指導対象の選定
指導は原則としてすべての保険医療機関等及び保険医等を対象とするが,効果
的かつ効率的な指導を行う観点から,指導形態に応じてそれぞれの基準に基づ
いて対象となる保険医療機関等又は保険医等の選定を行う。そのために,地方
社会保険事務局に,地方社会保険事務局長が指名する技官及び事務官等を構成
員とする選定委員会を設置する。また,選定委員会には都道府県の職員も参加
することができる。
指導形態
厚生省又は地方社会保険事務局及び都道府県が,次のいずれかの形態により,
指導対象となる保険医療機関等を一定の場所に集めて又は当該保険医療機関等
において個別に面接懇談方式により行う。
集団指導
指導対象となる保険医療機関等又は保険医等を一定の場所に集めて,講習
等の方式により行う。
集団的個別指導
指導対象となる保険医療機関等を一定の場所に集めて,個別に簡便な面接懇
談方式により行う。指導大綱により、診療報酬明細書の1件当たりの平均点数
の高い保険医療機関に対し、集団による指導及び個別面接懇談による指導など
教育的観点から指導する。対象は1件当たり平均点数の上位8%のうち、前年
度に指導を受けた医療機関を除外。対象者を一堂に集め、高点数であることや
療養担当規則などを約1時間程度指導する。
新規指定の集団指導
平成9年7月2日から新規に開業した医療機関に対し、開業後六か月を経過
した頃に教育指導する「新規指定個別指導」が実施されている。保険医療機関
を一堂に集め、約2時間ほど療養担当規則やレセプト提出の注意事項などを指
導する。
個別指導
不正請求の防止を最優先に個別指導を実施する。対象医療機関の選定は
厚生省通知「保険医療機関等に対する指導及び監査の取り扱い」に沿っている。
個別指導が求められる8項目の事由は、
1.支払基金など保険者、被保険者から診療内容または診療報酬の請求に関す
る情報の提供がある。
2.個別指導の結果、「再指導」「経過観察」であって改善が認められない
3.監査の結果、戒告または注意を受けた
4.医療監視の結果、問題があった、
5.検察または警察からの情報で指導の必要性が生じた。
6.他の保険医療機関の個別指導または監査に関連して指導の必要性が生じた。
7.会計検査院の実地検査で指導の必要性が生じた。
8.1件当たりの点数が高い。
8項目の事由による保険医療機関の4%。病院5件程度、診療所が25件程度
が対象。
実施方法は指導月以前の連続した2か月のレセプトに基づき、カルテその他
関係書類を閲覧し、個別面接方式で行う。病院は県の指導医療官が直接出向き、
診療所は公的施設で行う。いずれも1医療機関約1時間半程度。
○監査
平成十年度の指導・監査は、それぞれ「指導大綱」「監査要綱」に沿って実
施され、このうち「監査」は、診療内容、診療報酬請求に不正または著しく不当
が疑われる保険医療機関、保険薬局を対象に行われるもので、
保険医療機関の指定取消
保険医の登録取消
戒告
注意
といった処分が決定される。
参考文献
保険診療のしくみ,審査・査定,保険医の指導
集団的個別指導奮闘記
厚生省・大阪府の特定共同指導
○ではどれくらいの発生しているのか?
○査定
厚生省は、1995年度の社保と国保の査定額は3,222億円と公表した。
この査定額が全て、過剰とか、不必要な医療費とはいえない。被保険者・扶養
者の資格過誤や、複雑な診療報酬請求事務の仕組みのためにおこる事務的ミス
その病名漏れているなどというミスが多い。また逆に本来は請求できるにもか
かわらず請求しない単純な請求漏れも多い。
査定が起こる原因
1)診療報酬が、改定の度毎に複雑になり、またその解釈を大幅に変更したり
すること。
2)厚生省の通知が出されてから、実際に診療するまでの周知期間が一月足ら
ずしか設けられておらず、しかもその後に再度解釈が変更されるなどの診療報
酬改定のありかたにある。
3)医学の常識とあわない面もある。
点数表や医薬品集の適応症などと診療報酬明細書を機械的に照らしあわせ、
その明細書の内容がそれらと合致していなければ、削るという、医学常識や
医療の実態を無視する内容も一部にみられる。
不正請求とは
医療費不正 ・ 過剰請求報道についての保団連の見解
○指導と監査
厚生省によれば平成10年度における保険医療機関等の指導及び監査の
実施状況(医師、歯科医師、薬剤師含めての数字です)
1)個別指導実施した保険医療機関等は2,884件 、保険医等は7,40
6人
2)新規指定個別指導の実施した保険医療機関等は3,269件 、保険医等
は3,850人。
3)集団的個別指導の実施した保険医療機関等は、9,296件。
4)監査は医療機関50件。保険医は68件
返還金額の状況
○返還金額は58億5,108万円であった。
・指導による返還分 26億5,231万円
・監査による返還分 31億9,877万円
監査においては当然不正請求が多いわけですが、査定と同じく、単純には意
図的とは言い切れない、制度の無知や見解の相違等のものも多くあります。
○取消をした保険医療機関等は25件、保険医等は24人であった。
具体的な事例はすべて下記で公表されております。調査等により意図的な不
正請求等で悪質だったところは当然処分を受けるわけですが、その数は1年で
50件程度。これが多いのか少ないのかは、判断は留保しますが、医師数だけ
で25万人いますので、きわめて少ないとは思っております。医師の社会的責
任は大部分の医師においては、かなり保たれているといってよいのではない
でしょうか。
平成10年度における保険医療機関等の指導及び監査の実施状況について
○参考文献
過誤請求と不正請求−沖縄県医師会
医療機関への指導のほとんどが担当規則をよく理解していないかあるいは単
なる入力ミスが対象になっており,“医師の倫理”に反する行為はほとんどみ
られない。保険診療では規則を知らないがために行われた行為と,規則違反を
意識的におこなった行為とは明確に区別しがたい。従って両者には決定的に大
きな違いがあるにもかかわらず,“不正行為”として報道されるところに問題
がひそんでいる。レセプト上の過誤請求は日常茶飯事である。これはおおかた
医療機関が保険診療上の規則を理解していないことに起因している。しかし報
道機関は過誤請求と不正請求との区別なしに,医療機関の不正行為としておお
やげにする。良心的な診療をしながら,保険診療上は批判の対象になる行為は
少なくない。
医療保険はあらためて述べるまでもないが,保険財政にうらうちされた契約
診療であって,医学的根拠のみで対応していると,療養担当規則に反する行為
になりかねない。過誤請求をなくすためには,保険診療上の規則の理解が最も
必要で,医療保険は医学的根拠に乏しいなどと軽視すべきではない。不正請求
は勿論論外であるが,医療機関ひいては医師の社会的評価をさげないためにも,
不正請求と混同される過誤請求を最小限にくいとどめる努力,すなわち保険診
療への理解をたかめる努力をおこたってはならない。
マスコミの誤った報道には抗議を
医療費2000億円払いすぎ
マスコミの言う不正請求について
医療保険福祉審議会
第10回運営部会議事要旨
開業医のつぶやき
医療費領収書請求運動