民間保険導入論批判2001/10/8

本田忠


皆保険制度は維持すべきである。混合診療は容認すべきではない
混合診療を導入すれば、民間保険が受け皿となる

医療を民営化した場合の問題点
 皆保険制度は、患者の保護を目的として設けられたものであり、患者の発生が避けられない社会の安全ネットとして有効に機能している。これを廃止した場合、無保険者の増加が避けられず、さらに、現在の高齢化社会の進行を考えれば、今後とも、確実に維持していくことが不可欠な制度である。
 強制保険ではあるが、我が国のような皆保険制度のない諸外国では、無保険者率が、米国では30%に達している。強制保険制度を有効に機能させていくためには、確実に機能させていくことが必要である。
 このように、現在の皆保険制度を変更した場合、医療機関よりもむしろ国民に対するデメリットが大きくなると考えられる

1)保険料が上昇し、患者さんの負担が増大する
・日本と欧米先進国の医療費を比較すると、日本の医療費は、安い皆保険制度が基本保障制度として存在していることもあり、低い水準にとどまっている。
・民営化した場合、国民の皆様が、新たに保険会社の利潤、税金、事務コストを負担することにより保険料の上昇は必至である。

2)患者の保護(適正な保険金支払)が大幅に後退する。
・現在は保険金の支払をめぐる保険者と患者の利害が本質的に相反する中で、政府が皆保険制度を背景に監督し、適正な保険金支払を確保している。
・最近、アメリカでは、保険会社の保険金支払の不公正さが社会問題化した患者権利法案が提出された。
保険金支払の適正化を担保するためには、公的制度であることが必要で民営化は、患者への保険金支払に支障を生ずることにつながる。
・現在でも、交通事故をめぐる訴訟のほとんどは、任意保険関係である。

交通事故に係る訴訟件数 

自賠責保険に係るもの

その他

7,466(100%)   

69(0.9%) 

6,997(99.1%)

(平成9年度) 


3)保険金支払の公平性が崩れる。
・健康にに係る基本的保障を目的とする皆保険制度の趣旨を担保するため行われている政府皆保険を前提とした統一的支払基準の維持、基金による一元的な監査指導が不可能となる。
・基金に一元化すれば、保険会社によって査定基準がバラバラになることを防げる。

4)無保険者が増大する。
 自動車の任意保険の加入率は保険料が年間5万円前後でも、15−30%は加入していない。医療保険においては保険料はもっと高額になる。
・現在の皆保険制度は、一種類の強制保険であるため、更新時における「保険付保」のチェックが可能。
・民営化すれば、さまざまな種類の保険が生まれてチェックは不可能になり、無保険者が増大することは必至。
(注)民間医療保険の要件は、保険の種類ばかりでなく、契約者によっても異なるのが通常。これらについて、現在のような方法で保険金支払限度額、支払要件等を個別にチェックすることは不可能。可能にするためには、膨大なコストの発生、保険料の上昇が不可避。

5)保険会社破綻時に、患者(保険契約者)の保護に支障が生じる。
○医療機関に対して
・保険料負担増による受診抑制が起こる
・保険会社の値切り交渉が起こる。不払いもある。訴訟も増加する。

○参考文献
任意保険の種類
現在の加入率は約70%、共済を含めると85%です
自賠責保険の民営化に係る考え方
自賠責保険の民営化(政府再保険の廃止)が不適当な理由
平成10年11月12日運  輸  省
個別の論点に関する検討