保険者との直接契約2001年10月5日
本田忠
朝日新聞記事抜粋2001/09/17
診療報酬の割引契約に道を開くことは、健保組合や経団連などが、かねて要求してきた。日本医師会は「患者の自由な医療機関選択を妨げる」と反対しているが、導入されれば、健保の加入者が決められた医療機関にかかった場合、治療費の総額や自己負担が安くなることになる。
なるほど、患者さんにとっては、一見、お得な制度になりえますね。名案かもしれない。しかしこれは患者さんのフリーアクセス権と公平性の侵害となりますか。
保険者との直接契約は、以下のような問題を含むことになります。
1)患者さんにとっては不平等となる。
保険者が特定の医療機関を選別する。そこだけ安く受診できる。本来なら、基準としては、医療の質と、医療費の安さの二つがあるはずですが、当然、医療費削減が目的ですから、保険者は、医療の質は二の次にして、自分のところの医療費を安く抑えてくれる、医療機関を選ぶことになる可能性がある。その結果医療の質が低下する可能性がある。
また値段は、医療機関と保険者間の力関係で決まることになる。参加者の多いお金のある保険者は、有利な条件で病院と契約できる。力のない加入者の少ない保険者は不利な条件で病院と契約する。患者さんが、よい保険者を選べない現状で、患者さんの間で不平等が生ずる。また経営の不安定な貧乏な保険者は、医療費の支払いが渋くなり、被保険者は満足な医療を受けられない可能性がある。
有利な患者さんと値段が違えば、貧乏な保険者の患者さんは納得されない。貧乏な保険者は立ち行かないことにもなるでしょう。保険者間の格差が目立つことになり、「フリーアクセス」と「公平性」という医療保険の大原則が崩れる。自由に保険者が選べない状況で貧しい保険者のところの患者さんは大変。これはいわば大企業の論理を強く感ずる。
2)審査権を保険者に与えれば、公平性が担保されない
医療機関や患者さんの生殺与奪権は、保険会社が握ることになる。アメリカのマネジドケアそのものである。
まず医療機関は安くしないと契約できない。したがっていわゆる医療機関においては、委縮診療となる。安くするために、必要な医療もしない可能性がある。医療の質の低下が起こる。
審査の結果、未払と決まれば、未払部分は医療機関は、当然、患者さんに請求することになる。審査内容に不服ならば、医療機関も、患者さんも保険者相手の訴訟となる。利害の相反する立場の直接対決になる。現在は公的な第3者機関である、審査委員会というのがあって,公平性は担保はされている。審査委員構成は三者構成(公益代表・診療側代表・支払い側代表)となっている。この制度がかろうじてトラブルの増加を防いでいる。
公平な第3者機関がなければ、患者からあるいは医療機関からの訴訟は急増する。
○交通事故の任意保険のトラブルの率
現在でも、交通事故をめぐる被害者からの訴訟のほとんどは、任意保険関係
(平成9年度)
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交通事故に係る訴訟件数
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自賠責保険に係るもの
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その他(任意保険)
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7,466(100%)
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69(0.9%)
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6,997(99.1%)
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アメリカは、最近やっとオンブズマン制度と、患者保護法を作ったわけです。しかし同様の制度としては、すでに日本には支払基金という特殊法人と審査委員会という制度がすでにあるわけです。歴史は繰り返す?
3)インフォームドコンセントと相入れない
アメリカにおける医療警察PRO(PeerReviewOrganization)は、特定の疾患については入院の必要性を事前審査するとともに、適切な医療が行われたかどうかについて退院患者のカルテを抜き取り審査をする。
・「不必要な入院」「不適切な医療」についてはメディケアの支払いを拒否するとともに、悪質な医師・病院をメディケアから排除する権限も与えられ、メディケアにおける「医療警察」としての役割を担わされたのである。
・患者の自己決定権(=自分の体・自分の命について決定を下すことができるのは患者本人しかいない)という、患者の人権の中でも最も基本的な人権を尊重しようとするならば、医療者はインフォームド・コンセントの原則に忠実でなければならない。
・マネジドケアの利用審査は、「患者のXという状況にはYという処置をすればよい」と、医療におけるディシジョン・メイキングが自動的・器械的に決められるという前提で運営されている。
事前審査でも事後審査でも同様ですが
・患者を診、文献を調べ、患者と話し合うというプロセスを経た後に作成された治療プランに対して、一度も患者を診たこともなく、また患者と話したこともない保険者の審査官が「医学的必要性が認められないので保険給付をしない」と、電話の向こうから医師と患者とが合意したインフォームド・コンセントを反故にするのが利用審査の制度なのである。
朝日新聞記事全文
レセプト審査、民間に開放(厚労省)
厚生労働省は、医療機関が発行する医療費明細書(レセプト)の審査を、特殊法人の社会保険診療報酬支払基金が事実上独占している現状を改め、健康保険組合など保険の運営者による直接審査を認める方針を決めた。今年度中の実施を目指し、今月末に公表する医療制度改革の原案に明記する。また、02年度以降には、保険の運営者と医療機関が個別契約を結び、治療行為の値段である診療報酬を割引できるよう、必要な見直しをすることも打ち出す。規制改革を進める小泉政権の路線に沿ったものといえる。
健康保険や共済などサラリーマンの医療保険制度の加入者のレセプトは、医療機関から社会保険診療報酬支払基金に送られ、そこで過剰請求の有無などの審査が行われる。48年の国の通知で、健保組合は基金に審査を任せることとされ、直接審査は事実上禁止された。
これに対し、健保組合や経済界は「チェック機能の強化」の点から「通知」の廃止を要求。今年に入って、政府の経済財政諮問会議や総合規制改革会議、行政改革推進事務局も見直しの必要性を指摘した。厚労省は、「膨大な量の審査は基金が一元的に行う方が合理的」と反論しながらも、健保組合などと医療機関との合意があった場合には、原則として直接審査を認めざるを得ないと判断した。民間の審査事業者の参入も検討する。
また、診療報酬の割引契約に道を開くことは、健保組合や経団連などが、かねて要求してきた。日本医師会は「患者の自由な医療機関選択を妨げる」と反対しているが、導入されれば、健保の加入者が決められた医療機関にかかった場合、治療費の総額や自己負担が安くなることになる。
(09/17)asahi.com
参考文献
自賠責保険の民営化に係る考え方
個別の論点に関する検討第2章個別の論点に関する検討
「21世紀に向けての医療制度改革」
医療経済学を学ぶための経済学の基礎知識
医療経済学第8回ミクロ問題−診療報酬システムをどう変えるか?(3)
医療経済学第8回ミクロ問題−診療報酬システムをどう変えるか?(3)
保険者機能の強化2001/07/19
第12回規制改革委員会議事概要
「米国医療の光と影」李啓充著医学書院ISBN4-260-13870-72000円)