保険者機能の強化2001/07/19初出、2001/08/06

本田整形外科クリニック 本田忠


現在の医療費審査システム
  医療機関は患者を診察するとその処置や薬の内容と金額を記載したレセプトを発行、それをもとに健保組合などの各医療保険制度が医療費を支払う。レセプト枚数は年間7億5,000万件にのぼる。全国約20万の保険医療機関等と約1万3,000の保険者 等との間における、審査支払い事務は、被用者保険については、特殊法人の「社会 保険診療報酬支払基金」で、その内容に問題がないかを審査する。国保については国保 連合会で行う。従って、第一次審査が支払基金及び国保連合会で行われている。 支払基金は約六千五百人の人員を抱える。人海戦術で紙のレセプトの一枚一枚を手作業でチェックする体制を敷いている。レセプトの電算化率は0.4%である。
健康保険法では健保組合がレセプト審査を支払基金に委託するよう義務付けてはいないが、一九四八年の厚生省(当時)保険局長通達によって、まず支払基金が審査する体制ができあがっている。

政府案
 政府の総合規制改革会議(首相の諮問機関)は十三日、医療と労働分野の改革 を柱とした中間報告案を固めた。
1)医療の効率化を目指して診療報酬明細書(レセプト)を年内に原則として電子化、
2)保険者によるレセプト審査や民間事業者への事務委託を促進する。
 医療分野では、病院が診療報酬を受け取るために発行するレセプトの審査業務 などについて、特殊法人の社会保険診療報酬支払基金がほぼ独占している現状か ら、保険者である健康保険組合や民間事業者への開放を進める。
3)保険者と医療機関の直接契約による診療報酬の引き下げ(今秋)

1)電子化について
 妥当ではあるが、現実的な案ではない。レセコンの無償配布などの経済的インセ ンティブをつけるべき。また審査委員会を通さないと、経済的査定が優先され、 必要な医療まで削減され、医療の公平性が担保されないのではないか。
厚労省
システムの導入コストがかさみ、中小医療機関の経営を圧迫(厚生労働省)。 現在、全レセプトに占める磁気レセプトの割合が0.4%にとどまっている現状で、一挙に普及を図ることは実際上困難。
原則電子化したとしても、例外的な紙による請求が残り、実態上は改善しない。
レセプト電算処理のメリットを示すこと等により医療機関の自発的な参加を促 すことやより使いやすいシステムに改善してしていくことが先決。

2)レセプト審査は一元的に実施したほうが効率的
保険者直接審査というが、レセプト枚数は年間7億5,000万件にのぼる。全国約20万の保険医療機関等と、約1万3,000の保険者等との間で直接契約するなら、無床の医療機関である当院でも、100個程度の保険者がいる。病院クラスなら1000件は越すであろう。それにすべて別々に郵送するのか?事務の煩雑化は耐え難いと思われる。レセプトの電算化も行われていない現状ではまず事務が大変である。
また査定委員会を残さないなら、審査の公平性はどこで担保されるのか。保険者と医療機関の訴訟が多発する
厚労省の意見
【野口委員】厚生省に確認するが、保険者によるレセプトの一次ェックができ ず、支払基金がやるとする法的根拠は何か。
【厚生省 辻審議官】法律上は、支払基金に委託することができるとされている。 しかし、現実問題としては、多くの医療機関、多くの保険者、多くの被保険者 の間で医療費の決済を一挙にやって、現実に皆保険が動くようにするためには、 被用者保険については支払基金、国保については国保連合会で一括してやらざ るを得ない。従って、委託する中で、第一次審査が支払基金及び国保連合会で 行われている。
【野口委員】法律はないが、行政指導によって行われているということか。 【厚生省 辻審議官】現実にそうでなければ業務が動かないということである。 それを前提にして運用を行っている。

3)保険者と医療機関の直接契約による診療報酬の引き下げ(今秋)

平等に医療を受ける機会を阻害
日本医師会
保険者が医療機関を指定してということであるが、格付けの問題をどうするの か。これも非常に評価システムが難しいところであり、一番問題なのは、指定をすることによって患者のフリーアクセスがなくなってくるということである。
厚労省
 医療機関や保険者の選択を可能とするシステムの構築についてであるが、現 行の医療保険制度は個人のリスクに関係なく、一定の負担で必要な医療を受け ることができることを特徴とするもので、医療機関へのフリーアクセスを確保 している。保険者による医療機関の選択や被保険者が保険者を選択することに は、種々の問題がある。保険者が医療機関を選択する仕組みを構築すると、保 険者が一部の医療機関とのみ契約を結び、全国に居住する被保険者やその家族 が保険診療を受けることができなくなり、フリーアクセスの保障、公平な医療 の保障に反しないかという問題がある。他方、被保険者が保険者を選ぶという ことについては、公的医療保険制度は、保険料をリスクに応じて決める私保険 のような考えは採られていない。その中で、被保険者が保険者を選び、それを 保険者は拒否できないとなると、賃金の低い人、年齢の高い人が集中した保険 者の財政は、成り立たなくなる。従って、被保険者が保険者を選択するドイツ の仕組みと同様に、年齢・賃金の違いについて保険者間の財政調整の仕組みが 必要になる。その問題点を克服するためには、国民的な合意が必要であり、現 時点では慎重な検討が必要と考える。


4)保険者の非効率と非選択性問題
日医
保険者が、それぞれの財務情報の整備を行うべきであると私共は主張している。 財務諸表の整備が全くできていないというような、考えられないことが起きて いる。また、財務データの公開も、組合健保に至っては公開までに2年かかる し、国保に至っては、不親切な記載、記載ミスがあり、とてもこれでは、本当 にその保険者が健全な財政状況にあるのかどうか評価ができない状況にある。 保険者機能をどうやって適正に評価するかということも重要なポイントである と考えている。
保険者機能の強化については、医療側を選択すること等が言われるが、今の保 険者が機能を果たしているかどうかを質、効率性の両面から見直すことが保険 者機能の強化ではないか。医療機関側に競争をと言うが、はたして今、保険者 間に競争があるのかということ。被保険者は保険者を選択できないということ。 入れる保険は決まっており、どこかの保険組合がいいからと言ってそちらの保 険には入れない。そちらの観点からも保険者機能について考えてみるべきでは ないか。
【川渕参与】徳永さんに伺いたい。最近、大蔵省が国のバランスシートを作っ て債務超過が776兆円と公表され、驚いたが、なぜ保険者のバランスシートの公 表はないのか、また、できるのか。
【徳永氏】今までは厚生省の行政指導に基づき運営されている。今後、規制緩 和・規制改革の中で、保険者としての財務状況の公開について検討してもよいの ではと考える。
日医/健保連 医療保険管理コスト巡り論争展開
 日本医師会の青柳常任理事は3日、理事会後の定例会見に臨み、6月14日の 健保連理事会で決定された青柳氏の6月8日付日経新聞「経済教室」欄への寄稿 に対する反論に、正面から異議を唱える「健保連の指摘に対するご回答」を公表 した。
 1カ月にわたる日医と健保連の論争の争点は、(1)医療保険の管理コストが 2兆円を超えるほどの巨額かどうか、(2)高齢者は既に応分の負担をしている かどうか、(3)国保被保険者は事業主負担相当分まで保険料を支払っているか どうか、(4)健保組合は財政調整を拡充すべきかどうか―の4点。  青柳氏の寄稿、健保連の反論、さらに今回の日医の回答の要点は左掲の通り。 また、日医が2.2兆円と試算している管理コストの内訳は表の通りで、原典は 日医総研の報告書「日本の医療保険財政(98年度分)」。
 会見を行った青柳氏は、管理コストについて、「現在、医療保険財政が破綻寸 前などと言われているが、我々が各医療保険の連結決算を行った結果、見えてき たのは、管理コストが2.2兆円にも上っているということで、これはおかしい ということになった」と経緯を説明した。(4028号掲載)
[日本医事新報]

【日本医師会 櫻井常任理事】全体の問題として、国民経済とのバランスで確か に30兆円という国民医療費が大きい額であることは河北委員のご指摘のとお りではあるが、世界規模に比べるとそれほど大きくない。昭和36年から実施 してきたフリーアクセスを基盤とする国民皆保険制度の成果が、少なくとも世 界一の長寿国を作り、新生児が世界一死なない国になったという事実として出 ている。これが医療だけでできたとは言わないが、少なくとも日本の医療制度 が非常に貢献してきた。簡単に言えば、非常に安い費用で非常に大きな成果を あげてきたことは事実と思う。勿論、色々な歪が出てきたことも率直に認めな ければならず、それを直すことにやぶさかではない。しかし、基本としては、 今まで築き上げてきた世界一すばらしい医療制度を壊すのではなく、むしろ伸 ばす方向で改革をして欲しい。米国は昭和30年頃には、日本より平均寿命が 長かったが、いまでは日本より5年も遅れている。そこに参考にすべきものは あっても、真似るべきものはないと思う。

参考文献
第12回規制改革委員会議事概要