各論-医療の営利と非営利を考える2002/11/15 

本田整形外科クリニック 本田忠


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現実の医療機関が「非営利」といえるのかどうか

たとえば、チェーン・オペレーションということは、実際に非営利形態でも行われている。
あるいは医療がなぜ非営利でないといけないのか


非営利法人の定義

 株式会社は商法に基づいてつくられた法人であるのに対し、医療法人は非常に公益性が強く、営利を否定している医療法に基づいてつくられた特別な法人であります。株式会社の場合には、株主の株式購入の動機は、資産運用という視点に主体性がおかれております。その結果、当然のこととして、資産運用の利回りとしての利益配当がなされ、且つ、財産は株主に帰属することになります。同時に、株式会社の経営活動は何かと考えた場合、社会的使命は、確かに明確にされ、その存在の有益性も十分に認められておりますが、利益の最大化を追求し、獲得された利益から株主に配当をし、その後の残余利益を社内に留保蓄積していくのが株式会社なのではないかと位置付けています。しかし、医療法人の場合には、国民のための医療を追求し、質の高い医療を提供した結果として上がった利益についての配当は許されておりません。配当することが許されない利益の使途はどのように位置付けられているのか、医療への再投資のために使用するということになっている。したがって、利益が上がったといった現象面のみで株式会社と医療法人を同一視して同じ土俵の中で論じること自体、かなり無理があるのではないか。

株式による資金調達により、診療報酬による制限がなくなり、医療経営に自由度が増えるのではないか

 初期資本を出資金で調達するのは、医療法人も株式会社も同じです。医療施行法規則第30条の第34では、病院または介護老人保健施設を開設する医療法人は、その資産の総額の100分の20に相当する額以上の自己資本を有しなければならないとなっている。いま我が国の医療法人の資金調達というのは、確かに多くは銀行からの借入れに限定されているわけです。
 一方株式会社というのは、1,000万円の出資で設立できますし、自己資本の要件がない。要件は医療法人のほうがはるかに厳しい。また、我が国の株式会社の金融に占める出資金比率は、10〜11%程度で、資本準備金を入れても15、6%程度です。株式会社というのは、医療法人より、さらに銀行からの借入れに依存しているわけです。株式会社のほとんどは医療法人と同じく、間接金融で資金を調達しているということになります。
 不足の運転資金ですが、医療法人は借入金によっているわけですが、株式会社は増資、社債の直接経営で調達できるというふうに言われているわけです。しかし、社債というのはよほど信用力のある大会社でなければ発行できないわけで、例外的なものとしなければならないと考えています。残るのは増資という形ですが、増資もそう簡単ではありません。よって、株式会社化、あるいは増資によって資金の調達が可能となるというのは、これは幻想でしかないと考えています。不良債権の大部分は中小企業由来である。銀行が貸さないようなところはどこも貸さない。

○配当金問題
 直接金融にはコストの問題もあり、金利は経費で落とせるということですが、配当というのは税引き後の所得から行わなければならないわけですので、その分医療コストが高くなる。さらに医療費高騰を誘引するという問題もあります。つまり、配当の上に売上げ、すなわち医業収入を積み増す必要が生じるわけですので、配当分だけ医療費が上乗せされる。

○営利、非営利の不平等
 営利組織は、資本調達が株式市場から調達できるが、非営利組織はできない。あとは利益の配当ができるかどうかということ。株式市場から資本調達ができるということは、上場基準を満たしているということになる。果たして現行の非営利病院がその基準をどのぐらい満たすことができるのか。
一方で大企業が子会社として参入してくれば、本体の事業の信用力や収益力を背景として高い株価で資本調達ができるわけですから、仮に非営利病院が連合して上場基準を満たす病院をつくった場合と比較しても、これは明らかに資本調達上の不平等となる。制度上の不平等を容認するということである。
営利病院のほうが社会的に望ましいのだという理由がない限りは、あえて不平等を認める合理性がどこにあるのだろうか

非営利病院は非効率である:非営利制約は効率を下げるのか

1)コストの問題:医師に経営能力がない
企業はコスト管理が非常に行き届いているはずであるから、営利病院のほうが営利企業のノウハウが使えてコストが安い
2)質の問題
企業は患者のニーズに対応するので、質も良い
3)クリームスキミング
 営利病院のほうが良いとこ取りが起きている可能性がある。

アメリカでは民間営利病院の大部分は株式会社により運営されている。

1)医療コスト
営利病院は非営利病院よりもコストがかからないということや、より効率的であるということを支持する結果は得られていない。ほとんどの研究で患者当たりのコストの差はほぼ無視できるものの、営利病院の1日当たり患者診療コストは、非営利病院のそれよりも3%から10%高いという結果が得られている。費用ベースの支払い、これは包括払いが行われる前ですけれども、それで調べると、非営利病院よりも営利病院のほうが8%から15%ほど高い。営利病院は非営利病院よりもコストが安いということはなかった。
病院産業では営利病院と非営利病院との差はほとんど見られず、1日当たりの費用では、営利病院のほうが一般的に高いという結果が示された
86年の『TheNewEnglandJounalofMedicine』
2)利益率
営利病院のほうが非営利病院よりも高いという報告が非常に多い。
原因としては
1)クリームスキミング(良いとこどり)が行われている
支払いのいい人たちのところで立地がされている可能性がある。
不採算な医療と採算性の高い医療とを選別して提供する。
支払い能力の乏しい患者を選択的に排除している可能性はある。
『JounalofHealthPolitics,PolicyandLow』の87年の論文
3)質の問題
実際に営利のほうが質が悪いといわれるような調査もあります。営利病院しかないような場所と非営利病院しかないような場所で、患者1人当たりのメディケアの支出額を経年的に調べた。
メディケアの支出額は、営利病院しかない地域と非営利病院のある地域では、営利病院しかない所のほうが高いという傾向がずっと見られる。
 アメリカは、営利病院の比率は、97年13.5%で約20年の間に9%から13.5%までしか増えていない。

 このようにアメリカを見る限りにおいては、パフォーマンス比較をすると、安くて良い医療が、株式会社は市場のメカニズムが働いてできるのだというようなことは、直ちには信用できないだろう
『TheNewEnglandJounalofMedicine』の99年版


○経営情報公開

株式会社には株主に対する明確な説明責任が生じるので、会計上、運営上の医療機関の透明性が確保されるのではないか
・これらにより、医療に顧客である患者のニーズを反映しやすくなるのではないか
・医療に対する第三者のチェック機能が働きそれにより質の向上が図られるのではないか
・営利企業はディスクロージャーが非常に優れている

 ディスクロージャーをきっちりされているのは、上場している企業でありますから、上場していない限りは、それがほとんどないだろう。しかも出てくるのは、財務情報です。普通の患者さんは、財務情報は別に欲しいと思わないわけです。医療機関の情報が欲しいというのは、医療のクオリティーとか専門性とかいう情報ですから、それがなぜ株式会社になると情報が開示されるのかというのがよく分からない。また、少なくとも社団法人や公的法人は経営情報のディスクロージャは義務づけられているわけです。元より零細なところもありコストパフォーマンスはあるわけですが、いずれにしても株式会社のほうが情報公開がすすんでいるとはいえない。

市場原理による競争の論点は

1)「価格」を競争の要素として認めない(公定価格を維持する)のであれば、何を競争の指標とするのか? 「質による競争」をいうのであれば、「質」を比較検討できるようにする必要があります。結局は、医療の質とは何か、に答える必要があります。
2.現在の医療市場は新規参入を阻害しており、新たな病院が参入できないが、これは本当に医療にとっていいことなのか
・弊害として、いつまでも医療事故のリピータが、生き残れるようになり、よくない病院がいつまでも存続しているのではないか
3.非常に人的、設備的な資源を投入し努力して、いい医療を提供しても価格競争(または値上げ)はできないのが現状
・そこで、病院は増加する患者に対応するためには、規模の拡大ほする必要があるので、病床規制を撤廃するべきではないか
・値上げをすることを認める(たとえばその病院は1点11円にする)というような、特定療養費による加算を認めるぺきなのではないか

 自由競争に任せた場合、その質の確保はどの様に担保されるのかが問題であろう
問題は
1)情報の非対称の存在
 正確な情報を流しても評価できない。また情報の正確さはどの様に担保されるのか。評価者が流せば営業妨害か名誉毀損である。評価が誤りだと評価者は訴えられる。
2)医療と言う財の性質上、価格は高止まりする可能性が高い。
 ある程度の統制は残念ながら必要である。

競争原理が本当に導入できるかどうか

 情報の非対称性であるとか、緊急性であるとか、最低限の医療サービスは必ず保障しないといけないといったことから、自由市場というのが必ずしも成り立ちません。また利用者はお年寄りとか弱者なので、選択と自己責任といっても、保護機能なしに放置するのは無理があります。何らかの方法で利用者のエイジェント、すなわち保護機能が必要になります。

善管注意義務:医療の情報公開

 信認関係は、一方が他方の信頼を受け、信頼を受けた受認者が信頼を預けた人への配慮を最優先させる関係。医師と患者間の情報の非対称のギャップを補うために医療を提供する側に信認義務が課せられている。
1)委託者が自己決定をするための情報提供
最終的な決定権は患者の側に留保されているわけですが、患者によるセカンド・オピニオンの取得に協力しているか否か。そのために検査データを積極的に貸し出しているか。または5年生存率とか、手術中の死亡率、さらには医師別の治療成績。
2)受益者が受託者を監視・監督するための情報提供義務。
受託者である医師・医療法人の義務違反を防止する機能を有するもの。カルテの情報等の問題。
3)受託者である医師・医療法人と受益者である患者との間の信頼関係を育むための情報提供義務。
医師の略歴、治験に関する事項。

保護機能としては2つが考えられます

1)第三者機関による評価・認定です。例えば米国ではJointCommissiononAccreditationofHealthcareOrganizationsとか、NationalCommitteeforQualityAssuranceなどの評価機関があります。日本でも同様の組織として財団法人日本医療機能評価機構があります。これらの機関による認定を参考とする方法です。
2)保険者機能です。これは必ずしも保険者に限定されたものではありませんが、実際上保険者がもっとも想定されやすいということで保険者機能と呼ばれます。具体的には良い医療機関への種々の形での患者誘導、患者からの問い合わせに対応した医療機関の推薦・紹介などが考えられます。

第3者による評価のコストを考えれば安易に作るべきではない。

  患者間の情報の非対称性がある、あるいは公的に限らず医療保険制度がありますから患者の自己負担が非常に少ないそこに利潤動機が介在すると経済学の言葉でいうところの機会主義という、相手をだまそうというようなことが働く。それをモニターするためには大変コストがかかるので、利潤動機はできるだけ抑制しようというような目的で、非配当制約が課せられる。もちろん非配当制約で機会主義を抑制できるかどうかは別問題として、理屈としては、これをやることによってモニタリングのコストを下げることができて、クオリティーが保証されるのではないか。こういうことで非営利性というのは重要であるということを経済学などではいっているわけです。安易に第3者機構を作るべきではないと考えます。アメリカでは乱立気味である。コストパフォーマンスが悪い。
精しくは以下の健保連の評価を参照

日米比較研究を通じた保険者機能の評価と強化に関する調査研究


保険者機能評価

1)評価の客観性が担保されない。
 評価者が情報公開すれば、医療機関の営業妨害となる。客観性が乏しい。
2)コスト優先となる。質は二の次になる可能性がある。
精しくは以下の健保連の調査を参照。
保険者機能強化のためのマネジドケア実態調査

結局医師の倫理感と使命感の問題になる。

参考文献
1)厚生労働省関係審議会議事録等 その他(検討会、研究会等)
医政局:これからの医業経営の在り方に関する検討会
2)第12回規制改革委員会議事概要
公開討論(その3)「優れた医療を提供する者が報われる医療システムの在り方について」