DRG/PPSの期待に反する結果2001/07/04

本田整形外科クリニック、本田忠


はじめに
当初の理念とは裏腹に、DRG/PPSの導入により、患者さんにとって、かなり悲惨な状況が生まれた。とくに定額払いであるPPSの欠点が多く見受けられる。定額制のサクランボ摘み現象と思われる。

被害の実例
米国患者残酷物語(HMO Horror Stories)
患者残酷物語米国版

医療費削減HMOマネジドケア
ここでは選択、自由競争が働きます。ところが、被保険者、医療サービスの 消費者のレベルになると、企業が決めた保険にしか入れないので、そこでは競 争の原理あるいは選択は全くありません。
DRG/PPSの落とし穴
DRG/PPSでは、病名がついたあと一定額の支払いが入院患者について受けられます。素人の私が考えても、そこでどうやって病院が差益を出すかというと、ま ずコストを減らす、端的には在院日数を短くすることで、自分が消費するコス トと政府から受け取る支払額の差額を増やそうとします。
 次に簡単に思いつくのは、同じ病名であれば軽い患者を入れたほうがその差 額は増えるので、入院適用を広げる形で軽症の患者を優先的に入れていくこと がインセンティブとして生じます。
 3番目に、その反対で、重症患者、コストのかかりそうな患者は、例えば「 うちの病院では手に負えないから、3次、4次に行ってください」という形で忌 避するということがインセンティブとして生じます。
 そのほか、病院と医師は提携関係にありますが、病院は医師に差額が増大するように協力を仰がないといけない。また、DRG/PPSで不採算の部門は切り捨て てしまうなどして、それに見合った経営努力をすることになります。ここで問 題になるのは、在院日数を短くするのはいいですが、DRG/PPSを悪用されて入院 患者を増やされてしまっては、医療費抑制を目的にしたDRG/PPSの導入が、その 目的を達し得ないことになります。平均在院日数(LOS)が減ると言いましたが、 メディケア、老人保険にDRG/PPSが入ってから、アメリカ全体の平均在院日数が 急激に減り、そのあと横ばいになりました。しかし、マネージドケアでまた平 均在院日数はもっと強烈に減りました。その辺のからくりについてはまたのち ほど述べます。
心配されたのは、DRG/PPSを入れると入院数が増加するのではな いかということです。実はアメリカ全州でDRG/PPSが一律に導入されたわけでは なく、例えばニュージャージー州ではDRG/PPSを先行して導入していました。 ここでのデータを見ると、確かに平均在院日数はインセンティブが変わって6% 減少していますが、入院数を増やしたいというインセンティブも働いて入院数は 増えています。同時期のほかのアメリカの州と比べると、ほかのアメリカの州で は4.5%減っているのに、DRG/PPSを導入したニュージャージー州では入院の数が 増えています。同じように、DRG/PPSを先行して導入していたメリーランド州で も、入院数が増える傾向が出ています。DRG/PPSを導入しても、医師、病院が入 院適用を広げて入院の数を増やすと、節約効果が全く出ないことを指摘した歴史 的な論文が、ウェンバーグが「NewEnglandJournal」に84年に出した論文です。
彼らのグループはメイン州を30の小地域に分け、それぞれの地域の間で入院の数 、手術の数を人口との比率で比較しました。例えば鼠径ヘルニア修復術は、最大 の地域と最小の地域でその差は1.7倍しかなく、どの地域をとってもばらつきが ありませんでした。ところが、扁桃摘出術を見ますと、最大の地域と最小の地域 で14倍もの差があった。最大の地域では子供のほとんどが扁桃腺をとられている という状態でした。さらに、彼らはこの調査にDRGを当てはめ、鼠径ヘルニア修復術が ばらつきが最小の手術でしたが、それと同等あるいはより多いDRGが3種類、虫 垂摘出術と同等あるいはより多いのDRGが24、ところが扁桃摘出術よりも多いD RGに属する疾患あるいは手術が134あるということで、DRGでこのように分けて 地域別に見てみると、これだけばらつくというデータが出ています。つまり、 医師や病院のしたい放題にさせるとこれだけばらつくということは、入院数が どんどん増える可能性がある。DRG/PPSを導入しても、入院数を増やすインセン ティブについて歯どめをかけないと節約効果はないということを警告しました。
2-3実際にはPRO(医療警察)がコストを抑制
実際問題、アメリカ政府もそのことはとうに承知しており、医師や病院が勝手 にDRG/PPSの制度を悪用しないように予防策が講じられました。それがPRO(Pee rReviewOrganization)という組織の設立です。各州に医療専門家による医療査 察を行う施設をつくり、大きく言って3つの権限をその施設に与えました。
第1 にメディケアの入院について事前審査制を敷きました。すべての入院について 事前審査をした州もありますが、特殊な疾患だけ、多くの州では5つの対象疾患 を決めて事前審査をしました。PROがノーと言った場合はその患者の入院は認め られないという仕組みをとりました。特にターゲットにされたのが、例えば心 ペースメーカー手術や、あとに述べる眼科手術です。
第2に与えられた権限は、 メディケアの入院患者のカルテを抜き取り調査し、その医療内容について「不 必要な入院だった」あるいは「入院中の医療が不適切だった」というような判 定を下します。不適切・不必要と判定されると支払いが拒否されるという仕組 みをとりました。当初始められたときは、約半数の入院患者のカルテを抜き取 って審査しました。
3番目の権限としては、悪質な医療を繰り返す、不必要な入 院、不適切な医療を繰り返す医師・病院は、保健省のInspectorGeneralに通告 してメディケアから排除する権限を与えられました。さらに、アメリカの政府 は何度も声明を出し、入院数がアメリカ全体で理由なく増えた場合はDRG/PPSの 支払い単価を下げると警告しました。
PROに与えられた権限は、入院の事前審査、 入院時の医療内容の事後審査、メディケアからの悪質医療機関の排除ですが、 大義名分は医療の質の改善でした。各州が独自にそれぞれ民間の機関であるPR Oと契約を結ぶ形で、数字で医療の質を改善するという目標を出しました。例え ばケンタッキー州のPROは心臓発作死を1年間で20%減らす、ニューヨーク州の PROは細菌性肺炎の死亡を1年間に514例に減らす、コネチカット州では術後の感 染症の頻度を30%減らす、ニュージャージー州では血栓心不全患者の再入院を 90%減らす。入院の事前審査とカルテの抜き取り審査という2つの手段しか与え られていないのに、こういうことができると大まじめに論じられていました。
アメリカの政府はPROに医療の質、メディケードの質を改善するという大義名分 を与えますが、実際はPROはコスト抑制の仕組みとして働き、アメリカ政府は同 時に不必要な入院数を減らす、あるいは不必要な治療を減らすことをPROの任務 として課しました。当時の政府高官は「よい医療を行っていればどのような監 査にも耐えられるはずだ」と豪語していました。外来手術を奨励しましたが、 眼科手術が一番のターゲットになり、37州で白内障の手術が事前審査の対象疾 患になっています。入院手術の割合が眼科全体で、DRG導入の3年前の80年と、 2年後の85年を比べると、87%から20%に減少しています。さらに、646病院を 対象にした調査で、83年にこの646病院で1万5,000件あった入院白内障の手術が、 85年には2,000件まで減少しています。この646病院における入院総数の減少の 54%が白内障手術の減少でした。PROが始めた入院手術を減らし外来手術を増や すということはその後も続き、上記の傾向はいまだに続いています。PROの入院 事前審査はとうに終わっていますが、ひとたび入院から外来への変更という流 れができると、例えば外来手術センターをつくるようになる。外来手術センター、 日帰りの手術センターをつくると、ひとたびつくった施設を遊ばせておくわけ にはいきません。変化を起こしたきっかけのPROによる入院事前審査が消えたあ とも、その影響が残ったわけです。PROが積極的に外来手術に移行させたことの 効果が出て、DRGだけを単独で入れた場合は入院数は増えるのが道理ですが、入 院数は極端に減りました。いまだに横ばいになっています。その反対に、外来 は出来高払いに保たれたままで、外来医療の件数は増え続けています。
2-4管理医療の隆盛
ニューヨーク州では独自の医療費抑制策をとっていたために、DRG/PPSが83年に は導入されませんでした。ところが、PROによる医療監査だけは導入されました。 ニューヨークのシステムは入院日数を切り詰めるインセンティブがあまり働か ないシステムだったために、全米の平均と比べてメディケアの入院日数が著し く長かった。これがアメリカ政府からねらい撃ちされたと言っていいと思いま す。PROの審査が始まり、入院が長過ぎるという理由で何と審査対象の14%の奨 励で支払いが拒否されました。わずか4カ月の間に入院の日数が3割も下がって います。つまり、DRG/PPSを入れなくても、長過ぎる入院は払わないというだけ で平均入院日数は減らせるという実験データが出ているわけです。つまり、メ ディケアの医療費抑制のためにとられたDRG/PPSの制度が悪用されないためにP ROが登場しましたが、実際に行われたことは、医師の裁量権への国の介入です。 87年の「NewYorkTimes」の記事での発言ですが、PROの審査がたけなわの時期に、 医師の裁量権が干渉されているという事態に対して、貧者のためのHMO、つまり 非営利(Non-profit)のHMOをつくったハーバード大学のロバート・エバントは、 「医師が医療のすべてを決める時代は終わった。今後どのような変化が医療に 起ころうとも、医師が医療をコントロールする権限は縮小する一方である」と 述べています。実際にそのとおりのことが、管理医療が隆盛をきわめて起こっ たわけです。さらにジョン・ウェンバーグは──先ほど紹介したメイン州を30 の小地域に分け、どれだけ医療行為の数がばらつくかというデータを出した人 ですが、彼はさらに「医師たちがむだな医療を繰り返し、最善の医療を行うと いう責任を放棄し続ける限り、政府による医療介入はますます厳しくなり、や がて医師の臨床的判断より統計学的データや経済的配慮が優先する事態が到来 する」と予言しています。この二方の予言は的中したわけです。PROの功績をま とめると、DRG/PPSが入っていなくてもニューヨークで入院日数を短縮させるこ とができたように、入院日数の短縮を実現した。また、外来手術の増加などで 外来の件数を増やすとともに入院数を減少させた。こういったことがやがて管 理医療が隆盛をきわめる土壌をつくりましたが、この辺の変化についてはまた のちほどお話しします。
3.DRG/PPSが導入されて臨床現場がどのように変わったか
3-1水平医療から垂直医療へ
ワンフレーズでDRG/PPSの影響をあらわす言葉が「Sicker and Quicker」です。入 院する人は重い人で、重い間だけ入院し、早く退院させられるということです。 入院日数の短縮化で、患者をゆっくりベッドに寝かせておく水平医療をしてい ては病院がもうからないので、患者さんに忙しく検査や措置で動き回ってもら う垂直医療という言葉が出てきました。入ってくる患者は家にいることができ ない人、あるいはケアで非常な労力を要する人で、そういう患者が増えてきて 病院全体がICU化したと言われるようになりました。もちろん医師や看護婦の業 務の密度は濃くなります。こういった中で医療を効率よく行い、しかもミスを なくすために、クリティカル・パスあるいはクリニカル・パスウェーが導入さ れるようになりました。逆に、これはまた医療記録の管理にもつながります。 さらに新しい職種が出てきました。ディスチャージ・プラナー、現在はケース マネジャーと言われるものです。患者に早く退院してもらうにしても、たたき 出すわけではありません。必ず次の回復ケアの手配をし、患者が出ていったあ との段取りを整えて退院してもらいます。その段取りを整える係の人がケース マネジャーです。例えばリハビリテーション病院──患者が住んでいる町にど んなリハビリの施設があるか、あるいはスキルド・ナーシング・ホーム──特 殊なケアが必要なナーシング・ホーム、そういうことに精通している専門職が 登場してきました。例えば待機手術における入院ケアのパターンは、術前検査 はすべて外来で済ませてしまい、入院するのは手術当日になります。早期離床、 早期退院を促し、術後の管理は在宅外来というのがパターンとして定着しまし た。実際にいろいろな手術の平均在院日数、メディケアだけでなくアメリカ全 体の平均在院日数を出すと、導入前の82年、10年後の92年で、ほとんどすべて の手術で在院日数が極端に短くなっています。例えば前立腺摘出術でも半分、 胆嚢摘出術も半分になっています。ただ、この時期、腹腔鏡下の胆嚢摘出術と いう技術的進歩もあったので、この数字には注意を要します。
3-2クリニカル・パスウェーの実例
米国の南西部外科学会がインターネット上で7種類か9種類かの病気についてク リニカル・パスウェーを公開しています。南西部外科学会がつくっているクリ ニカル・パスウェーでは、医師・看護婦用、患者用、退院時指導の3点セットが 1つのクリニカル・パスウェーとなっています。実際のパスウェーについては、 4月だと思いますが、日本臨床外科学会にすべてを翻訳したものを載せましたの で、関心のある方はそれをごらんになってください。ModifiedRadicalMastect omy、乳がんの手術では、まず術前の重要な目標として、患者が入院する前から はっきりと、術翌日の退院を目指すことを掲げています。入院前の患者指導の 項目としては、クリニカル・パスウェーを患者家族に説明する。術創のケアに 関する指導を手術の前から始めます。術翌日、2日目に退院し、患者が家に帰っ たあと術創のケアをしなければいけないので、その指導を入院する前から始め ます。退院計画は入院する前から始まります。退院計画の項目としては、入院 前に術創ケアの指導、術後活動時の指導、退院後の外来予約があります。手術 当日の退院計画としては、退院後の外来予約、術創ケアの指導。術後1日目、2 日目、このときには退院するわけですから、外来予約。患者にスムーズに退院 してもらうために、退院計画は患者が入ってくる前から始めます。患者用にも クリニカル・パスウェーが渡されます。患者は入院する前から説明を受け、自 分が入院する間にどんなことが起こるのか、手術の日にどんなことが起こるの か、退院のときにどんなことが起こるのかということが、すべて前もって説明 されます。退院時指導としては、術創ケアについて事細かに指示が書いてあり ます。赤くなる、圧痛がひどくなる場合にはドクターに連絡する、ガーゼの交 換は1日何回、ドレーンのケア、1日の量の測り方等、すべて細かく書いてあり ます。ここで強調したいのは、入院日数を短くして統計上の医療費が減るその つけはどこに回っているかというと、入院していれば看護婦にしてもらえたこ とを患者や家族がしないといけなくなるということです。これは統計上の医療 費にはあらわれない数字です。次に、入院日数が短くなり、患者が退院すると きに、回復期のケアを在宅で行うことがほとんどになります。在宅医療の需要 が急増し、DRG/PPSが入ったあとに在宅医療の出費が激増しました。これに対し て、連邦政府は在宅医療に対する支出の締めつけを行いました。
3-3非医療地帯(NoCareZone)の出現
マサチューセッツ州はDRG/PPSが83年には入らず遅れて入りましたが、DRG/PPS が入ったときがちょうど在宅医療に対する支払いを締めつけた時期に当たりま す。マサチューセッツ州では患者が退院したあと、来るはずの在宅医療の人が 来ないという事態が出てきました。この状態をNoMilitaryZone(非武装地帯) に引っかけてNoCareZoneといい、患者が受けるべき医療が受けられない空白の ゾーンが出現するという事態が生じました。DRG/PPSが導入されたあと、臨床の 質が変わったのかということが気になりますが、臨床の質について調べた最初 のペーパーとして、「NewEnglandJournal」に88年に出た論文があります。大腿 骨骨折の患者のケアがどう変わったかを調べています。入院日数も短くなって おり、回復度も自力歩行可能率が下がっていますし、退院時の最大歩行距離27 mが11mになり、どのように患者が早く退院させられているかということがわか るかと思います。
3-4米政府は”医療の質は下がっていない”と結論づけたが
アメリカ政府もDRG/PPSを導入して医療の質が著しく下がったのかということを 気にして、5種、197病院、1万7,000例の記録を詳細に調べて次のような結論を 出しました。入院患者の重症度は確かに増えていた。入院日数は24%減少した。 Sickerの部分もQuickerの部分も正しかったわけです。入院中のケアの質は向上 していた。心配するほど下がっていなかったし、医療技術の進歩による向上は 妨げられていなかった。ただし、患者が退院したときの状態として、体温、血 圧、脈拍などバイタルサインが不安定な状態にある患者の比率が増えていた。 不安定な状態で退院した患者の90日以内の死亡率は高かった。全体の死亡率を 重症度で補正して比較した場合は、入院中の死亡率は減少していた。ここで注 意してほしいのは、入院日数の減少と死亡率の減少はちょうど見合う減少で、 病院の外で死んでいるということです。入院後180日間の死亡率には変化がない。 死ぬ場所が変わっただけで、特に死亡率が増えたわけではありません。もう1つ、 自宅に帰る患者の割合は減少していて、特に大腿骨骨折の患者では自宅に帰れ ずにそのままナーシング・ホームに居ついてしまう患者の率が増えていた。18 0日以内の再入院率には変化がなかった。この結果をサマライズすると、それほ どひどくなっていなかったということで、胸をなでおろす結果が出たわけです。
3-5医療戦国時代の到来
DRG/PPSの導入のときにアメリカ政府がしたコスト抑制策は、インセンティブを 変更することで入院日数を短くするという病院の自助努力の部分と、PROによる 入院数の減少、医療審査をした部分。それと、もう1つの部分は単価の調節が非 常に容易になっています。ベース・レートのインフレ補正をManualUpdateとい いますが、当初手厚く設定され、病院はマン・タイムが潤いましたが、すぐイ ンフレ補正を厳しくして、世間のインフレよりもはるかに低いレートでDRG/PP Sの価格が操作され、その結果、病院のメディケアの収支はコスト割れして赤字 になりました。つまり、DRG/PPSは価格の操作が支払い側にとって非常に容易に なる制度だということです。その結果、医療戦国時代が到来しました。入院の 数が減ります。平均入院日数、ベッドの占拠率が極端に下がります。病院間の 患者の取り合いが起こります。ニューヨーク州で「ILoveNewYork」という観光 キャンペーンをやった女性を、マウント・サイナイ病院は広告担当重役として 招き入れました。例えば医療の質を誇ったり、キャンドル・ライトつきのディ ナー、コンシェルジェ・サービス、重役が入院中のビジネス会議の世話。患者 がカーペットの上を車いすでやってくるところを医師や看護婦が出迎えている 漫画が「NewYorkTimes」に載っています。さらに皮肉なことに、広告版のとこ ろには「ベイカーズに空き室あり」というのが出ています。ベッドの占拠率は DRG/PPSが入った途端に、LOSが下がるのと入院の総数が下がるのとで、ダブル パンチで10%下がりました。メディケアだけでなく、メディケア以外も含めた アメリカ全体で見ると、その大きさがどれだけ強かったかわかるかと思います。 現在60%を切るくらいのところまで追いつめられています。閉鎖、倒産の病院 が出て、DRG/PPSが入ってから8軒に1軒の病院が姿を消しています。管理医療が 出てきた土壌はそこにあります。今まで保険会社が医療供給側に値引きを迫る ことは考えられませんでしたが、これだけ病院側の競争が激しくなると、保険 会社側が優位な状況になってきます。
4.マネージドケアの台頭
4-1管理医療は保険会社に優位
管理医療を単純化を恐れずに定義すると、医療サービスへのアクセスやサービ スの内容を管理・制限することで、限られた財源のもとで効率よい医療サービ スの提供を目指すということになります。その大義名分としては、適切な医療 サービスを提供すること、医療コストを削減することが目標になります。従業 員レベルで見た加入者の推移を見ると、管理医療型の医療保険に加入する人が アメリカの従業員レベルで85%まで増えています。管理医療で医療コストを削 減する方法には3つあり、1番目が医療サービスへのアクセスの制限、医療内容 に介入するということです。2番目が、ここは市場原理と言ったほうがいいです が、管理医療の管理の手段として市場原理が働き、医療サービス供給側に大幅 な値引きを迫る。これが一番問題ですが、保険会社がもうけようと思ったら健 康な人を集めればいい。有病者を敬遠して、例えば大企業の大口契約を取り、 その企業に働いている元気な人だけ集める。これをサクランボ摘みといいます。 医療を管理するコスト削減法の1番目に、医療内容を管理する方法は、1つはプ ライマリケア・フィジシャンが保険会社にとっての門番の役割を果たし、患者 が勝手に救急病院で受診したり、専門医で受診したりすることを制限します。 また、利用度審査あるいは利用審査(UtilizationReview)ということで、医療 サービスの適切性、コストをかけるに値するかということを審査します。この 審査は高額な医療サービスの場合、事前に行われます。保険会社が医学的必要 性が認められないと言った場合、そのコストはカバーされないという通達が事 前に行われるわけです。3番目が症例管理で、コストのかさみそうな症例につい ては、保険会社のケースマネジャーがついて、ケアを統合する、効率よくする ことが行われます。保険会社は定額の医療保険を設定し、企業主などの大口の 顧客を募ります。ここでは選択、自由競争が働きます。ところが、被保険者、 医療サービスの消費者のレベルになると、企業が決めた保険にしか入れないの で、そこでは競争の原理あるいは選択は全くありません。そして、医療サービ ス供給者に対して、例えばHMOはネットワーク化して値引きの値段の中で医療サー ビスを被保険者に提供しています。医師は保険会社の門番として、患者が勝手 に救急病院などで受診したりしないようにする役割を担わされます。ここで、 利用審査で問題になるのは、保険会社は医学的必要性が認められないと言って 利用審査のときに医療行為を拒否しますが、実は保険会社がそう言うとき、別 に彼らに医学データがあるわけではありません。保険会社のコンサルタント会 社があり、そこが例えばいろいろな疾患、手術について標準の在院日数を保険 会社に渡しています。彼らがどのようにしてこの数字をつくり出したのかは知 りませんが、例えば出産は1日で、分娩後の母親が24時間後に退院させられるこ とが慣習化しています。これが問題になり、96年に連邦政府は、保険会社は正 常分娩後48時間まで入院をカバーしないといけないという法律を通すまでにな りました。乳がんの手術の話を先ほどクリニカル・パスウェーで出しましたが、 乳がん1日、肺炎2日、冠動脈バイパス手術4日、心筋梗塞4日という数字を出し ています。5日目からの入院は医学的必要性が認められないと言われるわけです。 さらに、ミリマン・アンド・ロバートソン社というコンサルタント会社ではDR Gのメディケアのデータを解析し、病院の効率係数を算出して保険会社に売って います。彼らは一番効率のよい病院との比較で物を言います。DRG/PPSは重症度 を一切加味してないので、効率がよいといっても、もし重症の患者を忌避して 軽い患者だけ優先的に集めている病院のデータで比較されると、まじめに重い 患者を診ている病院は効率が悪いことになってしまいます。このミリマン・ア ンド・ロバートソン社が出している調査結果によると、今現在のLOSは長過ぎる ので6.6日から4.1日に減らせる、今現在38%の入院は不必要だ、メディケア全 体の入院日数の53%は不必要だ、という調査結果を出しています。先ほど言っ たように実際の病院は重い患者、家に帰れない患者がほとんどを占めて、病院 全体がICU化しているのに、こういうことをコンサルタント会社が言うわけです。
4-2「合併」と「系列化」で医療供給側は対抗
こういった状況で医療サービスの供給側はどういう努力をするかというと、コ スト削減をする。あるいは、保険会社との交渉力を強化するために合併を繰り 返す。競争相手が減るようにする。すべての目標を達成する早道は病院の合併、 そして開業医の系列化になります。実際問題、94年のマサチューセッツ・ジェ ネラル・ホスピタルとグリーラム・ウィメンズ・ホスピタルの合併のあと、ハー バード系のウィーナード・ビーフォレスとベス・イスラエルがまた合併し、さ らにカソリック教会系が非常に大きな勢力を持っており、ボストンあたりでも こういった3大勢力に色分けが進んでいます。パートナーズ社はマサチューセッ ツ・ジェネラルとグリーラムが合併したあとの合同の企業ですが、93年から97 年の間にケース・ミックス・アジャスト、つまり雑多な症例をアジャストして、 インフレの影響も計算に入れて、入院患者1人当たりについて4,200ドルの出費 がかかっていたものを3,600ドルに減らし、経営努力で7分の1、コストを減らし ています。パートナーズ社は開業医を次々に系列に入れていますが、94年の合 併から系列の開業医の数が増え、現在1,000人近くまで増えています。こういう 開業医がプライマリケア・フィジシャンとして持っている患者が入院する場合 は、パートナーズ社の病院に優先的に回す系列化が進んでいます。さらに、パー トナーズ社の予測では、HMOがcapitationで払う患者1人当たりの支払額は、94 年が165ドル、98年が157ドルですが、2001年には135ドルまで減るだろうという 予測を立てて準備をしています。
4-3市場原理支配はヴァンパイア効果を生む
市場原理に支配されると医療がどのようにゆがむかということをまとめると、 保険会社のサクランボ摘みと言いましたが、有病者の保険加入が著しく困難に なります。その結果、管理医療が隆盛をきわめていますが、病気がちの人が医 療保険を購入できなくなり、無保険者の数が増加しています。現在もその増加 傾向はとまっていません。ヴァンパイア効果というのがあります。良心的な医 療を行っている保険会社あるいは医療機関が仲良くやっていたところへ、営利 でもうけを上げることだけを目的として、例えば臓器移植は認めないなど、保 険適用を減らしても低価格で顧客を募るという手段で入ってくると、良心的に やっていたところは競争に勝てない。そうすると、同じ経営戦略をとらないと 自分が生き残れないことになります。ヴァンパイアにかまれたらみんなヴァンパイアになるということで、これをヴァンパイア効果と言っています。そうい ったことが一番心配されています。さらに、去年あたりは市場原理を導入して メディケアを効率化するということで、メディケアを民間に丸投げする形でメ ディケアHMOをアメリカ政府も奨励していました。ところが、メディケアHMOは 採算が合わないので、メディケアHMOから撤退する保険会社が続出しました。そ の結果、40万人のメディケア加入者がHMOから見捨てられてしまった。ですから、 もうけにならないところから既存のサービスがなくなってしまうということも 現実に市場原理では起こるということです。
4-4医療費削減のツケが患者、家族に
先ほども言いましたが、マネージドケアが入り、医療費の伸びが抑えられてき ていますが、そのコストは実は患者、家族にツケが回っているということです。 これは統計の数字にはあらわれません。こういった管理医療に対する米国民あ るいは医療供給側の反感は非常に根強いものがあり、患者権利法を制定して盛 んに保険会社の横暴を規制しようしています。皮肉なことに、医師や病院の好 き勝手を規制する、それでは困るということでDRG/PPSや管理医療が入り、医師・ 病院の好き勝手を許さないという方向で医療内容に介入する動きが起きました が、今度は保険会社の横暴は許さないという形でまた振り子が逆の方向に揺れ てきているわけです。特にHMOがUtilizationReviewで医療内容をカバーする、 しないという判断を加えることで、例えば骨髄移植を受けられなくて患者が亡 くなった場合、HMOを医療過誤で訴えることができるようにするかどうかで、民 主党と共和党がもめています。アメリカの病院協会は自分の病院でHMOをやって いる会員がいるので、患者権利法は歴史的にはアメリカの病院協会が一番最初 に提唱したことですが、及び腰になっている。医師会は、憎きHMOを懲らしめる ということで支持に回っています。医療過誤を担当している弁護士業界とはか たき同士の仲でしたが、共同してHMOを訴えられるようにしようということで今 手を結んでいます。
5.どこで折り合いをつけるかが問題
マネージドケアとDRG/PPSの導入後の歴史的関係ですが、DRG/PPSが入り、病院 の競争が激化した。支払い側の価格交渉力が強化され、支払い側がいよいよ優 位になる。この悪循環が続き、病院側はますます競争が厳しくなる。さらに、 PROの導入が医療内容への介入の基礎をつくり、現在の管理医療のUtilization Reviewの原型になっています。この間の15年の歴史は、1つは、医師や病院がも うけ本位で不必要な医療を繰り返していると、必ず揺り戻しが社会から加わる。 2つ目に、支払い側が優位に立つと一種の裁量権が出てくるということです。私 の本にも書きましたが、オレゴン・ヘルス・クラブのオフィス、オレゴン州の メディケードのオフィスには「コスト、アクセス、クオリティ」と書かれた額 が飾られているそうです。好きなもの2つならできますが、3つは無理だという ことです。アクセスも保証して、質のよい医療も保証したら、コストがかかる のは当たり前です。コストを抑えたかったら、アクセスか、クオリティか、ど ちらかを落とさないと不可能だということです。これは現実にそうだろうと私 も思います。ですから、どこで折り合いをつけるのか。社会全体で合意して折 り合いをつけるところを見つけなければいけないと思います。大急ぎでこの15 〜16年間のアメリカの医療の動きを追いかけましたが、私の話はこれで終わり にしたいと思います。

マネジドケアの失敗(5)
李啓充(マサチューセッツ総合病院内分泌部門,ハーバード大学助教授)
不評のマネジドケアではなくEBMと呼ぶ
しかし,米国でマネジドケアへの悪評・反感が強まっている事実は,世界諸国 にも広く知れ渡るようになり,「マネジドケア」という言葉を使うと消費者の 反感を買いかねないとの理由から,その手法は採用しても「マネジドケア」と いう呼称は使いたくないという国が増えている。昨年の国際サミットにニュー ジーランドから参加した保険会社の重役,デイビッド・ランキンは,ウォール・ ストリート・ジャーナル紙の取材に対し「自分の会社ではマネジドケアとは呼 ばずに,エビデンス・ベイスド・メディスン(EBM)と呼んでいる」と証言して いる

[米国社会]<黒田陽子>
(18)次なる社会悪退治の標的はHMO
「利益追求を第一とする会員制民間医療保険団体(HMO)によって、十 分な治療や処方箋が受けられない」という問題は、米国における大きな社 会問題の1つだ。そのHMOを含むマネージド・ケア機関(医療サービスの 利便性、医療費、医療の質を総合的に管理する組織)の大幅改革は、必要 性が叫ばれながらも停滞している。そのような状態に風穴を開けるべく、 患者やHMOに勤める医者などが行動を起こしている中、カリフォルニア医 師協会(CMA)が25日、同州のHMO3社を提訴した。
このニュースは、いくつかの面で初めての試みであるため、マスコミか らも注目されている。1つには、CMAが、HMO3社の行為は、「悪徳組織不 正行為法(RICO)」に違反すると連邦地区裁判所に提訴したことだ。同法 は通常、マフィアなどの行為に適用するものであるが、CMAはその主張で 、「3社は、強制的かつ詐欺的で不正な方法を使って、自らの金銭的利益 のために、医者と患者の関係を支配・コントロールし、患者および医者の 双方に損害を与えた」とし、同法適用を訴えている(26日付けニューヨー ク・タイムズ)。第2に、CMAが本件で賠償金ではなく、HMOの業務改正と いう制裁措置を求めたことも他の訴訟とは異なる。CMAは改正案として、 「医療の質を保証する事業および監査」「医者が高価な薬品を処方できる ような薬品処方書の作成」「治療やテストがすぐに必要かを決定する指針 の作成」などの義務付けを要求している(同日付けロサンジェルス・タイ ムズ)。
患者や医師団体によるHMO訴訟は、全米各地で進行中だが、そのいくつ かをまとめて集団訴訟にしようという動きもある。今回のCMOの動きに追 随しようという医師協会もいくつか現われており、タバコ、銃に続く「社 会悪に対する集団訴訟の標的」として、HMOに照準が絞られそうだ。しか し、RICO違反を証明するには、かなりの困難をきたすなどの理由から、勝 訴は難しいという専門家の見方もある(同日付け同紙)。

マネジドケアの失敗(6)
〔連載〕アメリカ医療の光と影(29)
李啓充(マサチューセッツ総合病院内分泌部門,ハーバード大学助教授)
インフォームド・コンセントと相容れない利用審査(utilizationreview)の制度である。
利用審査とは,個々の医療サービスの適切性を保険者が審査するというもの であるが,「不必要・不適切な医療を防ぐため」という建て前とは裏腹に,現 実には「医療コストを抑制する」目的で運営されている。保険会社は「保険給 付をするかしないかの決定は医療行為ではない」と主張し,利用審査が患者の 病態に及ぼす責任を回避するが,高額の医療費を容易に自己負担できる患者は 稀で,現実に行なわれる医療行為の内容は保険会社の利用審査によって左右さ れる。
「医療反革命」の名がふさわしい
さらに前回(2391号)も述べたように,保険会社が利用審査に際し「医学的 必要性」を判定する根拠は不透明で,実際にはコンサルタント会社が作成した ガイドラインや,契約先の企業との契約内容が利用審査の判断基準となってい る。
臨床現場の医師にとっては,患者の抱える問題の多様性や医療そのものの不 確実性といったことに頭を悩ませるからこそEBMを実践することが必要となるの であるが,マネジドケアの利用審査は,「患者のXという状況にはYという処置 をすればよい」と,医療におけるディシジョン・メイキングが自動的・機械的 に決められるという前提で運営されている。患者を診て,文献を調べ,患者と 話し合うというプロセスを経た後に作成された治療プランに対して,1度も患者 を診たこともなく,また患者と話したこともない保険会社の審査官が「医学的 必要性が認められないので保険給付をしない」と,電話の向こうから医師と患 者とが合意したインフォームド・コンセントを反故にするのが利用審査の制度 なのである。
マネジドケアを「医療革命」と礼賛する向きがあるが,利用審査は現代医療 においてもっとも尊重されるべきインフォームド・コンセントのプロセスを真 っ向から否定する制度であり,その意味からは,マネジドケアには「医療反革 命」の名のほうがふさわしいと言わねばならない。
プリンストン大学の医療経済学者ラインハルト教授は,「誰かから細かく 管理されたり常に干渉されたりすれば,実際に仕事をしている人に反感を抱かせるだけでなく,その勤労意欲を削ぐだけだということは医療以外の分野では 常識だった。マネジドケアは,こんな簡単なことに気がつくのに10年もかかっ た」と,マネジドケアの「革命的」決定を揶揄したのだった。

参考文献

「米国医療の光と影」李啓充著医学書院ISBN4-260-13870-72000円) book
HMO 保険者との直接契約

その結果として医療機関は,競って力のあるマネジドケアの傘下に入り,競争に生き残るためには、エスカレートする一方の値引き要求も受け入れざるを得 なかった。
HMO(healthmanagementorganization
ChildCare,HealthCareCoopsの事例