診療報酬制度を、真の出来高性にして医療の質の向上と透明性を確保しましょう2001/08/26

 本田整形外科クリニック 本田忠


診療報酬制度の制度疲労
 医療費の支払い制度は、出来上がってから半世紀近くたった。基本は一応出来高性ではあるが、指導料や、205点ルールに代表されるような、包括化点数等で、種々の経済的インセンティブをつけることにより、価格コントロールされてきた。半世紀にわたる、こういう細かい工夫(経済的インセンティブ)の集積により、結果的に、不充分な出来高と包括化が組み合わされた、非常に複雑な数千ページの点数表が出来上がった。出来高と包括化の最悪の組合わせ。診療報酬制度の制度疲労である。点数表をいじりすぎた。医療の質の向上と、価格コントロールを、点数のみに依存して方向付けするには無理があった。経済的インセンティブをつけるという手法の限界であろう。
内容は、重箱の隅をつつくような複雑怪奇な点数の取り方で、医師でも理解し難い、ましてや消費者である患者さんは、とうてい理解し難い内容となった。

結果
1)消費者である患者さんから、誤解を招きやすい価格体系となった。
 一般の商行為では、小さな取引でも金額はもちろん、品名や数量を、きちんと書き込んだ請求書や領収書を取り交わすのが常識である。明細書を渡せば消費者自身がチェックできる。指導料とかはいれば、同じ診療を受けても、価格が異ることがある。これでは消費者の皆様が納得できないのは当然である。
2)複雑なため請求ミスが多発する
 あまりに制度が複雑で、特殊なため、請求事務は、医療事務が専門的に行うものとなった。また請求には、日常の医療行為を、正確に拾う必要があるが、行為者である医療従事者、特に医師(特に大病院の医療の、主な担い手である研修医)は、医療制度の理解が不充分である。患者さんのために。負担の軽減を図るということをおもんばかるには、かなり配慮が必要になった。結果的に医療費の高騰になりやすい。また特に病院においては請求漏れ、誤解は日常茶飯事である。
3)複雑なためコストの増加がおこる
 点数の半年毎の改訂。非常に複雑な点数制度により、専門の医療事務員が必要となった。また、単なる電卓では、計算がかなり難しくなり、専用システムのレセプトコンピュータが必要になった。レセプトコンピュータは、点数制度が非常に複雑であり、ユーザが少ないために、かつ特殊な分野で参入業者が限られるために、単なる医療会計ソフトであるにもかからわず、500万を越す金額となってしまった。零細な医療機関が導入するにはコストパフォーマンスが悪い製品となった。現在医療分野のレセコン普及率は70%前後である。
4)複雑なため、マクロの医療行為分析が出来づらい
 現在の点数表は、出来高と包括化の組合わせであり、非常に複雑で、内容は必ずしも医療行為を反映していない。レセプト枚数が年間7億5千万枚と膨大であり、かつ上記の理由などにより電算化が遅れていることもあり、詳細な医療行為分析はほとんどされていない。

対策
単純な出来高制とする。
 診療行為にかかる、経費として、直接経費(主に人件費と特定医療材料など)と、間接経費(直接経費以外のもの、建物維持管理費、租税公課、支払利息など)に分けられる。実際の医療行為を、整理分類して、一つ一つの行為は、名前と実際の診療内容が、できるだけ一致するように細かく定義する。実際の請求は、その単純な積算と、間接経費をいれた点数とする。診療実態と請求事務を、できるだけ一致させる。結果的に、ドクターフイーとホスピタルフイーも明確にできる。単純な点数表になる。余計な、実態を反映しない、指導料や包括化点数は排除する。なるべく原価を反映するのが望ましい。当初は全体で、できるだけ現時点の収入を維持する程度の、点数配分からはじめると関係諸団体のご理解はえやすい

利点
 出来高になり、点数表が単純化され、診療行為による価格が、きちんと積算され、医療行為が明確にレセプトに反映されれば、種々の利点が生まれる。
1)チェックしやすい
 レストラン等で食事をしても、明細を貰い消費者が自身でチェックする。医療行為も、細かい材料まで出来高にして、明細書を発行すれば消費者は内容を把握できる。患者さんにとって医療の透明性がます。保険者のチェック。国のチェックもできやすくなる。包括化された点数では、消費者の皆さんの納得を得ることは難しい。
2)評価しやすい
 出来高になり、診療内容が、より正確にレセプトに反映できるようになれば、その詳細な分析により、各医師の、あるいは各施設の診療内容が、施設内でも、多施設間でも正確にとらえることができる。たとえば各医師の薬の使い方も、統計的に追いかけることができれば、その医師の特徴はつかめる。各医師の質も十分チェックできる。比較も十分可能である。質の向上となる。先ずはきちんと、具体的な、医療行為を解析できなければ、施設差や地域差がでない。EBMも画餅となる。包括化した点数制度では、医療行為分析は出来ない。
3)コストとミスを減らせる。
 誰にとってもわかりやすくなれば、コストもミスも減らせる。レセコンも安くなり、零細な医療機関も導入しやすくなる。電子化が進む。デジタル化されれば、より詳細な分析ができる(ORCA)。
4)コントロールしやすい
 医療行為を、反映した、より単純化された7億5千万枚の、レセプトの詳細な分析ができれば、論議も正確になる。どの部分にコストがかかっているのか。それは妥当なのか。国民の皆様のご理解を得やすくなる。包括化された点数では、分析は出来なくなる。

まとめ
 診療行為をより正確に反映した、出来高制単純なレセプトを、まず造り上げ、それを詳細に分析し、結果的にEBMに役立てて、医療の質の向上をはかる。医療経営分析にも、あるいは、マクロの医療費の構造分析にも役立てることが出来る。
 今問題になっている、DRGは、医療行為を、疾患別にパターン化して、行為分析して、標準化を図ろうとしている手法である。しかし、その土台である診療報酬制度が、不充分な出来高と、包括化であるため、医療行為を正確に反映していないため、その結果はほとんど役に立たないと思われる。現在の改革は、本来は医療行為の正確なパターン分析結果であるべきDRGを、まず最初にもってくるという、おかしなことになっている。それは、いわば標準化呪縛症である。PPS(包括化)は、医療費抑制を目的とするあまりの、上記の欠点を無視した乱暴な制度である。まずは、シンプルな出来高制度を作り、その詳細なデータ分析だけで、医療の標準化はできるし、質の向上も図れる。無駄は十分省ける。また消費者のご理解もえやすくなると思われる。包括化を急性期医療や、慢性期医療に導入しようとする動きがあるが、包括払いでは医療の透明性は確保できないし、医療の質の向上も望めない。それは医療の内部矛盾を拡大すると思われる。まずはいろんなシステムを持ち込むまえに、出来高を基本とした、現在の診療報酬制度の、スクラップアンドビルドからはじめるべきである。