地域から診療所が消える日

2009年12月24日本田整形外科クリニック 本田忠


日本の医療は世界一
 日本の医療は(1)国民皆保険(全国民が公的医療保険に加入)(2)現物給付(被保険者は診療や検査などの医療サービスを受けられる)(3)フリーアクセス(被保険者は希望する医療機関を選択できる)の三つの優れた特徴を柱に、国際的に見て低額な医療費で、高水準で安心できるサービスを提供しています。
 現在の国民皆保険制度ができたのは1961年です。この制度ができるまでは、お金がないため医療費が払えず病院にかかれなかったり、大変な思いをした人がたくさんいました。いつでも、どこでも、誰でも平等な医療を受けられる皆保険の始まりです。国民皆保険制度が導入されてから、日本人の健康指標は大きく改善しました。世界保健機関(WHO)が発表しているデータによると、日本の健康寿命は世界一、健康達成度の総合評価も世界一です。


日本の医療費は先進国で最低
 しかも国内総生産(GDP)比の医療費は、米国が世界一高いのに対し、日本は21位と、ずっと低くなっています。これは先進国の中で最低です。安い医療費で、これらの優れた成果を達成していることが分かります。

 日本の医療が世界一といっても、それほど実感がないかもしれませんが、医療に関して日本では当たり前と思っていることが、外国では当たり前ではありません。
 日本では予防注射の知らせが役所から自動的に届きますが、米国では届きません。日本では救急車は無料ですが、多くの国では有料です。医療機関の受診にも種々の制約があります。
 米国や英国、ドイツ、フランスなどの欧米の先進国に駐在しているわが国の企業の社員や家族の人たちは、病気になると一時帰国し、日本の病院で手術や治療を受けています。諸外国の医療は様々な制限があり問題が多いようです。
 日本では国民皆保険制度で誰もが平等に必要な医療が受けられますが、米国では加入している保険の種類(支払っている保険料の多い少ない)で医療の内容に差が付きます。無保険者は約5千万人いるといわれています。お金がなければ医療は受けられません。ここらの事情は米国映画のジョンQやシッコで活写されています。


医療崩壊の進行
 日本の医療保険制度は本来は世界一優れたもので、次世代にも受け継がれるべきものなのです。しかしそれは、少ないハード(医療機関)とソフト(医師)で辛うじて支えている、実に危ういバランスの上に成り立っているものです。

長年医療費は抑制されつづけています。
 人口の高齢化が進む中で、医療費の増加が問題とされ、抑制されています。
減らす理由
1)高齢化率が経済成長率より高い
 高齢化社会の到来により高齢人口増加率(3−4%)が、経済成長率(1ー2%)を上回る。
2)医療費の伸びが国民所得の伸びより高い
 医療費は、国民所得を上回る伸びを示している。特に老人医療費の伸びが著しい。これらを是正するためには、医療費を減らす必要があるとされました。


日本の医療費はいくら
 日本では、長期にわたり、医療費抑制策がとられています。2008年度の医療費は34.1兆円です。毎年1兆円増えるといわれてきた国民医療費は、2006年度は若干のマイナスとなりました。また、国民医療費の国民所得比も前年度を下回り、これは介護保険法が施行された2000年度を除くと1986年終わりから1991年初頭のバブル期以来のことです。

 


過度の低医療費政策が行われています。

 以下の表をみれば明確ですが、少なくとも過去30年に渡り、医療費は抑制され続けています。特に2002(平成14)年以降、給与費や消費者物価指数の減りより、診療報酬は、過度に抑制されています。

 2002年度よりは具体的には毎年2,200億円削減しつづけています。平成18年度で合計ー7.7%削減されました。



理念なき削減;財務省の論理
お金がないからとにかく減らす。

医療予算について財務省平成21年11月19日
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/iryo.pdf


医療機関は軒並経営は危機的状況です

 その結果日本全体で、医療崩壊が始まっています。病院は元より、診療所も軒並赤字になりつつあります。


日本の医療費は高いの
1)リハビリテーション
理学療法士によるリハビリテーション:20分(170点+再診料71点)241点です。1点10円ですから、合計2410円。一割負担で240円窓口で払えば良いだけです。コーヒー代よりも安くなっています。
2)脊椎麻酔:8,500円です。ちなみに美容院だと12,000円くらいでしょうか。


医療費の増加する原因は
 国民医療費は、高齢者人口の増加や医療技術、医療機器の進歩などにより、毎年自然に増えていきます。これを「医療費の自然増」といいます。
自然増の原因は
1)人口の増減、高齢化
2)医学、医療の進歩、新技術の導入
3)診療報酬改定
とされています。その比率は、だいたい医療の進歩:高齢化;改定=2:1;−1.5です。「医学の進歩」が、最も大きな要因とされています。

高齢化の影響は人口減少社会で下がってきている
 最近の傾向を見ると、人口増減・高齢化の影響が縮小してきています。高齢化は進展しているが、人口が減少して相殺されているからです。今後も人口増減・高齢化による伸び率は縮小していくと推察されます。

医療の高度化の伸びはどうなるのか
 医学が進歩すれば、当然、新しい医療技術や新薬が開発され、新しい医療機械が使われるようになります。国民の皆さんの健康を守るためには、医学の進歩を止めるわけにはいきません。よってこの自然増の部分を無理に抑えれば、医学の進歩の否定や、国民が必要な医療を受ける機会を奪うことになりかねません。また技術の進歩により、無制限に医療費が上がるとは限りません。例えば高額医療費の大部分を占める血友病は、人工血液が出来ればドラスティックに費用は下がります。


今後の医療費の伸びは2%で推移すると予測されています。
 人口増減・高齢化による伸びはかなり小さくなっており、また医療の高度化等の影響は2%未満です。医療費全体の伸びも2%台で推移していくのではないかと推察されます。それほど無制限に伸びるわけではなさそうです。


地域から診療所が消える日
 このまま医療費抑制策が続けば、地域から病院は元より、診療所も消える日がまじかです。国民の皆さんは現在の医療を受けれなくなります。医療機関の倒産は過去最高を更新し続けています。


参考文献
1)地域から診療所が消える日(初診料、再診料)
http://www.orth.or.jp/seisaku/siryou/kaitei/h21/saisin/kieru.html
2)2008年度の医療費について(その2) 日本医師会
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090805_2.pdf
3)医療費の自然増
http://www.orth.or.jp/Isikai/2008/now/iryouhi.html
4)日本の医療は世界一
http://www.orth.or.jp/Isikai/2008/now/nihon.html
5)整形外科医療の現状
http://www.orth.or.jp/seisaku/siryou/kaitei/h21/genzyou2009.html
http://www.orth.or.jp/seisaku/siryou/kaitei/h21/genzyou2009.doc
6)地域医療ナウ 本田原稿
http://www.orth.or.jp/Isikai/2008/now/index.html
7)医療予算について財務省平成21年11月19日
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/iryo.pdf