主病について

 ver2008年4月30日


 「主病は一つ」、「算定医療機関はひとつ」、「包括範囲はひとつ」が原則であるが、現在はやむをえない。現時点では受診制限できないために以下とする。

 「他院」で重複算定が不可なのは、「後期高齢者管理料」が重複した時と、「後期高齢者管理料」と「特定疾患療養管理料」が重複した時に限る。受診抑制が必要な時=患者登録制=「人頭制」が実行されるまでは、これで行くということになる。しかしこの解釈は、過度的とはいえ論理的整合性にかける見解であろう。現場においては、主病は絞りきれないし、算定する管理上からも、はなはだ無理がある。


1)A診療所で「後期高齢者診療料」、B診療所で「特定疾患療養管理料」を算定した場合には、A診療所は「出来高」での算定に変更して再請求しなければならないが、B診療所での「特定疾患療養管理料」の算定は可能である。

2)A医療機関で「後期高齢者診療料」を算定した場合、他の医療機関では、その他の「特定疾患療養管理料以外」の、特掲診療料である、「慢性疼痛疾患管理料ー心身医学療養管理料」の算定は可能である。(理由:患者の他の医療機関の受診を制限するものではないため、現状としては、やむをえない)

3)「後期高齢者診療料」を算定した場合に、「検査、画像診断、処置料」は包括となるが、他の医療機関を受診した場合においては、他の保険医療機関において「検査、画像診断、処置料」の算定は可能である。(理由:当該患者の受診を制限するものではないためやむをえない)

4)A診療所で「後期高齢者診療料」を算定し、B診療所で「特定疾患療養管理料」を算定した場合は、A診療所は出来高に変更する。
 A、B診療所いずれもが同時に後期高齢者診療料を算定した場合(A診療所もB診療所もともに出来高に変更となる)は数ヶ月を経た後にレセプトの突合によってはじめて明らかとなるため、さかのぼって医療費の精算をしなければなりません。


根拠;2008年4月25日愛媛社会保険事務局が厚労省に確認した見解
[問題I] 後期高齢者診療料を一医療機関が算定すると、同じ患者を診ている他の全ての医療機関で当該診療料だけでなく、以下の管理料も算定できなくなるのではないか。
特定疾患管理料、慢性疼痛疾患管理料、皮膚科特定疾患管理料、ウィルス疾患指導料、てんかん指導料、難病外来指導管理料、在宅療養指導管理料、心身医学療養指導料

[回答] 現段階の見解としてA診療所で後期高齢者診療料、B診療所で特定疾患療養管理料を算定した場合には、A診療所は出来高での算定に変更して再請求しなければならないが、B診療所での特定疾患療養管理料の算定は可能である。
(理由:B診療所で特定疾患療養管理料を算定することは主病にたいして様々な診療が行われ、A診療所において当該患者が主病を治療するための充分な説明とそれに基づく選択がなされた上での治療とは認められない)
 またA医療機関で後期高齢者診療料を算定した場合に他の医療機関でも慢性疼痛疾患管理料ー心身医学療養管理料の算定は可能である。(理由:患者の他の医療機関の受診を制限するものではないため、現状としては、やむをえない)

[問題II] 後期高齢者診療料を算定した医療機関以外の医療機関でも、同じ患者について、550点未満の検査、画像診断、処置が算定できなくなるのではないか。

[回答] 後期高齢者診療料を算定した場合に検査、画像診断、処置料は包括となるが、他の医療機関を受診した場合においては他の保険医療機関において検査、画像診断、処置料の算定は可能である。(理由:当該患者の受診を制限するものではないためやむをえない)
A診療所で後期高齢者診療料、を算定しB診療所で特定疾患療養管理料を算定した場合(前述、A診療所は出来高に変更)、またA、B診療所いずれもが同時に後期高齢者診療料を算定した場合(A診療所もB診療所もともに出来高に変更となる)は数ヶ月を経た後にレセプトの突合によってはじめて明らかとなるため、さかのぼって医療費の精算をしなければなりません。


詳論


原則
 自院、他院を問わず、主病は一つで主治医は一人で、かつ実態的に管理される必要がある。医学的に1つに決まる1人の患者の主病に対し、複数の医療機関で医学管理料を算定することは原則できない。複数の診療所で主病に対してさまざまな診療が行われることは、説明に基づく選択がなされた上での治療とは認められないから、算定できない。出来高で算定する。

1)主病は一つ
主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている慢性疾患をいう。
2)主治医は一人
 継続的な診療を提供する観点から、当該保険医療機関においては、同一の保険医による診療を行うことを原則とする。2以上の診療科にわたり受診している場合においては、主病と認められる慢性疾患の治療に当たっている診療科においてのみ算定する。
3)保険医療機関は一つ
 当該患者に対して主病である慢性疾患の診療を行っている保険医療機関が算定する。
4)主病は実態的に管理される必要がある
主病とする者に対し、実際に主病を中心とした療養上必要な管理が行われていない場合又は実態的に主病に対する治療が当該保険医療機関では行われていない場合には算定できない。
5)当該管理料の包括範囲はすべてひとつ。特掲診療料だけではない。


根拠
B000 特定疾患療養管理料
(8) 特定疾患療養管理料は、別に厚生労働大臣が定める疾患を主病とする者に対し、実際に主病を中心とした療養上必要な管理が行われていない場合又は実態的に主病に対する治療が当該保険医療機関では行われていない場合には算定できない。
(9) 主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている特定疾患をいうものであり、対診又は依頼により検査のみを行っている保険医療機関にあっては算定できない。
(10) 再診が電話等により行われた場合にあっては、特定疾患療養管理料は算定できない。

B016 後期高齢者診療料
(11) 後期高齢者診療料は、当該患者に対して主病である慢性疾患の診療を行っている保険医療機関が算定するものであること。
(12) 継続的な診療を提供する観点から、当該保険医療機関においては、同一の保険医による診療を行うことを原則とする。ただし、都合により他の保険医が診療を行った場合であっても、後期高齢者診療料を算定できることとする。
(13) 2以上の診療科にわたり受診している場合においては、主病と認められる慢性疾患の治療に当たっている診療科においてのみ算定する。
(14) 主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている慢性疾患をいうものである。
(15) 後期高齢者診療料は、別に厚生労働大臣が定める慢性疾患を主病とする患者に対し、実際に主病を中心とした療養上必要な管理が行われていない場合や対診又は依頼により検査のみを行っている場合などの実態的に主病に対する治療が行われていない場合には算定できない。

「主病は1つ」は以前からのルール
 原課長は、「1人の患者の主病を診る1医療機関が算定」との要件に反発があることに対しては、「医学的に主病は1つに決まるものであり、これは診療報酬上での以前からのルール。後期高齢者医療制度に合わせて突然出てきたルールではない。主病は医学的に客観的に1つに決めてもらわなければならない」と指摘。後期高齢者診療料が「医学管理料」の1つである以上、主病を診療する1医療機関が算定するという診療報酬上のルールは、ほかの医学管理料と同様に適用されると強調した。
4月7日 じほう

厚労省:長寿医療制度の診療報酬について
「主病」とは何だろう吉岡春紀先生


第2章特掲診療料<通則>訂正後青本p98
第1部に規定する特定疾患療養管理料、ウイルス疾患指導料、小児特定疾患カウンセリング料、小児科療養指導料、てんかん指導料、難病外来指導管理料、皮膚科特定疾患指導管理料、慢性疼痛疾患管理料、小児悪性腫瘍患者指導管理料及び耳鼻咽喉科特定疾患指導管理料並びに第2部第2節第1款の各区分に規定する在宅療養指導管理料及び第8部精神科専門療法に掲げる心身医学療法は同一月に算定できない。


通則の解釈
1)自院、他院で同時算定は不可
 主病規定がある管理料であれば、「主病」は一つ、「主治医」は一人、「一保険医療機関」であるから、主病で算定すれば、自院、他院問わず、特掲診療料の通則で規定された範囲の、他の管理料は算定できない
例;特定疾患指導料を算定すれば、他院では慢疼管は算定できない
 なおより詳しい、各管理料相互の併算可否は以下を参照ください。ただし前回の改定のものです。
併算定マトリックス


根拠
 通則に列記されているこれらの医学管理料について、「患者の主病を診る1医療機関が算定する」という厚労省の方針に変わりはない。つまりA診療所で特定疾患療養管理料を算定している患者に対し、B診療所がウイルス疾患指導料を算定することはできない。


「主病を診療する1医療機関が算定」が原則
  医学管理料のルール
 「1人の患者の主病を診る1医療機関が算定」という後期高齢者診療料の要件に、医療現場から反発の声が上がっていることに対し、厚生労働省保険局は「以前からの医学管理料の算定ルール」(医療課)と強調する。

 診療報酬点数表の「特掲診療料」の通則には、医学管理料のうち「特定疾患療養管理料」「ウイルス疾患指導料」「小児特定疾患カウンセリング料」「小児科療養指導料」「てんかん指導料」「難病外来指導管理料」「皮膚科特定疾患指導管理料」「慢性疼痛疾患管理料」「小児悪性腫瘍患者指導管理料」などは、同一医療機関で同一月に算定できないと明記されている。
 先月5日に出された医療課長通知では、「自院、他院を問わず同一月に算定できない」と明記されたが、「自院、他院を問わず」の部分は訂正通知で削除された。しかし、通則に列記されているこれらの医学管理料について、「患者の主病を診る1医療機関が算定する」という厚労省の方針に変わりはない。つまりA診療所で特定疾患療養管理料を算定している患者に対し、B診療所がウイルス疾患指導料を算定することはできない。

 診療報酬点数表の特定疾患療養管理料の欄には「主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている特定疾患をいうものである」と明記されている。医療課によると「患者の主病は医学的に1つに決まるものであり、その主病を診る1つの医療機関が医学管理料を算定する」というのが診療報酬算定上のルールということになる。

 このルールは、医学管理料の1つである後期高齢者診療料にも適用される。A医療機関でこれまで継続して特定疾患療養管理料を算定している患者に対して、B医療機関では後期高齢者診療料を算定できない保険局は「どちらが先かという話ではなく、 医学的に決定される主病を診ている医療機関が算定することになる」(医療課)と説明する。
 医学的に1つに決まる1人の患者の主病に対し、複数の医療機関で医学管理料を算定することは原則できない。先月28日に出された疑義解釈でも、「複数の診療所で主病に対してさまざまな診療が行われることは、説明に基づく選択がなされた上での治療とは認められないことから、いずれの診療所でも出来高で算定することとなる」と明記した。
4月7日 じほう


他の医療機関と算定が重複した場合はどうなるのか
 出来高で算定せよとはなっているが、「後期高齢者診療料」なら、患者さんに説明書が配布されるのである程度わかるが、それでも、整形外科で月初に、慢疼管を算定して、その後に内科で特定疾患指導料を算定した場合は、現場でチェックは不可能と思われます。
  内科的疾患と整形外科疾患が合併して複数科を継続的に受診していて、「主病を一つに限定せよ」というのははなはだ不合理です。
 少なくとも、以下の附録で考察したように、他院で算定不可となるのは、青本上で他院への算定制限が明記されて、かつ患者さんに算定が通知される「B016 後期高齢者診療料」のみとするべきです。それでも窓口で他院の患者さんに当該管理加算の算定有無を求めるのははなはだ困難です。慢疼管の算定も通知は要件に入っていないわけですからチェックできません。
 あるいはそれにくわえて、他に出来高の道のある「B000 特定疾患療養管理料」および、「7 難病外来指導管理料」の3つに限定される可能性もありますが、この2つの場合は、算定要件が、カルテ記載のみで患者さんには伝えられません。これでは他院では算定しているかどうか、現場では、まったくチェックのしようがないことになります。


1)特掲診療料通則は、あくまで「自院のみの同時算定不可規定」ですから、他院で算定できないのは、患者さんへの習知要件が明記されている、「B016 後期高齢者診療料」のみとなるべきと思われます。
 人頭制にして複数の医療機関への受診制限でもしない限り、複数の診療所による、このような考え方による現場での重複の算定管理は不可能です。
2)高齢者の疾患特性からは、あくまで「主病は複数」、「主治医は複数」であるべきと思われます。現状では重複の管理は困難です。


 以下は上記の通則解釈に関わらず、青本記載の点からのみ、字義上の解釈を行ったものです。


附録:その他の考察


保険診療上では実際には
後期高齢者診療料「行き着けなかった」
 原課長は今回の改定で意図した結果とならなかった点数として「後期高齢者診療料」を挙げ、「患者の自覚に基づいてアクセスを自らセーブしてもらうことを考えていたが、そこへは行き着けなかった」と述べた。
3月17日 じほう

解釈;算定が包括と出来高といずれかの選択性であるからか。あるいは以下の解釈か。


特掲診療料において具体的に主病の定義があるもの
1)B000 特定疾患療養管理料
2)5 小児科療養指導料250点
3)7 難病外来指導管理料250点
4)17 慢性疼痛疾患管理料130点
5)18 小児悪性腫瘍患者指導管理料500点
6)B001―3 生活習慣病管理料
7)B016 後期高齢者診療料600点


解釈
主病の入った管理料は同一月に、複数の医療機関で同時算定できない。
主病の入っていない管理料は同一月に、複数の医療機関で同時算定できる。
例;A医院で「B000 特定疾患療養管理料」を算定すれば、他院では「B000 特定疾患療養管理料」は算定できない
B000 特定疾患療養管理料をとって、B医院で17 慢性疼痛疾患管理料は算定できる。


同一保険医療機関内にて2つ以上の診療科にわたった場合は算定不可
B000 特定疾患療養管理料
B016 後期高齢者診療料


根拠
B000 特定疾患療養管理料
(7) 同一保険医療機関において、2以上の診療科にわたり受診している場合においては、主病と認められる特定疾患の治療に当たっている診療科においてのみ算定する。

B016 後期高齢者診療料
(13) 2以上の診療科にわたり受診している場合においては、主病と認められる慢性疾患の治 療に当たっている診療科においてのみ算定する。


他院で同じ管理料名では同時算定不可
B016 後期高齢者診療料
 明確な規定があるのはこの管理料のみ。過去の外総診と同じく「保険医療機関が算定」と明記されている。


根拠
B016 後期高齢者診療料
(11) 後期高齢者診療料は、当該患者に対して主病である慢性疾患の診療を行っている保険医療機関が算定するものであること。

(問67) 継続的に複数の診療所を受診している患者に対して、後期高齢者診療料を算定するのはいずれの診療所なのか。
(答) 後期高齢者診療料は、糖尿病などの慢性疾患を主病とする後期高齢者に対して、継続的な診療を提供し計画的な医学管理の下に、患者の心身の特性にふさわしい外来医療の提供を行う取組を評価するものである。複数の診療所において当該主病に対して様々な診療が行われることは、当該患者が主病を治療するために、説明に基づく選択がなされた上での治療とは認められないことから、いずれの診療所においても後期高齢者診療料は算定できず、出来高で算定することとなる。

(1) 老人慢性疾患外来総合診療料(過去の外総診規定)
G 外来総合診療料は、当該患者に対して主病である慢性疾患の診療を行っている一保険医療機関が算定するものであること。


拡大解釈:他院で重複した場合は算定できない:「実態的に主病に対する治療」要件規定
1)B000 特定疾患療養管理料
2)7 難病外来指導管理料
3)B016 後期高齢者診療料

 主病規定のある管理料においては、あくまで主病は一つで、主治医は一人であるから、自院他院では算定できない。疾病が複数あるならば主病とは認められない。「実態的に主病に対する治療」が要求される。よって、上記の3つの管理料に関して、算定が重複した場合は、主病に対して治療がなされていない(主病はひとつではない)と判断されるから、当該医療機関では算定できず、出来高となる。一方他院の通則の範囲の管理料も同時に算定できないことになってしまいます。従って、どちらを優先するのかは、過去の外総診の原則を利用するしかなくなる。

この解釈の運用上の問題
 以下の如く、いずれも算定要件はカルテ記載のみで患者さんに習知されない。他院では一切把握できない。よって重複算定を回避できない。この規定は算定上ははなはだ、無理があると思われます。
B000 特定疾患療養管理料
(6) 管理内容の要点を診療録に記載する。
7 難病外来指導管理料
(4) 診療計画及び診療内容の要点を診療録に記載する。

なお過去の外総診では重複した場合は以下の如き調整が必要であったが、後期高齢者診療料でも、同様となるのか。

過去の外総診重複規定:老人慢性疾患外来総合診療料の重複算定が判明した場合の方針
一 患者が老人慢性疾患外来総合診療料の算定について、いずれかの保険医療機関を選択した場合にあっては、当該選択された保険医療機関が老人慢性疾患外来総合診療料を算定する。
二 一以外の場合にあっては、中断なく老人慢性疾患外来総合診療料を算定していた保険医療機関であって、当該診療料の初回算定日の早い保険医療機関が老人慢性疾患外来総合診療料を算定する。


根拠
(問67) 継続的に複数の診療所を受診している患者に対して、後期高齢者診療料を算定するのはいずれの診療所なのか。
(答) 後期高齢者診療料は、糖尿病などの慢性疾患を主病とする後期高齢者に対して、継続的な診療を提供し計画的な医学管理の下に、患者の心身の特性にふさわしい外来医療の提供を行う取組を評価するものである。複数の診療所において当該主病に対して様々な診療が行われることは、当該患者が主病を治療するために、説明に基づく選択がなされた上での治療とは認められないことから、いずれの診療所においても後期高齢者診療料は算定できず、出来高で算定することとなる。

 このQandAは厚労省のものです。自院と他院における、同じ管理料名である、後期高齢者診療料の重複不可規定です。いささか拡大解釈ですが、このQandAが適応されるのは、以下の3つの管理料において、「実態的に主病に対する治療」という注釈のある管理料と判断される。また、同一管理料名のみならず、ここにあげた3つの管理料のクロス算定禁止になるかどうかは、通則の解釈による。通則における重複算定禁止が、リストにあげられた管理料が、すべて、「自院他院とわず」であれば、3つの管理料いずれかを算定した場合は、自院他院とわず、当該管理料を含む通則のすべての管理料はいずれも算定できません。出来高とする。たとえば他院整形外科で慢疼管を算定した場合は、自院においては、当該管理料は算定せず、出来高とする。他院の慢疼管は算定できる。どちらを優先するのかは外総診規定となるのか。
 しかし通則が「自院のみの規定」であれば、他院では同一名の管理料は、算定できないが、他の管理料は他院では算定できる。

B000 特定疾患療養管理料
(
8) 特定疾患療養管理料は、別に厚生労働大臣が定める疾患を主病とする者に対し、実際に主病を中心とした療養上必要な管理が行われていない場合又は「実態的に主病に対する治療」が当該保険医療機関では行われていない場合には算定できない。
7 難病外来指導管理料
(3) 別に厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者にあっても、実際に主病を中心とした療養上必要な指導が行われていない場合又は「実態的に主病に対する治療」が行われていない場合には算定できない。
B016 後期高齢者診療料
(15) 後期高齢者診療料は、別に厚生労働大臣が定める慢性疾患を主病とする患者に対し、実際に主病を中心とした療養上必要な管理が行われていない場合や対診又は依頼により検査のみを行っている場合などの、「実態的に主病に対する治療」が行われていない場合には算定できない。

(問66)同一月内において、患者が後期高齢者診療料を算定している診療所を別の診療所に変更した場合、変更後の診療所においても後期高齢者診療料が算定できるのか。
(答) 後期高齢者診療料は、糖尿病などの慢性疾患を主病とする後期高齢者に対して、継続的な診療を提供し計画的な医学管理の下に、患者の心身の特性にふさわしい外来医療の提供を行う取組を評価するものである。従って、他の診療所で受診した直後において、後期高齢者診療料を算定することは望ましくないことから、同一月において後期高齢者診療料を算定するのは、当該月の前月まで継続して後期高齢者診療料を算定していた診療所となる。


青本からの解釈まとめ。

1)「後期高齢者管理料」は「特掲診療料通則」にははいっていない。あくまで別物
 自院他院問わず「
通則の範囲の管理料」は算定不可。
2)主病のある管理料は同一月に、複数の医療機関で同時算定できない。
 主病の入っていない管理料は、同一月に、複数の医療機関で同時算定できる。
3)「特掲診療料通則」は自院のみは算定不可。他院では重複算定可。
 記載で「自院他院とわず」が消えた。
通則は、あくまで「自院のみ」での相互の同時算定不可規定。よって「他院」では同一管理料名でも算定可である。


○後期高齢者診療料
1)同一管理料の場合、他院では算定不可
A医院で「後期高齢者診療料」を算定すれば、B医院では「後期高齢者診療料」は算定不可。
2)「特掲診療料通則の範囲の管理料」は、他院では算定不可=出来高となる。
 A医院で「後期高齢者診療料」を算定すれば、B医院では「特定疾患療養管理料」など「通則の範囲の管理料」たとえば「慢疼管」は算定不可。
 よってA医院では「後期高齢者診療料」は算定できない。出来高とする。結果としてB医院では「通則の範囲の管理料」は算定可となる。
例;A医院で「B000 特定疾患療養管理料」を算定すれば、他院では「B000 特定疾患療養管理料」は算定できない

○主病のある管理料は、自院他院とわず「同一管理料の算定」は不可
例;A医院で「B000 特定疾患療養管理料」を算定すれば、他院では「B000 特定疾患療養管理料」は算定できない
A医院で「B000 特定疾患療養管理料」を算定して、B医院で「17 慢性疼痛疾患管理料」は算定できる。

「特掲診療料通則」は自院のみは算定不可。他院では重複算定可。
A医院で「特定疾患療養管理料」を算定しても、B医院では「特定疾患療養管理料」は算定可。


主病の定義がある特掲診療料
第2章特掲診療料
第1部医学管理等

B000 特定疾患療養管理料
(1) 特定疾患療養管理料は、生活習慣病等の厚生労働大臣が別に定める疾患を主病とする患者について、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を行うことを評価したものであり、許可病床数が200床以上の病院においては算定できない。
(2) 特定疾患療養管理料は、別に厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者に対して、治療計画に基づき、服薬、運動、栄養等の療養上の管理を行った場合に、月2回に限り算定する。
(6) 管理内容の要点を診療録に記載する。
(7) 同一保険医療機関において、2以上の診療科にわたり受診している場合においては、主病と認められる特定疾患の治療に当たっている診療科においてのみ算定する。
(8) 特定疾患療養管理料は、別に厚生労働大臣が定める疾患を主病とする者に対し、実際に主病を中心とした療養上必要な管理が行われていない場合又は実態的に主病に対する治療が当該保険医療機関では行われていない場合には算定できない。
(9) 主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている特定疾患をいうものであり、対診又は依頼により検査のみを行っている保険医療機関にあっては算定できない。

5 小児科療養指導料
(1) 小児科を標榜する保険医療機関のうち、他の診療科を併せ標榜するものにあっては、小児科のみを専任する医師が一定の治療計画に基づき療養上の指導を行った場合に限り算定するものであり、同一医師が当該保険医療機関が標榜する他の診療科を併せ担当している場合にあっては算定できない。ただし、アレルギー科を併せ担当している場合はこの限りでない。
(3) 小児科療養指導料は、当該疾病を主病とする患者又はその家族に対して、治療計画に基づき療養上の指導を行った場合に月1回に限り算定する。ただし、家族に対して指導を行った場合は、患者を伴った場合に限り算定する。

7 難病外来指導管理料
(1) 難病外来指導管理料は、別に厚生労働大臣が定める疾病を主病とする患者に対して、治療計画に基づき療養上の指導を行った場合に、月1回に限り算定する。
(3) 別に厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者にあっても、実際に主病を中心とした療養上必要な指導が行われていない場合又は実態的に主病に対する治療が行われていない場合には算定できない。
(4) 診療計画及び診療内容の要点を診療録に記載する。

17 慢性疼痛疾患管理料
(1) 慢性疼痛疾患管理料は、変形性膝関節症、筋筋膜性腰痛症等の疼痛を主病とし、疼痛による運動制限を改善する等の目的でマッサージ又は器具等による療法を行った場合に算定することができる。

B001−3 生活習慣病管理料
(1) 生活習慣病管理料は、脂質異常症、高血圧症又は糖尿病を主病とする患者の治療においては生活習慣に関する総合的な治療管理が重要であることから設定されたものであり、治療計画を策定し、当該治療計画に基づき、服薬、運動、休養、栄養、喫煙及び飲酒等の生活習慣に関する総合的な治療管理を行った場合に、許可病床数が200床未満の病院及び診療所である保険医療機関において算定する。なお、区分番号「A000」初診料を算定した日の属する月においては、本管理料は算定しない。
(7) 同一保険医療機関において、脂質異常症、高血圧症又は糖尿病を主病とする患者について、生活習慣病管理料を算定するものと算定しないものが混在するような算定を行うこと

B016 後期高齢者診療料
(1) 後期高齢者診療料は、慢性疾患を有する後期高齢者に対し、継続的な診療を提供し計画的な医学管理の下に、患者の心身の特性にふさわしい外来医療の提供を行う取組を評価するものであり、診療所及び当該病院を中心に半径4キロメートル以内に診療所が存在しない病院において算定できることとする。
(11) 後期高齢者診療料は、当該患者に対して主病である慢性疾患の診療を行っている保険医療機関が算定するものであること。
(12) 継続的な診療を提供する観点から、当該保険医療機関においては、同一の保険医による診療を行うことを原則とする。ただし、都合により他の保険医が診療を行った場合であっても、後期高齢者診療料を算定できることとする。
(13) 2以上の診療科にわたり受診している場合においては、主病と認められる慢性疾患の治療に当たっている診療科においてのみ算定する。
(14) 主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている慢性疾患をいうものである。
(15) 後期高齢者診療料は、別に厚生労働大臣が定める慢性疾患を主病とする患者に対し、実際に主病を中心とした療養上必要な管理が行われていない場合や対診又は依頼により検査のみを行っている場合などの実態的に主病に対する治療が行われていない場合には算定できない。
(16) 同一保険医療機関において、別に厚生労働大臣が定める慢性疾患を主病とする複数の患者の診療を行っている場合において、後期高齢者診療料を算定する患者と算定しない患者が混在することはありえるものであること。
(19) 後期高齢者診療料は、当該点数を算定後であって病状の急変等により自院又は他院に入院した場合であっても算定できることとする。


○老人慢性疾患外来総合診療料の取扱いについて
(平成一〇年三月三一日)(老健第六九号) (各都道府県老人医療主管部(局)老人医療主管課(部)長・社会保険診療報酬支払基金理事長・国民健康保険中央会長あて厚生省老人保健福祉局老人保健課長通知)
標記については、「老人診療報酬点数表の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」(平成一〇年三月一六日老健第三七号)により本年四月の老人診療報酬改正に伴う留意事項を定めたところであるが、さらに、当該診療料に係る重複算定の取扱い等について、左記のとおり取り扱うこととしたので遺憾のないよう関係者に対し周知徹底を図られたい。

一 趣旨
老人慢性疾患外来総合診療料(以下「外総診」という。)は、主病である慢性疾患の診療を行っている一保険医療機関が算定するが、「老人診療報酬点数表の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」(平成一〇年三月一六日老健第三七号)第一の二のTの(1)のHに該当する場合は、一時的に複数の保険医療機関が外総診を算定することとなることから、当該事実が判明した場合の取扱い等を定めるものである。
二 外総診の重複算定時の取扱い
(一) 市町村又は保険者は、診療報酬明細書の点検等において外総診の重複算定が判明した場合、患者に対して外総診の趣旨を説明し適切な受診の指導を行うとともに、審査支払機関に対して当該患者及び重複算定となっている保険医療機関に関する情報を連絡する。
(二) 審査支払機関は、市町村又は保険者からの依頼等により重複算定となっている事実が判明した場合、次に掲げる方法により取り扱う。
@ 保険医療機関に対して外総診の算定が重複している旨(当該患者名及び他の外総診算定保険医療機関名を含む。)を連絡し、別紙の方針に基づき、今後いずれの保険医療機関において外総診を算定すべきかについて、患者の意思を踏まえて判断するよう審査委員会審査委員長(会長)名により依頼する。
なお、審査支払機関は、保険医療機関に連絡する場合、重複算定がやむを得ない理由によることを確認することとするが、それまでの間、診療報酬明細書は審査支払機関において保留しておくものとする。
A 「やむを得ない理由」とは、次に掲げる事由のため他の保険医療機関において既に外総診を算定していることを把握できない場合をいう。
ア 当該患者の健康手帳が更新された場合
イ 当該患者が健康手帳を紛失した場合
ウ 災害による緊急時等のため健康手帳の提示がなかった場合
(三) 審査支払機関から(二)の@の連絡があった時点以降については、事由にかかわらず、一保険医療機関のみが外総診を算定できるものであること。

別紙
老人慢性疾患外来総合診療料の重複算定が判明した場合の方針
一 患者が老人慢性疾患外来総合診療料の算定について、いずれかの保険医療機関を選択した場合にあっては、当該選択された保険医療機関が老人慢性疾患外来総合診療料を算定する。
二 一以外の場合にあっては、中断なく老人慢性疾患外来総合診療料を算定していた保険医療機関であって、当該診療料の初回算定日の早い保険医療機関が老人慢性疾患外来総合診療料を算定する。

(1) 老人慢性疾患外来総合診療料(過去の外総診規定)
@ 老人慢性疾患外来総合診療料(以下「外来総合診療料」という。)は、別に厚生大臣が定める慢性疾患を主病とする患者(以下「老人慢性疾患患者」という。)に対し、計画的な医学管理の下に、適切な外来医療を提供する観点から設定されたものであり、これにより老人慢性疾患患者の心身の特性にふさわしい外来医療の提供を図るものであること。
A 老人慢性疾患外来総合診療料届出保険医療機関における外来総合診療料の算定については、原則として当該届出保険医療機関のすべての老人慢性疾患患者を対象とするものである。したがって、当該保険医療機関が、個々の老人慢性疾患患者について、外来総合診療料を算定するか否かを選択することはできないものであること。ただし、当該患者の病状が急性増悪等の状態にある場合においては、その旨を診療報酬明細書に付記することにより、その間における月にあってはこの限りではないこと。
B 外来総合診療料の算定にあたっては、初回の診療時において患者に対して当該診療料の趣旨を十分説明し、その同意を得ること。
E 主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている疾患をいうものであり、対診又は依頼により検査のみを行っている保険医療機関にあっては外来総合診療料は算定できないものであること。
また、二以上の診療科にわたり受診している場合においては、主病と認められる慢性疾患の治療に当たっている診療科においてのみ算定すること。
G 外来総合診療料は、当該患者に対して主病である慢性疾患の診療を行っている一保険医療機関が算定するものであること。


対診:他の医師にその患者の診察を求め意見を聞くこと

保険医療機関及び保険医療養担当規則:
(昭和三十二年四月三十日厚生省令第十五号)
(転医及び対診)
第十六条  保険医は、患者の疾病又は負傷が自己の専門外にわたるものであるとき、又はその診療について疑義があるときは、他の保険医療機関へ転医させ、又は他の保険医の対診を求める等診療について適切な措置を講じなければならない。

医師の職業倫理指針(日本医師会)
(12)対診、またはセカンド・オピニオン
 医学・医療の進歩、複雑化に伴い、医師が診療上自ら解決できない疑問をもつことも多くなってきた。そういった場合には、「他の医師にその患者の診察を求め意見を聞いたり」(対診)、情報を提供して意見を求めることが必要である。また、医師は患者から要請を受けた場合はもとより、そうでない場合においても、必要とあれば患者に対診あるいはセカンド・オピニオンを求めることを勧めるべきである。その際、他の医師の意見を求めやすい環境や雰囲気を作るよう努めることが望ましい。一方、対診を引き受けた医師は、与えられた情報のなかで患者に対し客観的な所信を誠実に述べ、その結果を遅滞なく主治医に報告する必要がある。必要にかなう対診やセカンド・オピニオンは患者・医師双方に有用であることが多く、より良い意思決定のために推進されるべきである。しかし、対診であっても診療上の責任は最後まで主治医にあることを認識し、他の医師の意見を尊重して自己の診療方針のなかに取り入れ、最も適切と思われる治療を行うよう努力すべきである。
出典日本医師会:医師の倫理 1951年9月


参考文献
平成16年4月診療報酬改定
平成14年度 診療報酬点数表等改定Q&A
厚労省:長寿医療制度の診療報酬について
「主病」とは何だろう吉岡春紀先生


総合医問題


 患者さんは自由に通院先を選択できなくなります。
 イギリスの総合医では一人で開業する形態はほとんどありません。複数の家庭医が協力するグループ診療を行っている。現在の医療水準では一人で全ては事実上無理ということであろう。
 いずれにしろ総合医教育だけですむ問題ではない。グループ診療制度まで視野に入れたシステムとして導入しないとまともに動くわけがない。地域における開業形態が根本的に変わってくることになりそうです。
 独立開業であればイギリスの如く、まず零細となる。看護師さんもおかない、家族経営となるでしょう。


日医の見解:内田健夫・日本医師会常任理事
「日医生涯教育制度の有効性について」
 厚労省の「総合科」は、日医の方針はこれまで通り断固反対である「総合診療医は、総合科医とはまったく異なる概念であり、地域で長期にわたって医療の提供を継続し、誕生から介護、看取りまで、住民のライフステージに自主的にかかわる医師」である。
 日医会内で検討している「総合医」の呼称を「総合診療医」 (仮称)とするよう提言した。日医で検討している「総合医」が厚生労働省の提唱する「総合科構想」と名前が似通っており、地域で混乱を招きかねないことから、「総合科構想」と明確に区別するため。

日本医師会第IV次生涯教育推進委員会答申:平成20年3月
 名称については、前述のように「厚生労働省の提唱する総合科構想」と、日本医師会生涯教育制度で推進している「総合医(仮称)」とが似通っており、地域において混乱を招きかねないことから、厚生労働省の提案する総合科構想と明確に区別するため、日本医師会と関連3学会(日本プライマリ・ケア学会、日本総合診療医学会、日本家庭医療学会)等で認定する制度については、本委員会では、総合医ではなく、「総合診療医」と呼ぶことを提言したい。


イギリスの総合医
1)一人で開業する形態はほとんどない
 英国の家庭医は医療の範囲が異る。家庭内暴力、離婚相談から予防からうけるようです。家庭医の約5分の4が、診療活動に関して複数の家庭医が協力するグループ診療を行っている。一人開業は10%以下というデータもある。元題の医療水準では一人で全ては事実上無理ということであろう。一方日本は現在のところグループ診療はほとんどない。医療は極めてドメスティックな制度でそれぞれの歴史の上に成り立っていると思います。  いずれにしろ総合医教育だけですむ問題ではない。グループ診療制度まで視野に入れたシステムとして導入しないとまともに動くわけがない。地域における開業形態が根本的に変わってくることになりそうです。
2)GP一人あたり登録患者は約1000-1500名。
3)シングルであればまず零細となる。看護師さんもおかない、家族経営であるところも少なくありません。
4)患者さんは自由に通院先のGPを選択できますが、一旦決めたら、引き続きそこに通うことになります。
5)患者さんは、専門医による治療を阻まれると思うことが多い。
6)GPと専門医とのコミュニケーションが大変悪い


参考文献
英国における社会福祉
英国(UK)におけるWBLの実際 〜 英国の医療・福祉政策と改革
英国のプライマリケアは、「病院以外で人々が受ける医療」を意味している。医療を受けたい利用者は、救急の場合を除き、まず地域の診療所に出向きそこでGP(General Practitioner)から必要な医療を受ける。専門医への紹介が必要な場合には、他の病院や専門施設を紹介するのである。GPは英国のプライマリケアを担う「家庭医」であり、PCTと契約を結び、診療所では複数のGPがグループ診療をしていることが多い。NHS医療を受けるためには、住民は必ず地域のGPに登録しなければならないので、専門的な治療を受けたい場合でも、GPの紹介がなければ長期間待機などかなり手間取ることになる。

岡部陽二のホームページ
岡部 一人のGPに何人位の患者さんが登録されているのでしょうか。
Dr.HILL GP一人あたり約1,000人です。都市部では患者数が多く、地方では少ない傾向があります。また、貧困者が多い地域では追加補助金が支給されますので、登録リストに載せる患者数を減らすことができます。

岡部 診療所における医師や看護師の構成はいかがですか。
Dr.HILL 都市部の診療所の約40%は医師一人で運営されていますが、他の医師を雇っているケースもあります。看護師は診療所によっていないこともあり、受付係も同様です。非常に小規模な事業で、家族経営であるところも少なくありません。

岡部 それでは数名の医師と数名の看護師を抱えておられる、このKilburn Park Medical Centreはかなり大きな医療センターですね。
Dr.HILL ここは結構大きな診療所だと思います。われわれは「シングル・ハンデッド(人手を借りずに独力で運営している)診療所」と呼んでいますが、英国ではスコットランドの島嶼のような僻地を除いて、「シングル・ハンデッド診療所」は数少なく、またこの種の施設は減少しつつあります。非効率であると考えられているため、政府も好ましく思っていません。おそらく「シングル・ハンデッド診療所」は今後も減少するでしょうが、専門分野の異なる医師とのコミュニケーションが図れるため、患者さんには非常に人気があります。
現在こうした施設で働いてきた医師の多くが、引退期に差し掛かりつつあり、引き継いでくれる医師を見つけるのはかなり困難です。

岡部 GP制度の内包するデメリットについてお聞かせください。患者さんは特定のGPに行かなければならないなど、この制度は非常に厳格に実施されていました。
 私はロンドンで邦銀の経営をしていたことがありますが、当時、従業員が一寸した風邪でも一日勤務を休まねばならない点に大変な不便さを感じていました。GP制度があるため、従業員は住居のある地域の登録GPに通わなければならなかったからです。
Dr.HILL 今ではかなり緩和され、患者さんは自由に通院先のGPを選択できますが、一旦決めたら、引き続きそこに通うことになります。通院を登録GPに限定し、一人の医師とのコミュニケーションを良好に保つことが、患者さんの利益に繋がると考えられているからです。
 また、現時点ではGPではなく看護師が運営していますが、予約なしで通勤途上で診てもらえる医療センターもできました。GP制度も弾力化の方向で変わりつつあります。

岡部 通院先GPを一旦決めたら変更できないことは、依然として特に都市部で働く会社員などにとって便利な制とには思えませんが。また、不便さを避けるために勤務先近くの民間GPに通院すれば、全額自己負担になってしまう点も問題です。
Dr.HILL ロンドンにはNHSに属さない多くの民間GPがあり、従業員に対するフリンジ・ベネフィットとしてそれら民間GPや病院への支払いを別途民間保険でカバーしている企業もあります。確かにGP制度は会社員などにとっては不便ですが、英国では伝統的に実施されてきたため、患者さんが自ら症状に応じた医師を選ぶ判断ができず、他の制度を好まない傾向があります。
 逆に、民間医療保険制度から移ってきた患者さんはGP制度が理解できず、専門医による治療を阻まれると思うことが多いようです。
 本当の問題は、GP制度が長期間実施されてきたため、専門医にはゲートキーパーとしての能力がなく、複雑な問題に対する処理能力が養われていないことです。したがって、万一GPがゲートキーパーの役割を放棄すれば、専門医はこれに対応できず、結局は別のゲートキーパー制を導入せざるをえないでしょう。 また、現状では患者さんが専門医に診てもらうにはGPの紹介状がなければなりませんが、GPが紹介しても専門医の診察を受けるまでに長期間待たなければなりません。
 GPが専門医の診察が必要であると判断したときは、すぐに専門医が診察できる体制であるべきです。われわれはそうした主張を始めており、現に変わりつつあります。

Dr.HILL GP制度は十分に効率的であり、最も効果的な制度の一つだと考えています。
 しかしながら、大きな問題はGPと専門医とのコミュニケーションが大変悪いことです。GPが患者さんを病院に紹介した場合、その後は患者さんが専門医の適切な診察を受けたのか否かさえ分かりません。紹介しても、手術まで長期間待たされることも日常茶飯で、専門医がフルに働いているとは思えません。

武藤正樹 日本の医療を変えよう 医療への提言
付属資料(ヨーロッパ4カ国のヒアリング結果)
イギリスにおけるCasemix 分類(HRG)について