市場原理の医療

1)高福祉国家が必ずしも経済の活性化を阻害しない
2)高齢化社会と医療の進歩の財源はそう巨額ではない
3)財源は多様なアイディアがでてきている。消費税の増税のコンセンサスもえられつつある。
4)皆保険制度と混合診療禁止を守れば医療費は押さえることが可能である

参考文献
医療政策を考える会
日医混合診療ってなに?−Q&A−

==質問:村上龍============================================================
Q:430
構造改革特区の申請には、農業・教育・医療などへの「株式会社の参入」が目立ちます。株式会社化は、農業や教育や医療などの活性化や再生に有効なのでしょうか?
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■村上博美:ワシントンDC在住シンクタンク研究員
「農業、教育、医療はNPOでも可能〜米国の例から」
 何をもって、「活性化」や「再生」を測るのかということがあります。それはサービス提供を受けている人の満足度がアップすることなのか、誇大な国の財政支出の削減なのか、患者が支払う医療費の削減なのか、倒産する病院の数が減ることなのか。株式会社の医療参入は、何を最終的な目的とした手段なのか明確ではないようです。財政支出だけに限っていうのであれば、(米国の90年代の高齢者保険の部分市場化の例では)民間参入によって財政負担は減らなかった事実があります。米国の例からの教訓は、一度民間導入がされてしまえば、もう元には戻せないということです。

 「市場の失敗」という概念で説明されるサービス、利潤が少なく商業ベースとして企業が参入したがらないものや、「利益を追求しないNPOなら信用できる」と消費者が企業よりもNPOが提供することを望むものがあります。

 米国NPOの中でも大きな位置を占めるのが医療関連分野です。人の命を扱う分野は、企業がコスト削減をし利益をあげる市場経済モデルが必ずしも社会的価値観と合致しません。医療の市場化が進んでいる米国でさえ、無償医療や研究といった社会的目的を掲げるNPO病院が半数を占めます。しかし、医療関連分野では80年代から営利企業の参入が相次ぎ、商業主義に追随せざるを得ないため、コスト削減分が患者へしわ寄せされ、NPO病院は経営難に陥り撤退が相次ぐなど社会問題化しています。

 米国では営利団体(株式会社など)と非営利団体(NPO)の存在目的が明確で、そのガバナンスや経営インセンティブに違いが明らかです。そもそも株式会社などの営利企業活動は、モノやサービスを社会に提供して、経済的利益を最大化させるために考え出された仕組みで、つまり、リスクを分散し、コストを最小にし採算の合わない事業には手をださないでしょう。

 一方、NPOは連邦税制によって規定され、すべて税制優遇を受けます。クライアントではなく不特定多数をサービスの対象とし、活動で得られた利益を団体の理事へ配当してはいけない(株式会社のように株主へ利益の配当を行わない)。つまり、寄付者からの意向による影響はある程度無視できないとしても、外部の人間によって運営や活動が左右されることをできるだけ制限し、金銭的利益の追求を目的として掲げません。利益に上限はないけれど、利益を内部に再投資することが条件です。また、金融エクイティ市場での資金調達は行えず、教育、教会、科学、貧困救済など社会全体の広義の利益となる、連邦税制501(c)(3)項の慈善団体と認められれば、連邦税の免除及び寄付金の所得税控除(寄付金を拠出した人が寄付金分を所得税額から差し引くこと)が適用できます。また、公的金融市場から借り入れを行う場合、債券発行が非課税となったり、州レベルでは、固定資産税や購入物品の消費税分が免除となります。

 日本で病院の株式会社経営をと唱える人が目立ちますが、NPOと営利病院が混在する米国の例を見る限り、競争の激化は必ずしも患者全体にとって好ましい結果となっていません。営利目的で営業・経営を行う病院は、花形医師をスター選手のように高額給与で引き抜き、先端医療の提供、裕福層の顧客の囲い込みを行う。その結果、裕福層の顧客がついた医師のいる病院は利益をあげますが、裕福層のパイは限られているので皆が皆成功するとは限りません。例えば、サウジ王室御用達で、病院の屋上のヘリポートへ直接病人が運ばれてくるような病院はそういくつもありません。

 営利目的の病院は当然ながら、利幅の少ないメディケード(低所得者公的保険)・メディケア(高齢者公的保険)の患者を受け付けない等、利潤を追求した経営を行います。一方、NPO病院の場合、所得・固定資産税免除、及び無税債券の発行により資金調達のコストが低く抑えられます。得られた利益を低所得者への医療行為や医療研究に投資したり、営利病院よりも多くの割合の利益を職員の給料に割り当てるNPO病院は、経済利益以外のインセンティブがあるために営利へくら替えする比率が低いと言われています。
 しかし、経営難からNPOの営利病院へのくら替えが起こると、一般に医療の質が下がるという統計が出ています。また、NPOと営利病院の競争が激しい地域では、撤退により地域の病院の数が減り、結果的に患者の待ち時間は増えることになります。

 勤労世帯への国民皆保険制度が整備されていない米国では、企業の七割が民間医療管理機関(HMO)に加入しています。診療時間や医師や薬の種類などを制限する管理医療です。そのHMO市場でも営利会社とNPOが共存しますが、競争が患者にとってバラ色の結果をもたらすわけではありません。HMOが生き残るためには、契約する企業へいかに低料金のサービスを提供できるかの競争となります。

 その結果、NPOでも営利企業と同じ商業主義になる傾向があります。営利HMOは高いリスクが集中している地域や利益率の低いグループへはサービス提供を行わないなど、徹底して金銭的利益の最大化を追求します。そういった営利HMOと競争するために、非営利HMOも営利HMOが積極的に行っている“チェリー・ピッキング(加入者選別)”を行い、その結果選別した加入者のガンや心臓病などにかかる割合は、選別しなかった場合に比べ15〜20%減るといわれています。その他、HMOは医者や診療内容を制限するため、貧しい人たちばかり診るなどコスト高の医師を保険がカバーするリストからはずすといった影響力を行使するため、患者が継続して同じ医師にかかることができなくなるケースもあり、医師からも適切な治療ができないとの批判が多いことも事実です。

 最近の例では、NPOの医療保険組織ブルークロス・ブルーシールド(320万人加入)が、カリフォルニアの営利HMOに身売りをしようとして、子供の医療費をカバーしないと突然宣言したが、社会的に問題になり撤回しました。

 NPOのガバナンスについては利害衝突や内部の投資判断、資金集めについて問題が残されていますが、NPOの定義が連邦税制により厳密にしかも一義的に行われ、利潤の分配や営利活動に従事すれば税制優遇特権が剥奪されるという懲罰もあり、NPOと営利団体の境界線は比較的明確です。一方、日本では、包括的に非営利団体を法人化する法律はなく、180を超える個別特別法がその公益と営利のすき間を埋めています。非営利だけの法人法がないために、営利ではないけれども積極的に公益も目的としない、いわば公益と営利の中間に位置する団体(自称NPO)が市民を混乱させています。不況時においてもNPOセクターは着実な経済成長をもたらすと同時に雇用の受け皿にもなるため、今後医療に限らず教育や他の公共性の高い分野で政府の仕事をアウトソーシングするなどNPOセクターの拡大を進める必要があるのではないでしょうか。そのためにも株式会社の参入といった部分的なことが議論されることより、公益活動全般の根本的な改革(NPO法の整備)や、全体像からの改革の視点が望まれます。
※朝日新聞社「論座」2003年7月号「米国:NPOと会社の境界線」参考。
シンクタンク研究員:村上博美

米国も高齢化社会対策で追加投資決定
 [ラスベガス 2003/11/25 ロイター] ブッシュ米大統領は、高齢者・身障者向けの公的医療保険制度改革法案の議会可決を歓迎する、と述べた。改革により、高齢者と身障者向けの処方箋薬が保健給付対象となり、サービスの競争が促進されることになる。  民主党員からは、この法案は不十分で、医薬品・保健業者に金をばらまく結果になるとの批判が出ていたが、上院はこの日、今後10年間にわたる4000億ドル規模の改革法案を可決した。
 同大統領は、病院で行われた高齢者と保健専門家らの会合で、「これまでのメディケアはよい制度だったが、老朽化し、措置が必要となっていた。議会と両政党の行動により、メディケア制度は近代化され、強化される」と語った。(ロイター)
医学書院/週刊医学界新聞
第2470号 2002年1月21日