日本の医療は風前の灯

2006年3月14日本田整形外科クリニック 本田忠

○国の現状:弱肉強食の社会作り。
 国家財政は破綻しています。そのために小泉内閣は、聖域なき構造改革のスローガンの元に「小さな政府」を目指すという事で、国家予算の縮小、予算の重点配備(減り張りある予算配分)、社会保障などは絞る必要があるという方針を明確に出しております。官民癒着を排しましょう。民活を利用しましょう。自己責任の原則で行いましょうとのことです。しかし「がんばるものは報われる社会」というのは、逆にいえば「がんばらないものは報われない社会」、弱肉強食の社会でもあります。自民党をぶっ壊すとか癒着の防止とか、改革幻想を振撒きながら、小泉内閣の本質は酷薄なリストラ内閣であるともいえます。美辞麗句に惑わされないようにしないといけません。
財政をめぐる状況について(財務省)
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○財務省の論理:医療費を減らせ。
 政府によれば、日本の医療費の伸びは現在、国民所得をうわまり伸びています。特に老人医療費の伸びが著しい。既に国民医療費の3分の1を越えています。何とかしなければならない。経済が破綻している現状で、過大な福祉への要望は、あきらかなモラルハザードである。「等しく」歳出カットすべきである。これが現在の財務省や政府の論理です。

○高齢化社会;高齢者は貧しい。仕事もない。
 一方現在の日本は急激な高齢化が進行しております。高齢者はお金持ちであるから、応分な負担をしましょうという論調です。確かに所得の平均をとれば、現役世代とと老人の所得はそう明確な差はありません。しかし細かく見て行くと、高齢になればなるほど、所得格差は広がる形になっているようです。4割が年収200万未満です。平均と最瀕値が異る。ごく一部の高額所得者に引っ張られて平均値が上がっている。いわば平均値のウソであるといえます。また不況を反映して、65-75歳では3割弱が働いていますが、75歳以上で働いている方は10%未満しかおられません。ご高齢の方には、働く意欲があっても、不況下では、そうは就職先はないようです。現実は厳しいともいえます。

○社会保障の現状:日本は社会保障に投資をしていない。
 平成17年度の一般会計予算は82兆円です。その内、社会保障費が25%、国債元利払い20%を占めます。借金と福祉で45%を占めています。また社会保障費86兆円の内訳(2004年)では年金:医療:福祉(介護)=5:3:2です。これが2025年には社会保障費152兆円で年金:医療:福祉(介護)=4:4:2にするとの予想です。よって財務省としては、高齢化の進展に伴い、年金や医療などの給付は急速に増加するので押さえましょうという論調となります。これが現在の国是となっている。
 しかし国際比較(社会保障費/国内総生産)すれば、日本の社会保障費は先進国中では非常に低いほうです。日本は元々、福祉には投資はしておりません。

○医療の現状:日本の医療は貧しい。発展途上国なみの投資。
 日本の医療費投資は少ないのです。日本の医療費約30兆円ですが、先進国との国際比較(医療費/国内総生産GDP)では先進国中18位(1998年)です。大変低い。また問題の伸び率ですが、伸び率の国際比較では、元々イギリスと最下位を争っていたわけですが、イギリスはあまり絞りすぎたために、医療の質の低下が顕著となり、再投資に転じましたので、現在日本の医療費の伸び率は先進国で最低です。いわば医療費抑制は世界で一番成功しているといえます。他国との差は今後はもっと広がるでしょう。

○保険者の現状:保険者は効率が悪い
 保険者の財政が悪化しております。軒並み赤字です。しかし、その要因は必ずしも医療費の増加とはいい難い。たとえば健保が赤字になった主因は、医療費の増加ではなく、企業のリストラや賃金すえ置による保険収入減です。また国保は高齢者が多くて確かに大変です。国保組合は日本に現在166あり、400万人参加しております。単純に割れば、1組合平均25万前後です。零細な所が多い。月1000万以上のレセプトが一枚でれば、たちまち赤字転落する規模です。スケールメリットを求め、広域化して財政基盤を強化する必要があります。幸いな事に、昨今の市町村合併で平成17年度で市町村数は1800に減少します。よって3000人未満の市町村は1100から320となります。これが財政において好影響になれば良いと思います。

○医療の構造改革路線;医療の崩壊
 小泉内閣のいわゆる聖域なき構造改革路線による医療費削減は大変急なものがあります。過去において、予算ベースでは、2002年度は3000億円の減、2004年度は2200億円の減です。なお政府の医療費負担は、25%ですから、医療費総額の減少幅は4倍することになります。予算で3000億円減といえば、医療費では、1兆2千億円という巨額の減となります。
 今回2006年度は、医療本体で3800億円(−1.36%)です。引き下げ部分は−5990億円(−1.8%)で重点項目は+1475億円(+0.44%)となっております。5990億円削減の内訳はざっとした概略ですが、初診料で100億円。再診料で600億円。DPCで150億円。コンタクトレンズ 1000億円。検査で700億円。指導管理等、画像診断、リハ、手術、放射線治療で900億円。慢性期医療で1,200億円。入院時食事療養費 700億円のマイナスとなっております。まず金額ベースで過去最大であり、また、広範囲にわたり非常に細かく、診療報酬がいじられております。過去の2度にわたるマイナスシーリングで、医療機関は多大なリストラを強いられております。今度の改定の影響はそれを上回ることになり、まさしく医業経営の危機です。病院では数億円の減収となるところもでるようです。
 医療はいわゆるハードである箱物と、ソフトである医療従事者で成り立つわけですが、倒産や縮小による、ハードの減少、リストラや減収により、医療労働者の数的減少や意欲の減退。これでは明らかに医療事故の増大、患者サービスの低下。いわゆる医療の質の低下を招くでしょう。苛烈な低医療費政策で医療の崩壊した、第2のイギリスとなることでしょう。

○苛烈な低医療費政策(第2のイギリス)
 以上のような論理の元に政府関係者の発言はまさしく弱者切捨て、姥捨て山的発言がごろごろしております。たとえば「医療は美味しいマーケット。医療に払うお金がなければ家を売って払いなさい。」これは規制改革推進会議議長であられるオリックスの宮内氏の言です。同じメンバーの八代氏も同様な発言をされておられます。あるいは「終末期医療は保険からはずすべき」これは財務省主計局の向井治紀法規課長。あるいは「必要なら患者からお金をとれば良い。」厚労省麦谷課長。「透析はイギリスのように保険からはずすべきだ」自民党財務族議員。テレビでの対談での発言など枚挙の暇がありません。

○ない袖は触れない
 これは財務省の言ですが、通常は医療費削減の根拠としては。医業経済実態調査と労働経済指標を参考にして、シーリング幅をきめますが、ここ数回は先ず、はじめに削減ありきですから、大変厳しい改定となります。
 内閣と経済諮問会議の主導の元に厚労省は無理やり、医療費抑制策として、短期的対策として、保険給付範囲の見直し、患者の自己負担増、埋葬料などの現金給付の圧縮、薬剤費の抑制(3000億円)、療養病床の食住費の患者負担。中期的対策として、地域医療計画の見直し、病院機能分化;重複受診抑制など。長期的対策として、在宅へのシフト、生活習慣病対策など。時期を3期に分けて削減目標を明確にしております。 その適正効果まで明らかにしております。
医療費適正効果


○医療の現状分析
 政府による、これらの厳しい認識は果たして、本当なのでしょうか。医療費はこのようにドラスティックに削らなければいけないのでしょうか。国は過去において、発展途上国なみの投資しかしてないで、非常に安上りの医療になっていて、そのために医療事故の増大や患者サービスの低下などが、問題がおこっているにもかかわらず、より厳しく減らそうとしております。これで医療の質はますます低下するだけでしょう。現在の政策は、失われた10年、市場の失敗、経済や政治の失敗を社会保障に転化しているとしか思えません。このままでは日本の医療は風前の灯です。

○国民医療費の構造
 医療費の構造は保険給付は85%で患者負担は15%です。そのうち国が負担しているのは、たった25%です。事業主負担は20%です。また施設別では病院:一般診療所=7:3で医療費を使っております。大部分は病院が使っております。金額ベースでいけば上位1%(50万以上)で2割の医療費を。上位6%で6割の医療費を使っております。医療費の大部分は大病院の入院で消費されております。また医療は多様な専門家チームで行っているわけですから、人件費が医療費の半分を占めます。医薬品は2割で6兆円前後で横這いです。医療材料は6%にすぎません。
国民医療費の構造

医療費の階級別割合


○財源別医療費の推移
 昭和30年代に皆保険制度ができてからの、財源別の費用の推移を見た図があります。このグラフを見ると財源調整は患者負担で行ってきたといえます。事業主負担は増えていない。国庫負担も増えていない。国にとっては25%しか投資していません。日本の皆保険制度は国にとっては大変安上がりな制度であるといえます。どこにしわ寄せがきているのかは、医療費の半分が人件費である以上、労働環境の悪化、低賃金、医療の質の低下となることは、医療費の構造上は明らかです。
財源別医療費の推移


○医療費の増加要因
 厚労省の分析によれば、主要因としては老人医療費の増加があげられます。一人あたり若年者の5倍です。地域格差もある。一番多い福岡は90万円>一番低い長野県は60万円であり、30万の差がある。また一人あたりの入院医療費の格差(要因としては7割を占める)。これは病床数の格差(平均在院日数)と在宅療養率の低さとの分析です。ついで一人あたりの外来医療費の格差(要因としては3割)で、これは生活習慣病を中心とする外来患者増とまとめられるとしております。
 日医総研が医療費の増加要因を多変量解析で明らかにした式があります。これによれば、医療費増には、医師数、老年人口が正の影響が大きい。景気も関係する。診療報酬増はあまり影響がない。社保本人の自己負担増が負の影響が多いとなります。
医療費の重回帰式(日医総研)
総医療費=37.5(世帯当たり可処分所得)+1804.6(医師数)+2473.6(70歳以上人口)−2.0(老人入院外自己負担)+4.9(老人入院自己負担)−1541.1(被用者本人自己負担)+387.9(医科診療報酬)+582.1(薬価基準:医療費ベース)

○地域差の原因は:日本はベット数が多すぎる?
 人口千人あたりの病床数と平均在院日数は相関があります。ベットが増えれば、平均在院日数は増える。また県別一人あたりの国民医療費と平均在院日数は相関ありですから、平均在院日数が増えれば医療費は増加する。また医師数とも相関ありです。これが有名な、医師供給需要喚起論です。医師が増えれば医療費は上がるとなります。

○医療のデフレスパイラル
 医療の効率化の名の元に、医療機関へ減らし、在院日数を減らす政策が進行しております。しかし日本の医療者は他国に比し少ないし、ベット数は極端に減り続けております。あまり減れば、地域に医療施設はなくなります。患者さんは、手術などが必要な時は、数時間かかる、遠方の病院へ入院せざるをえなくなり、術後などは、効率一点張りの急性期病院を早々に追い出されます。医療機関の集約により、医療の質は若干、上がるかもしれませんが、当然利便性は低下します。元々医師数も少ないので、無理やり医療機関をすくなくして医師を集約化せざるをえないという、低医療費政策による悪循環があります。いわば医療のデフレスパイラルです。この政策は必ずしも医療の質の向上を目的とした物ではなく、医療費を減ずるために行われているものと思われます。
医療従事者数

ベット数の推移


○高齢化による医療費の増加は本当なの
 では本当に老人医療費は若年者の5倍であり、医療費を多く使っているのでしょうか。これが終末期医療を減らせ論の根拠ともなっているわけです。老人の入院医療費で見て見ましょう。細かく見て行くと、確かに、受診率は年齢とともに上がります。一件当たりの日数も弱冠増加する。しかし一日あたりの医療費はむしろ減少しております。特に超高齢者は医療費が少ない。よって老人が高くつくというのは明らかに誤りであるといえます。ただ数が多いだけである。人口構成で老人が増えているから老人医療費が全体で増えているだけで、実は一人当たりはむしろ、若年者より安いのです。以下の図が大変わかりやすいと思います。終末医療費が問題というのはウソです。また少子化の方が問題というご意見もあるわけですが、長いスパンでいけば、若年者の面倒を見る数はそうは極端には増えません。なお高齢者を独立した保険にして、社会保険と国保を一致させるのは財政基盤からは大変良い事と思います。
老人医療費の構造

少子高齢化の影響

高齢者保険制度


○医療の老人サロン化批判;日本は外来の受診回数が多すぎる?
 日本の医療の特徴として良く言われるのに、外来の受診回数の多さです。いわゆる診療所外来の、特に老人サロン化批判のもとです。しかし外来医療費などは医療費の3割に過ぎません。また一回あたりの医療費は大変安い。病気の治療の大原則は早期発見早期治療です。皆保険制度の元でフリーアクセスの存在下で、病気が軽度なうちに直しているのが、医療費の7割を占める、入院治療費を押し下げている、全体の医療費を押し下げている要因のひとつであるともいえます。ここらが、他国に比し、日本の医療の安価な理由であるといえるのかもしれません。 受診回数


○現在の医療の進歩による医療費の増加はどれくらいなの
 2000年で月額1000万以上のレセプトは100件です。大体年間1000億円にすぎません。そう急激には伸びていない。また高額医療は内容は主に白血病などの血液疾患。臓器移植、遺伝子治療など。血友病は凝固因子製剤が大変高額です。生体材料を使うから高いわけです。しかし人工血液ができれば費用はドラスティックに下がるでしょう。医学の進歩は費用も減らす傾向もあるわけです。常に上がり続けるわけでは必ずしもない。

高額医療


○医療費は将来どの程度必要なのか
 平成16年度の社会保障費の「自然増」は9,100億円です。その内訳は老人医療費が自然増の6割として4千億円ー6千億円です。これは消費税0.3%相当にすぎません。一方高額医療費を自然増の残り、4割として3千億円。これは消費税0.17%相当です。従って、現在の伸び率を年間1兆円として、20年後の2025年の高齢化のピーク時期でも現在の30兆円に上乗せで20兆円です。ちなみに消費税1%で1.8兆円です.よって消費税は11%程度となる。合計でも15−16%です。これは現在のドイツやフランスの水準です。現状のままいっても、十分「持続可能な費用負担」であると思われます。

○日本は低負担低福祉国
 今まで述べてきたように社会保障費、なかんづく医療費の伸びが著しいと国はいいますが、国際比較すれば、投資は先進国中最低です。伸びも最低である。その結果医療の質の低下は、劣悪な入院環境、医療事故の増大。医療労働者の労働過重などとなって現れております。医療機関の倒産も記録更新中です。大量のリストラも出ている。国民の負担も低い。日本とアメリカが典型的な低負担低福祉国です。ちなみにアメリカの医療費は、天文学的で127兆円です。それで世界最高の質を維持している。最も恩恵にあずかるのはごく一部の階層です。中負担中福祉国はイギリス、ドイツなど、高負担高福祉国にはフランスとスエーデンがあげられます。 国民負担率の国際比較


○患者負担はどれ位が限度なの
 患者負担は3割負担が「限界」です。これは長瀬式で計算されます。自己負担が3割では医療需要の6割が確保されるにすぎず、4割負担だと需要の5割未満となり、公的保険の意味をなさなくなることになります。無制限に増やせば著明な受診抑制を起こしますから、慎重にしないといけません。現在の日本の負担で、国保の未払は1000万人を越しています。すでに日本は、実質皆保険制度は崩壊しているともいえます。
長瀬効果について
Y=1−1.6X+0.8X2
(Y:医療費の逓減率、X:患者の負担率)で算出されます。
負担率逓減率
無料  1.000
3割負担0.592
4割負担0.488
10割負担0.200

○三つのシナリオ
 今後の日本の選択肢としては、現在とられつつある低医療費政策の強化と去年経済諮問会議により画策された混合診療があげられます。混合診療路線は一応否定されましたが、現在は国の財政が破綻している中で、医療費を押さえる政策が進行しております。
1)低医療費政策;イギリス型医療;いったん壊れれば回復は困難。
 イギリスは長年の低医療費政策で手術までの待ち時間の増大、医療者の海外逃亡が起こりました。去年から10%の医療への投資政策が始まりました。しかし医療の質の低下、労働者の意欲低下は歯止めが、かかっておりません。疲弊しきってしまった。いったん壊れると、回復しないようです。低医療費政策で、医療に投資をしなければ、医療の質が下がり、医療事故が増大する。患者さんは、安心して医療を受けれません。
2)混合診療医療:新自由主義的医療;現在のアメリカ型医療
 市場原理の医療にして、混合診療にすれば、お金持ちしか医療を受けることができません。これは現在の アメリカの医療を見れば良くわかます。しかも公私あわせた医療費は天文学的となる。無保険者も5000万人を越しました。
3)合理的な医療制度の確立
 原価を反映した医療制度を確立し、医療への公的投資をはかるべきであるとおもわれます。
なぜ日本の医療費は安いのか
(1)国民皆保険制度
(2)診療報酬の国家統制制度
(3)混合診療の禁止
 以上により医療費を、政府が自由にコントロールできるシステムだからです。この枠を維持して、そのなかで、犠牲になりつつある医療の質の向上をはからなければいけません。
 医療の質の向上をと言うなら、まずは財源と、よい人材の確保をはかるべきであると思われます。事故防止には、医療労働者の働き安い環境づくりが、肝要です。医療にコストをかけないでよい人材は集まらないし、質の向上も果たせない。医療の財源確保が最優先課題であると思われます。EBMひとつ作るにもコストはかかるわけです。医療に投資をしないで、資格や、第3者評価機関、種々の規制により、医療者を厳しく管理して質の向上を果たそうというのはかなり無理があると思われます。何よりも医療者の反発を招きます。アメリカがマネジドケアで医療を様々に管理強化しすぎて、失敗をしました。医療費の高騰も招いた。

○財源論
 今後の医療の財源論で有力なのは以下です。固よりひとつだけで財源をまかなうということはありません。各種組合わせで行うことになる。また増税はなによりも国民的なコンセンサスが必要です。どのような国の形にするのかは国民が決めることです。現状が、低負担低福祉国である以上、当然、一気に高負担高福祉国とはいきませんが、今後10-20年かけて徐々に中負担、中福祉国にする必要はあると思われます。現在は低医療費政策により、医療事故の増大など、医療の質の低下がおこってきております。しかし様々な改善すべき問題がでてきているとはいえ、WHOの評価はいまだ世界一です。
1)消費税、環境税、相続税など。増税路線
消費税換算すれば医療は10%あれば、何とか今の水準は維持できます。
2)右から左論
 2−1)日医案:2017年で71兆円必要:
自立投資12兆円、米国債売却50兆円。景気回復による税収増、一般、特別会計の改革、
 2−2)見返り率案:リストラ、経費節減。
公共事業費、防衛費、ODAなどを削り、医療などへまわす。
3)財源縮小していく;現在の国の政策
 規制会議案:アメリカ型。保険縮小、混合診療。株式会社参入
 低医療費政策:イギリスやカナダ型です。
 これははなはだ魅力ない案となります。

○医療の基本的性質
1)医療は、市場経済の補完装置;セーフテイネット
 健康は国民の基本的人権です。また医療や介護は、長寿社会のリスクを分散するための装置です。社会保障は、比較的社会的コストが低く、人々に安心感を与えられます。リスク分散の意味で、医療保険を公的資金で支えることに意義があると思われます。医療がしっかりしないと安心して働けません。皆保険制度を堅持して、医療は国が支えるべきです。
 病気は早期発見早期治療が原則です。軽症を軽視すればかえって高くつきます。混合診療により、保険医療の範囲を縮小すれば、医療費は高額になり受診抑制が起こります。よって重症化してから、あるいは、お金持ちしか、十分な医療を受けれなくなります。米国では無保険者の増大(5千万人)となりました。
 低医療費政策や混合診療で、患者負担が上がるような政策を行えば、万が一の不安に対処するために貯蓄をします。これでは、消費不足になります。構造改革そのものがなりたたなくなるおそれがあります。しかも医療は成長産業であり、雇用効果もある。費用対効果は高いと思われます。
 国の形をきめるためには、きちんと公共事業や年金など、様々な社会的インフラの優先順位を明確にすべきです。セーフテイネットとは不要不急のものに張るからこそのものと思われます。老後の準備(年金)は等しく皆が行うものです。それに比較して、人間の基本は健康ですから、医療は、不要不急であり、経済=年金が優先され病気はどうしても後回しになってしまっています。
2)医療は常に最高の質を要求される
 医療の質が低ければ、国民は安心して医師に命をあづけられません。高齢化と技術の進歩により医療費は自然に増加します。なによりも医療への投資が必要です。ただし技術の進歩は医療費の抑制になる場合もあります。常に増加するとは限りません。
 一方、自己負担は3割が限度です。これ以上になれば、皆保険制度は意味をなさなくなります。現在の負担は限度に近いわけです。医療への投資がなければ、医療の原資が確保できませんから、医療の質の低下が起こり、国民各位のニーズに答えられなくなります。公費負担増以外に国民の医療は守れないと思われます。

○医療において実現すべき政策目標
 現在の基本的フレームである、皆保険制度を維持して、混合診療と株式会社の参入を禁止して、医療にもっと投資をして、医療の質の向上を図り、国民の皆さんが安心して働けるようなセーフテイネットを作りましょう。
1)国民負担増、高福祉国家が必ずしも経済の活性化を阻害しないと思われます。
2)高齢化社会と医療の進歩の財源はそう巨額ではない
3)財源は多様なアイディアがでてきている。消費税の増税のコンセンサスもえられつつある。
4)皆保険制度と混合診療禁止を守れば医療費は押さえることが可能である

○医療政策の実現のために
医療者が政治運動する目的は、あくまで医療を守るためです。

○多党化あるいは2党化時代の支持の在り方を考える
1)日医連盟は政党支持は各支部の自由に任されている
2)日医連盟は参加自由である。
3)多党時代である。特に2大政党時代である。
○医療法案が決まるまでの流れ
法案は内閣と政権党のみで決まる
1)閣法:内閣府が84%作る。
2)議員立法16%
3)野党は1件も通っていない
4)党議拘束
国会の場でのみの問題であり、政権党内ですでに決定されたことにかける。

○政策が決まるまでの実際の流れ
医療制度改革2002年度
経済財政諮問会議、総合規制改革会議の基本的な方向が参議院選挙前に相次いで公表され、2001年9月になって厚生労働省が医療制度改革試案を発表した。
厚労省試案はある意味で前二者、つまり、小泉内閣の「聖域なき構造改革」の基本方針に対する反論ともいえた
この厚労省試案に対し、財務省がこれでは甘すぎるとばかり「財務省見解」を公表。さらにまた、小泉総理は与党社会保障改革協議会を立ち上げ改革案の検討を開始した。
これらの政府、行政の考え方に対して、日医等医療関係者、そして自民党の厚生労働族が猛反発、日医は独自の「医療保険財政再建の道筋」なる案を発表して対抗した。また、自民党の厚生労働部会・医療基本問題調査会合同部会は頻繁に会合を開催、医療改革の中心は与党協議会ではなく自分たちだとばかり息巻いた。与党協議会、厚労部会・医療基本合同部会はそれぞれ別個に、三師会、健保・国保代表等を呼んでヒアリングを行い意見を聞いた。こうして医療改革議論は、01年末の02年度国家予算政府案の決定を前に激しさを増していった

○だれが敵でだれが味方か
 主要なプレイヤーのなかでどなたがキーパースンなのかは一概には言えません。政府は一枚岩ではありません。味方は何時も味方ではない。敵も同様。あくまで是々非々であることになります。あらゆるレベルで、うったえていく事になります。
内閣:小泉総理
経済財政諮問会議、総合規制改革会議
厚生労働省
財務省
自民党:与党社会保障改革協議会、厚生労働部会、医療基本問題調査会
日医:各学会
健保・国保代表
マスコミ
国民

○ロビー活動のありかたについて
圧力団体の役割
○利害団体が政府の意思決定に影響を与えるルート
1)利害団体の代表を議会に送り込む方法
2)日常の政府・官僚との接触を通じて意思疎通を図ること
3)諸種の手段を用いて世論を形成すること
圧力団体の影響力
団体の組織力、活動能力(情報収集力、伝達力、資金力)や人脈に依存する。

○医療政策の実現のための論理式
医療政策の実現性は以下の一次式で表現される。
Y=PX-Q
Y:医療政策の実現性
P:政権党:政権党以外は政策はとおらない。定数である。1かゼロ.
X:医療にご理解のある議員の数
Q:内閣府と財務省をはじめとする官僚群
議員制民主主義においては国会議員は内閣の対立物である。

アメリカ医師会の失敗
現在の状況は医療費急増のマネジドケアの導入直前のアメリカと酷似。
その時のアメリカ医師会AMAの戦略ミスは????
○医師会のダーテイイメージ
1)横暴な医師会。
2)乱診乱療。
3)医療費の高騰
○結果としての
1)市場原理の導入
2)保険者機能の強化
3)EBM、包括制度
4)訴訟の増加
 医療には医療の論理がある。長い医療制度の歴史のなかで決ってきた。医療を守る、あるいはそれこそ自分達の権益と利益を守る、長い国との圧軋、抗争の歴史でもある。同時に厳しい医療者内部闘争の中で行ってきた。
欲張り村の村長さん
 医療者の理念。社会的使命感はそれなりにある。自分達の利益だけを振りかざしてきたわけでもない。どちらがすべてというものではない。欲張り村の村長さん的論理で押し通せるような素朴な社会では当然ない。また幸い患者負担増反対など患者さんの利益保護=医療者の利益保護でもある局面も多いともいえる。利害が相反する局面は幸い少ないともいえる。

○政権党支持路線
 医療を守るためにどうするかは各位が考える事であります。しかし効率を考える必要があります。幸いキーパースンは比較的少数です。実際に政策に関わる、かつ医療にご理解がある方を応援するのが大原則かと思われます。いずれにしろ現場で、実際の医療を担当する医療の専門家が、自分達の信じる医療をきちんと、社会へ訴える活動は大変重要なことかと思います。テクノクラートの基本的役割と思われます。政治活動は恥ずべき行為ではない。なによりも民主主義の基本と思われます。

○最後に
いずれにしても医療は成長産業である。どういう形態であれ、医療がなくなることはないわけです。できれば合理的な制度とならんことを。