ジョンQの映画をより理解するために2004年1月26日


金額(1ドル=100円として)
25万ドル=2千5百万
1万ドル=百万円

アメリカの医療
○アメリカの医療制度は皆保険ではありません
 米国の医療保障制度は、公的医療保険として65歳以上の高齢者向けに連邦政府が運営するメディケア、低所得者向けに州政府が運営するメディケイド。民間医療保険の3種類があります。

○アメリカでは民間保険が60%で。公的保険は25%。人口の15%が無保険者です。
 95年において,メディケアの対象は国民の13.1%,メディケイドは12.1%で,公的医療保障を受けているのは、人口の25%程度です。その他60%は自助努力か、事業主による従業員の福利厚生のために加入している民間保険です。そのため失業者や小規模企業の従業員が医療保障の範囲外に置かれやすい。人種的にみれば,黒人,ヒスパニック系が範囲外に置かれています。結果として人口の15%、5千万人が医療保障の範囲外に置かれている。その割合は増加しています。
 無保険者では、医療費の全額が自己負担になるから、気軽に開業医を訪れにくい。疾病の初期に医療を受けない人は重症化する確率が高い。重症化して初めて救急治療室に運び込まれる場合には、結局高額の医療を受けざるを得ない。そして、その医療費は当人と家族に重く圧し掛かます。
○民間医療保険の種類
 大きくは2種類、出来高払い型(Fee for Service:「FFS」)と、管理医療型(Managed Care:マネージドケア)に大別されます。マネジドケアは、医療機関との関係や、コスト抑制の方法などによって、HMO(HealthMaintenance Organizations )、POS( Point-Of-Service plans )、PPO( Preferred ProviderOrganizations)の3つに分類されます。加入者数の割合はマネジドケア(HMO、POS、PPO)が85%で、FFSは15%です。
1)出来高払い診療報酬支払方式の保険。FFS(Fee For Service)
 保険会社は病院に対して、実際にかかったすべての費用を支払う。保険加入者は基本的にはどの病院を選択してもよい。200ドルの免責金額が設定されており、プランはそれを超える金額のみ支払う。この金額を超える部分については、プランの支払は80%となっている。自己負担額に上限を設けており、これを超えた場合、治療費はプランから全額支払われる。しかし、この上限額は通常きわめて高い。4つのタイプの中で、保険料はもっとも割高です。
2)マネジドケア(HMO、POS、PPOの3種)
 HMOは、マネジドケアの中でも、最も低価格ですが、もっとも柔軟性に欠けます。HMO は原則としてネットワーク内の医師の診療しか認めず、専門医にかかる場合には必ず一次診療医からの紹介が必要となります。救急診療についても、利用者が電話ができる状態である限り、救急処置室での診療には事前承認が必要である。コスト削減と医療の質の維持のため、HMOが医師の治療方法をなんらかの形で監視・管理している点が、HMOの最大の特徴です。治療方法にいくつかの選択肢がある場合、医師がHMOからよりコストの低い投薬や治療方法を指示されることもある。また、医師・医療機関の報酬を人頭払いとして医療機関がコストを下げるほど医療機関に多くの利益が残る仕組みとしたり、あるいは、医師・医療機関がコストを抑えた場合には報奨金を出すなど、医師・医療機関に対して診療にかかる費用を抑えるようなインセンティブを与えています。
 POSおよびPPOと、HMOの最大の相違は、POSおよびPPOではネットワーク外の医師・医療機関の診療を受けることが出来る点です。プランと契約を結んだ医師・医療機関以外で診療を受けることも可能だが、自己負担額に差を設けるなどの方法でグループ内の医療機関を利用するインセンティブを加入者に与える。保険料、自己負担等の利用者の金銭的負担は、HMO 型、POS、PPO の順に高額となります。また、医療機関へのアクセスや、診療方法の選択の自由度は、同じ順で高くなっています。

○民間保険の問題;マネジドケアの管理医療ではコスト削減が最大の目標です。
医療コストを削減する方法として以下のような様々なことが行われます。
1)医療サービスへのアクセスの制限、医療内容に介入する
門番医:患者が勝手に救急病院で受診したり、専門医で受診したりすることを制限。
利用審査(Utilization Review)
 保険会社が医学的必要性が認められない場合、不適応通達が事前に行われる。
症例管理:コストのかさみそうな症例については、保険会社のケースマネジャーがついて、ケアを統合して、効率よくする様に指導します。
2)保険金支払の公平性が崩れる。
2−1)医師へのさるぐつわ条項
 医師は保険加入者に対して、治療が、費用支払いの点から、やすいものとなることをしらせてはならない。医師が患者に対して、すべての治療法を説明することを制限する。
2−2)医療サービス供給側に大幅な値引きを迫る。
3)さくらんぼ摘み:保険会社がもうけようと思ったら健康な人を集めればいい。有病者を敬遠する。
4)ヴァンパイア効果
 良心的な医療を行っているところへ、営利でもうけを上げることだけを目的として、例えば臓器移植は認めないなど、保険適用を減らしても低価格で顧客を募るという手段で入ってくると、良心的にやっていたところは競争に勝てない。そうすると、同じ経営戦略をとらないと自分が生き残れないことになります。ヴァンパイアにかまれたらみんなヴァンパイアになるということで、これをヴァンパイア効果と言っています。
5)保険会社破綻時に、患者(保険契約者)の保護に支障が生じた。
 不採算により、メディケアHMOから撤退する保険会社が続出しました。メディケア加入者がHMOから見捨てられてしまった。
6)ディポジット(入院補償金)
 アメリカでの心臓移植は、約1億円の準備が必要なのですが、臓器移植の費用に関して、移植手術を受けるほとんどの病院ではディポジット(入院補償金)が必要となります。ディポジットとは支払い能力があることを示すために、病院に事前に手術費用の一部を払い込むシステムだそうです。日本ではこんなシステムは一般的ではありません。1999年に日本から渡航した男児(3歳)は3300万円を支払ったそうです。

○結果
 保険者の力が強くなりすぎて、医療者と患者の権利が大幅に後退した。保険会社の保険金支払の不公正さが社会問題化したため、患者権利法案が提出された。
1)公的保険より、保険料が上昇し、患者さんの負担が増大した。
無保険者が増大した。
2)医療費を押さえすぎた。
医療費削減のツケが患者、家族にくることとなった。
 HMOが普及するにつれて、HMOのコスト削減は行き過ぎで必要な医療も受けられ ない、ネットワーク以外の病院を選べないのはあまりに不自由である。救急の場合でもHMOの指示に従わなければならないのはおかしいのではないかといった消費者の不満の声が出てきた。
2−1)利用者のHMO 離れ
98 年には、HMO とPOS の合計シェアが過去5年間で初めて減少。PPO は35%から40%と大幅にシェアをのばした。
2−2)医師のHMO 離れ
 HMO と契約を結ぶ医師・医療機関でも、治療内容の裁量への過度の制約や、煩雑な内部手続きによる不利益から、HMO に対する不満、不信感が強まっている。医療機関の「合併」と「系列化」で対抗している。
3)訴訟
 利用者からのHMO 訴訟が頻発する中、医師・医療機関からもHMO 型プランを提供する保険会社に対して訴訟が提起されている。
4)患者残酷物語:ホラー・ストーリーズ。
a)カリフォルニア州に住む27歳の男性は、心臓移植手術を受けた後わずか4日で退院させられた。HMOがそれ以上の入院期間に対する費用を払わないと言ったためである。また、HMOは手術後の感染を防ぐための包帯の費用をも支払わないとした。その結果その男性は死亡した。(The Enterprise-Record, Jan.21, 1996)
b)アトランタに住む生後6ヶ月の男の子は、激しい動悸を伴う40度の熱を出したため、母親が午前3時半にHMOに電話した。ホットラインの看護婦は、その母親に、近くの病院ではなく、68キロ離れた所にある、HMO傘下の病院へ連れて行くことを指示した。処置が遅れたため、結局手足を切断しなければならなかった。(Long Island Newsday, Feb.11, 1996)
c)フロリダに住む老婦人は、自宅で倒れ病院に運ばれたが、脳出血のため治療の甲斐なく死亡した。HMOはこの婦人の治療費3万ドルの支払いを拒絶した。理由は婦人は直接脳外科に運ばれ、救急医療室において専門的治療の必要ありと判断されなかったためである。(U.S. News and World Report, Oct.13, 1997)

○増加する国民医療費
 これだけ制限しても、米国の国民医療費のGDPに対する割合は14%(1996年)であり、国際的水準から見て非常に高い。医療費の高騰は医療保険の保険料アップへと繋がる。その結果、中小企業の雇用主は従業員のために保険料を支払うことができなくなり、無保険者の割合がますます増加する。
ではなぜアメリカは医療費が高いのか
経済企画庁によれば
1)医療の高度化が最大の原因。人口の高齢化は著明ではない
2)医療サービスの供給体制に問題がある
a)市場原理の医療;医療サービスの需給を市場に委ねる傾向にあること
b)防衛医療:事故対策過剰診療
c)制度の未統一:事務経費の増大
 医療保険制度が多様であり,保険金申請の形式等が統一されていない
 保険者直接審査,これも,事務経費を増加させる要因となっている。

○皆保険制度の確立が大きな課題です。
 無保険者に適切なサービスを提供することが医療政策の大きな課題となって いる。90年のシカゴ大の世論調査によれば,「仮に税負担が増えても,政府はよ り医療に関して支出すべきだ」との意見に回答者の約7割が賛成している。

日本の医療

○医療は皆保険制度であり、保険診療は公的保険でまかなわれます。
 国民のほとんどが公的医療保険制度に加入している。医療機関が患者に提供する医療の価格は全国共通で、診療報酬点数表に収載された、金額で保険から支払われる。患者には2割〜3割の一部自己負担がある。国家統制価格による「平等主義」が、自由競争による医療費の高騰を抑えた。
○混合診療禁止。
 医療サービスは大きく、保険制度によって提供される保険診療とそれ以外の保険外診療(自由診療)とに分けられる。保険診療は現物給付で支払われる。保険診療と保険外診療は原則として混在できない。
○特定療養費制度(高度先進医療、選定医療)
 特定療養費制度は、新しい医療技術の出現や患者のニーズの多様化等に対応し高度先進医療や特別のサービス等について保険給付との調整を図るために創設されたもので、特に定められた特別のサービス(個室の利用などアメニティ部分)や高度医療を含んだ療養については、療養全体にかかる費用のうち基礎的部分については保険給付をし、特別サービス部分を自費負担とすることになっています。
○フリーアクセス
 日本では、誰でもどの医療機関にもかかれるという「フリーアクセス」という制度になっております。
 経済財政諮問会議が「平等主義的な今の医療制度が医療費の無駄を生んでいるという認識から、競争原理を導入するなどして医療の効率化をはかることを提案している」とありますが、これは、間違いです。フリーアクセスで日本中の医療機関同志を競争させることで、医療機関の間は完全自由競争となっています。
○医療は原則大部分が、非営利団体で行われています。

○持続可能な制度設計のために
 現在日本の経済は破綻しております。再建をすべき現状です。高齢化社会も急である。医療費は押さえないといけません。しかし世界の国で日本だけが比較的医療費を押さえ込んでいるわけです。以下の枠組を残すかぎりは今後も完ぺきにコントロールされると思われます。
(1)国民皆保険制度の堅持
(2)診療報酬の国家統制制度
(3)混合診療の禁止

結果
1)医療の質は保たれている。WHOによれは、日本の医療は、各指標が世界一になっています。
2)日本の医療費は安く押さえられています。
 アメリカの場合、国民総生産の約14%。日本では国民総生産の約7%です。しかし日本の場合低医療費政策により医療環境の劣悪化や医療者も足りないため、医療事故の増大が問題になってきています。

心臓移植について

○移植が必要な患者数(推定)
腎臓…腎不全による透析患者20万人、毎年約1万人の増加
   (毎年2万5千人が透析導入、約1万5千人が死亡しているため)
心臓…1000人前後、新規患者数 年間約500人(年間約半数が死亡)
肝臓…2300人前後
肺……700人前後

○実績
2004年1年間で
移植件数 心臓 5件
臓器提供数 95件
待機患者:登録者数 81人(平成17年1月4日現在)

○これまでの心臓移植の施行数
アメリカ 2292件
イギリス 247件
日本   13件(平成14年3月末現在)
日本で数多く行われている心臓停止後の腎臓移植(献腎)や生体部分肝移植の費用については保険が適用されています。その他の多くは高度先進医療に対象になります。
○国内では15歳未満の小児は心臓は移植できません。意思を明確にできないためとなっております。

○費用負担

○心臓移植に係る経費(平成13年5月臓器移植対策室調べ) 単位:万円
術前検査費
移植手術費

移植後入院治療費等(投薬除く)

移植後投薬費
退院後治療費等
30〜500(平均200)
(平均280)
600〜1800(平均1060)
17〜290(平均87)
400〜500
○費用負担
大阪大学・国立循環器病センターの2施設では、拡張型心筋症・拡張相肥大型心筋症の2疾患で高度先進医療が認可され、移植手術費用(各々約264万円、298万円)と臓器搬送費(100〜250万円:搬送距離により異なる)が患者負担となりますが、移植術後の管理費(免疫抑制剤を含む)については保険から給付されます。
海外渡航心臓移植に関わる費用は年々増加し、渡航前の状態、渡航先によって差がありますが、待機中・移植前後・外来の費用を含めて5,000〜7,000万円が必要です。最近では自費で費用を賄う人は減少し、ほとんどが募金または基金からの借入に頼っているのが現状です。
臓器を提供する側には、提供に付随する検査や手術などについての費用の負担はありません。また、あくまでも善意による提供ですので、臓器提供に対する報酬はありません。厚生大臣からの感謝状が贈られます。

○高度先進医療
 昭和59年にスタートし、高度先進医療の種類、取り扱い病院ともに増加を続けていますが、普及性の高いものは、一般の保険診療に取り入れられてきています。 費用負担は 総医療費が100万円、うち高度先進医療の特別料金が20万円だった場合)


○高額療養費の支給
 保険診療なら1カ月の一部負担金が72,300円+アルファの限度額を超えたとき、その越えた分が支給されます。限度額は世帯所得や受けた医療費により異なります。

市場原理の医療の導入

 政府は、「混合診療」の解禁を推進する旨を明確にしました。経済諮問会議では、いわゆる市場原理の医療として混合診療解禁による民間保険会社の活用と株式会社の医療参入により、アメリカ型の医療を目指しております。
○混合診療とは何ですか?
 日本の健康保険制度では,健康保険で診ることができるの範囲を限定しています.混合診療とは,健康保険の範囲内の分は健康保険で賄い,範囲外の分を患者さん自身が費用を支払うことで,費用が混合することをいいます。


○混合診療の導入目的
1)国の医療費削減
2)患者サービスの向上
 公的保険を補完するものとして民間保険を普及させるとなっておりますが、アメリカの例のごとく混合診療が導入されれば、
1)国の支出は減りますが、患者さんの自己負担が大幅に増えます。高度先進医療などは、早急に保険収載されるべきです。
2)受けられる医療の範囲がお金の有無によって決まる。病気になっても健康保険で見ていただけなくなります。

○アメリカのような市場原理の医療の導入に反対しましょう
 株式会社の参入や、混合診療の導入すれば、国民皆保険制度が成立した以前の状態に戻ってしまいます。「誰でも、いつでも、どこでも安心して平等に医療を受けられる国民皆保険制度を守りましょう」

参考資料

●アメリカの医療
平成4年年次世界経済報告世界経済の新たな協調と秩序に向けて(経済企画庁)
http://wp.cao.go.jp/zenbun/sekai/wp-we92/wp-we92-00302.html
2)ジェトロ。対日アクセス実態調査報告書:医療・福祉(介護)サービス
http://www.jetro.go.jp/jpn/reports/05000680
HMO(Health Maintenance Organization: 会員制健康維持組織)
http://www.nli-research.co.jp/doc/li9807.pdf
[PDF]米国におけるHMO訴訟とHMO事業の見直し
http://www.sj-ri.co.jp/quarterly/data/qt33-1.pdf
現代米国の医療制度に何を学ぶべきか
DRG/PPSの功罪李 啓充氏ハーバード大学医学部助教授
http://www.medical-tribune.co.jp/special/fujitsu/session1.htm
患者残酷物語
http://www.asahi-net.or.jp/~rp8i-fkm/managedcare.html

●日本の医療
医療制度のしくみ
http://www.ristex.jp/law/medical/structure.htm
医療の無駄とはなに?2001/10/05
http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/muda.html

●心臓移植
(社)日本臓器移植ネットワーク・ホームページ
http://www.jotnw.or.jp/
高度先進医療
http://www.mhlw.go.jp/topics/0106/tp0601-1.html
いわゆる「混合診療」解禁問題について(参考資料)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/11/s1130-14e.html
高額療養費の支給
http://www.city.zama.kanagawa.jp/index_m/guide/05nenkin/kokuho/midashi/kyuufu.htm
かかりつけ医通信第36号
http://backno.mag2.com/reader/BackBody?id=200207291330000000074854000

●市場原理の医療
混合診療って何?(日本医師会)
http://www.med.or.jp/nichikara/kongouqa/index.html
混合診療に関する論点
http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/kongou.html
もしも、『混合診療』が解禁になったら日本医師会制作のビデオです。
http://www.med.or.jp/kaihoken/video.html