インターネットと地域医療

ver:2000/3/12 by T.Honda


○はじめに

 現在医療を取り巻く環境は激変しつつあります。1980年代まで医療界は主として検査機械等の技術革新により進歩してきましたが、現在は社会構造の変化、医療の進歩、個人の意識の変化に伴い、情報開示、説明責任などが、求められるようになってきています。また急速に進行する高齢化社会への対策として、2000年4月からの介護保険が開始されます。今後は医療機関同士だけでなく、福祉施設とも連携をはからねばいけません。一方国の合理化等により、地域内での医療行政の唯一の受け皿である、医師会の役割がますます増してきています。しかし一方では、特に都市部では、若手医師の医師会離れが進行してきています。地域医療を合理化して、効率を上げて、医療の質の向上、患者サービスの向上、また医療費の削減を図り、医師対患者の関係も、よりいっそう強固なものにしなければいけません。そのためにも地域の医師会を、より発展させなければいけません。そのための方策として、地域医療のネットワーク構築は最重要課題であると考えます


○医療においては中央でなく、地域医療が主体である(表1)
表1:医学情報とは
1)医学情報:病気の診断、治療、転機などに関する学術情報
2)施設情報:医療機関の標榜科、診察時間、所在地、設備などの情報
3)診療情報:患者個人の診療に関わる情報。健診データなど
4)福祉介護情報:これからはますます重要度が上がる。
5)行政情報:厚生省や日医、県などからの各種通達など。

 医療情報は大きく分ければ、表1のごとくとなりますが、医療情報は、カルテ、検査、レントゲン、各種通達など種々の形態で存在します。一方医療は地域密着産業であり、 二次医療圏内で、これら大部分の医療情報は発生し、かつ消費されることになります。たとえば外来の83.5%は圏内で消費されます。従って、これらの種々の形態の情報を、 デジタル化し、必要があれば、地域内の、参加者全員で情報を共有でき、かつ双方向で対話できるようにすればよいわけです。

 また地域における、医療の受け皿は、郡市医師会となります。日本医師会情報化検討委員会の山本勝委員長は平成11年7月2日の都道府県医師会情報化システム担当理事連絡協議会で、医師会総合情報ネットワーク・システム構想は、日医と都道府県医師会、郡市区医師会が双方向で情報交換することを目的としたもので、a)47都道府県医師会のネットワーク(NW)化,b)922郡市区医師会のNW化,c)全会員のNW化の3ステップで進める予定であり、すでに県医はほぼ完了し、今後は47都道府県医師会から吸い上げた情報の活用方法や、郡市区医師会のNW拡大が課題となっています。

 しかし、医療においては、一般の組織と異り、メインはあくまで地域医療情報です。全国レベルの連絡網を構築すべきなのは当然ですが、郡市レベル以上は、医学情報、行政情報などで、情報量は多くはありません。従って、 日本医師会ネットワーク構想の意味は、医師会の行政連絡網を構築するという案にほかならないと思われます。ネットワークを、日医のごとく、ネットワークを単なる情報の上意下達の道具ととらえれば、行政情報しかカバーしないことになります。

 真に医療に役立つネットを構築するためには、二次医療圏単位で、地域中核病院や、福祉施設、歯科医、薬剤師、行政を包括した、双方向性のネットワークを作り上げることです。 地域医療情報システムを構築して、地域医療の効率化を図り、医師にとっては診療支援として。地域住民にとっては医療サービスを提供することになります。特に地域中核病院を含むことが大切です。域内では画像を含めた、回線のスピードも問われます。そこで初めて、クローズの高速の専用線の使用の検討も、セキュリテイも含め意義が出てくると思われます。


○地域医療情報ネットワークの歴史と現状

第1次地域医療情報システム
 各地の医師会の先進地域における、 第一次医療情報システムの多くは、1980年代中葉に構築された、いわゆるパソコン通信による検査配信を主として、それに若干の掲示板をつけた、サーバ集中型のシステムでした。

 医師のみならず、看護婦さんなどの医療関係者をいれた、システムであり、発展を期待されたのですが、検査配信が主であるため、エンドユーザにとっては検査配信のみの単能のシステムでしかありませんでした。また端末は医院内では多くは事務におかれたため、医師は多くの情報を印刷でみる事になり、ネットワークにおける最大の利点であるメールの交換(対話)が少なかった。ネットワークが、単なる進歩した上意下達の情報伝達法としか認識されず、便利な電話かファックスとしか利用されませんでした。

 またサーバ集中型ネットワークであり、掲示板なども当初作ったまま、デザイン変更できず、使われなくても最後まで残り、機種依存も激しかったのです。その結果、現場の多様なニーズに十分には、こたえられませんでした。またアナログ情報のデジタル化が不充分で、ネットワークの横の広がりも少なかったため、情報の蓄積が乏しく、残念ながら、ユーザにとって真に便利なシステムとはなりえませんでした。若干の例外を除き、いわゆる成功事例はすくなかったと思われます。

 しかし、未熟なインフラのなかで、周囲に医療情報システムの意義と必要性が認識され、次世代のシステムのための助走期間となりました。人的資源の蓄積がある程度できたため、第2次医療システムへの移行も、種々の制約、負の財産をかかえながらも、比較的スムースに移行できると考えられます。特に今回の2000年問題は、古いシステムにとっては神風となり、多くの先進地域では、一気に新システムへの移行が可能となったと思われます。
第2次地域医療情報システム
 コンピュータの進歩により、従来は大型汎用機で行っていたサービスを、より小型な機種で行うことができるようになりました。これをダウンサイジングといいます。その結果、サーバに機能が集中していた、中央集中型のシステムが小型パソコンに機能が分散しました。分散型ネットワークです。ダウンサイジングの本質は,情報システムが「集中」から「分散」へと変わってきたところにあります。特徴としてあげられる言葉は,「分散」に加えて「情報分散」,「情報無秩序化」,「コストダウン」の3つです。

 現在各地の医療情報ネットワークは、インターネットを核とした分散型システムに移行しつつあります。 インターネット利用人口は 平成11年度通信白書によりますと、平成10年度におけるインターネット利用者数は、約1,700万人と推計されています。インターネットは1995年に商業利用が開始され以来わずか5年間で世帯普及率10%を越えました。従来の主要な情報通信メディアが世帯普及率10%を越えるのに、電話は76年、ファクシミリで19年、パソコン13年を要しています。それと比較すると、インターネットがいかに急速に家庭に普及しているかがわかります。
 

 地域医療の担い手は医師会であるので、地域ネットを医師会単位で考えれば河合直樹の調査によれば、1999年11月現在、県医では43件ホームページを開設しています。郡市医師会は295件がホームページを持っています。郡市レベルでは約32%の普及率です。では医師は、全国でどれくらい、インターネット接続しているのか、詳細は調査されていませんが、医療系のメーリングリストの数はMEDIPADに登録されているものだけで640件あります(平成12年2月末現在)。一方、全国版の調査としては、河合直樹は1999年11月に全国の医師会情報ネットワークの構築状況について、複数の医療系の主なメーリングリストで、アンケート調査を行いました。なお 八幡らも同様な調査があります。これらの報告によると医師会の情報ネットワークとして、イントラネットを構築している24医師会で、加入者は4620名。メーリングリストを組織しているのは、26医師会で加入者は1475名であり、両方を合計すると、加入者数は6095名です。個別に見ても、電子メールの普及率が2〜84%で幅があり、平均普及率が33.9%でした。

 予想としては、現在医師数は約25万人ですから、一般の平均普及率13%なみに、医師がインターネット接続していると考えれば、少なくとも約3万人はしていることになります。一方診療所単位でみれば、診療所の電算化状況は、医療保険業務研究協会によれば、レセコンで普及率は64.2%です。診療所単位でも、パソコン等による業務の電算化はまだまだの普及率といえるでしょう。医師会におけるネットワークも普及期にあるといえます。一般へのインターネットの急激な浸透と、技術の進歩。2000年4月からの介護保険における医師の意見書の日医版ソフトの提供や、電子請求システム、今後の電子保険証、レセプトの電子請求が、医療機関への普及の第2の黒船となることを期待しています。


地域住民は、なにを望んでいるのか (表2)
 ホームページを作ったからには、絶えず更新して、魅力あるページとして、多くの方々へ医師会としての医療の明確な政策ビジョンを訴え、また地域の皆さんのニーズを捉えることが、アカウンタビリテイとしては当然のことです。折に触れ、アンケートを取るべきですが、総理府の 暮らしと情報通信に関する世論調査(H7.1)では「在宅医療支援システム」が45.6%で最も多く選択されています。同時に日常生活において不足している情報について「健康・医療」が25.7%と高いことをあげています。

 また 滋賀県内の複数の医療機関で外来を訪れる家族を対象にアンケート調査を行ったところ、2.5%の家族が子どもの健康や疾病のためにインターネットで情報を利用したと回答しています。自宅にいながらインターネットで医療情報・サービスを利用したいというニーズがあるようですが、まだネット上の情報の蓄積がたりないせいで、すこしニーズが限定されているきらいはあります。将来的には地域内の患者にとっては表2ようなことが考えられます。

表2 : 市民サービス
1)医師や病院の選択の助けとなる:地域医療機関情報
2)予約や相談:各医院のホームページによる診療予約
3)健康教育:ホームページにおける病気の説明
4)患者連携 :施設間連携によるデータ転送。健診データの利用
5)在宅ケアの充実 :在宅患者の24時間監視。
6)医療における政策の提言:一般の方にあるべき医療像のご理解を得る


○地域における医師のインターネットの利用度 (表3)
 開業医は、インターネットを診療連携(病診連携、診診連携)や患者・住民との交流に活用し、更には医療系メーリングリスト等への参加などを通じて、情報孤島から脱却でき、自己研修の場となりえるという利点があります。また、上記のような医師会へのネットワーク普及に伴い、都会では若手の医師会離れも目立つ昨今、組織を合理化して、より魅力的な組織を作ることにより、勤務医を含めた若手医師が、医師会活動へも目が向くようになることも期待されます。神奈川県医師会での詳細な報告もあります(表3)。

 一方勤務医における現状は、日本医療情報センターの実施したアンケート調査によれば、大学で何らかのネットワークが整備されていると回答したものは国立で92.5%に達するも、私立では54.5%に止まり、頻繁活用度では文献検索が 74.6%と突出したのに対し、電子メールは 34.7%にとどまります。これは従来、勤務医が医学文献等の情報以外は概ね院内で賄えて来たことを反映しており、ネットワーク関連設備が無い施設の30%が「全国的に見て平均的」と回答をしていること、及び厳しい医療環境のもとで、ことに私立は医業収益の悪化にあえいでいることなどを勘案すれば、今後、勤務医のネットワークへの関心を学問以外へ導くことが如何に困難であるかが伺われます。しかし学問の世界でも急激にインターネットは広がりつつあります。厳しい医療の現実のなかで、勤務医と開業医がともに手を携えて、効率の良い医療環境を造り上げる事が大切です。

表3;神奈川県医師会でのインターネット利用状況
1)医師会ホームページ開設状況 8郡市/19郡市

2)利用率  病院長:41% 診療所長:28% 
3)利用目的 一般情報検索:73% 医学情報検索:61% 
       連絡:47%(週1回以上:39%) 
       厚生省HP:25%  郡市医師会HP:21% 
4)便利な点 いつでも:63% 簡単:58% 最新:54% 
5)問題点  個人情報漏洩:50% 情報の正確性:41% 
6)非利用理由 機械に弱い:41% 時間がない:26% 
7)自院ホームページ開設率 現在:4% 今後:57% 

インターネットでの施設情報公開
医療機関 医療機関名称:95% 診療科名:94% 
公開同意 所在地:94% 電話番号:93% 診療時間:91% 
情報   診療:90% 医師名:78% 入院有無:59% 
     地図:51% FAX番号:37% 
患者から 医療機関名称:93% 所在地:90% 
公開希望 診療科名:90% 診療時間:87% 診療日:84% 
情報   電話番号:81% 交通手段:77% 
     診察・検査・診断・治療の適切性:77%  
     医師名:72% 入院有無:72% 
     FAX番号:67% 差額ベッド代:67% 
     安全への配慮:67%


地域医療情報ネットワークの構築方法 (表4)
 一般的には積極的な医師を中核として、有志もしくは医師会で、まずメーリングリストを立ち上げ、その中で準備作業や討論を行い、徐々に周囲のご理解をえながら予算化して、構築していくのが一般的です。
 現時点で、一般的に使える方法としてはホームページと、電子メール、ファックスネット、テレビ会議システムなどがあります。表4のごとく、それぞれ利点欠点があり、特徴を出した使い方が望ましいと思われます。
 たとえばホームページは、接触率(表5)は高いが日常比は低いので対外的な宣伝に向きます。また種々の情報、通達、メーリングリスト等の内容のデータベース化の場でもあります。
 メーリングリストは接触率は低いが、日常比は高い。ほとんど電話並みの日常比ですので、日常の対話に向く、ただし、蓄積性と検索は弱い。従って日常的にはメーリングリストを使用する事でよいと思われます。
 掲示板やファーストクラスは、この2つの中間で、画像掲示板や健康相談など特種な事例に適応すればよい。用途をかなり限定した使い方になります(図1参照)。
 インターネットは双方向性のメディアです。通達を一方的に流す場ではありません。会員各位のバーチャル医局です。会員による会員のための情報交換の場であります。内容と質は会員の積極的な発言努力により保たれるものです。まず発言すること。内容は参加者の方々でもんでいただければよい。恥を恐れる、あるいは不正確を恐れるよりも、ださないことで、洗練されないことをおそれます。メーリングリスト上での各位の積極的な発言を望むものです。

表4: インターネットの利点
電子メールの利点 (井上通敏)

 1、ペーパーレス  (書類整理の苦手なずぼら人間向きである)
 2、保存と検索   (初老期健忘症の管理職向きである)
 3、転送・転送・転送で情報が広がる(大いなる口コミ)
 4、メーリングリスト(在宅で会議が可能) インターネットの世界 
 1、N対N、双方向、対等の世界  2、ボーダーレスの世界
 3、無限の情報空間、選択肢の拡大  4、自己判断と自己責任の世界
 5、階層社会からネットワーク社会へ

マスメデイアとネットワークメデイアの比較
    マスメデイア         ネットワーク
    1対N、一方通行       N対N、双方向
    第4の権力          非権力的
    東京集権           地方、個人分権
    金太郎飴           豊かな選択
    1億総白痴化         百家争鳴

表5 接触率と日常比
接触率:年に何回以上利用したか
日常比:接触率のうち「毎日のように」利用が占める割合
年に数回以上利用する人を接触者(接触率)、接触者のうち毎日のように利用する人の割合を日常比とします。接触率は利用者の広がりを示し、日常比は利用の厚み(密度)を示しています。
 「携帯電話」は接触者も比較的多いうえ、日常比が高く一般化しそうです。また「ポケベル」などは接触者は少ないが、その中では日常比が高く、限定的な利用者によく使われているメディアといえます。これに対し、「ビデオカメラ」のようにある程度接触者が多いが、もともと必要な時だけ使い、日常的には使わない、いわば使用時期が限定されるメディアもあります。新メディアの普及タイプとして、利用者限定型と使用時期限定型があり、この「限定」枠を乗り越えられるもの、つまり幅広く毎日のように利用されるものが地上波テレビのような日常メディアになると考えられます。
図1


○地域医療情報システムの具体的な内容
 全体像を把握するには、ネット上では、高橋徳のインター医師会ネットという全国の医師会のリンク集。同じく高橋徳の医師会のホームページの現状97が便利です。平成8年に日本医師会が発表した佐藤一太郎医師の物語(平成7年度 医療システム研究委員会報告書)も予見に満ちた意見書です。詳細はそれらを参照してください。

 一般の方へのサービスとして、医師会の活動案内、急患支援、会員への情報提供、医学知識提供、医療相談、リンク集などがあげられます。大切なことは、かかりつけ医の概念の宣伝や、介護保険などの保健福祉との連携。予防医学としての健診、保健指導への理解。また積極的な医療機関情報などの情報開示などであろうと思います。合理的な受診行動を理解していただくことにより、医療費の経費削減をはかる。

 また医師向け(イントラネット)としては医学教育、生涯教育、 災害医療、会員への情報伝達、委員会などの議事録、患者紹介などがあげられます。公的介護保険関係としては、介護度判定、ケアプラン作成、介護台帳、介護レセプト作成、集計システム、医師の意見書作成、地域ケアネットワーク(川井村など)が考えられます。 在宅医療は、テレビ電話や専用の端末を用いて、血圧、脈拍、心電、体重等の測定を行い、そのデータを通信を用いて伝送することにより、これらのデータを基にして健康相談を受けたり、退院後の患者の在宅での療養の支援を行っています。

 その他、各医院のホームページも積極的に作っり、情報開示に役立てる。マルチメディアとしては、ファックスネット、テレビ会議システム等があげられます。日医のマルチメディア構想ではファックスネットや、テレビ会議なども組み合わせて行おうという提案です。コスト的にも、将来への展望と情報伝達効率を考えれば、現時点ではネットワークに勝るものはないので、会員各位が過渡期製品に満足されるとデジタル化の阻害要因になることも事実ですから、たとえば、ファックスネットを導入するなら、デジタル化を図るようにする。テレビ会議はインターネットとシームレス製品を導入するようにする。関連技術をできるだけインターネット技術に関連付けて一石2鳥を狙う方向性を明確にすることが、大切と思われます。


○情報開示
 医療情報公開の目的は、患者サービスの向上、医療機関連携、インフォームドコンセント、医学研究に役立てる、適正な医療政策立案のためなどがあげられます。医療の質の向上は医師が主体になって行わねばなりません。内部でしっかりした評価システムを備え、適正な医療のモデルを示して行くことが重要であろうと思われます。

 いかに優れたビジョンを掲げても、国民の皆様のご理解が、得られなければ、画餅となります。内部情報は積極的に公開すべきと考えます。過去の先例に因われず、時代の変化、地域住民のニーズを先取りした柔軟な対応が望まれます。トラブルを恐れて、地域住民のニーズをとらえれられなければ、保守的な、役に立たない部屋しかできません。これは特に医師会の幹部の先生方へのお願いです


○将来の地域医療情報ネットワーク
 二次医療圏を単位として、開業医、病院、保健所、福祉施設、薬局、健診センター、住民も参加してネットワークを構築する。情報を蓄積して、こうしたネットワークを介して、個人の出生から現在までの健康に関する情報が、一つのファイルになると、本人の保健医療に役立つだけでなく、予防医学や医学研究にも利用することができます。一地域、一患者、一カルテです。これにより効率の良い、より良質の医療を提供できるようになります。この概念を先取りしているのが、加古川ネットワークや、平成11年2月に稼動した新宿医師会のネットです。まことに刺激的な試みと思われます。厚生省の準備している、電子保険証は認証カードとして利用できると思われます。

○地域医療のネットワーク化推進のためには
 これまで述べてきたように医療の情報化やネットワーク化はぜひ実現すべき課題ですが、これを推進するためにはまだいくつか問題が残っています。
1)インフラの整備
 通信速度の向上。通信料の低価格化。セキュリテイを考慮した閉じたネットワーク。医療情報電子化への法整備などです。
2) 地域医療の担い手としての、医師会組織の合理化と広域化
 地域医療における医師会の活動は今後も増えます。医師会を、魅力的なものにするためには、組織の一体感を得ることがまず大切になります。そのための前提条件としては、一般的には、医師同士が濃厚な関係を作る。おたがいを良く知る。情報や問題意識を共有化する。あるいは個々の医師の負担は平等であらねばならないなどの要件があげられます。一方、中核であるべき若い医師は、忙しく、なかなか医師会活動に積極的になれません。以下のような組織改革が必要と思われます。

2−1)医師会の委員会の整理とネットワーク制への移行
 仕事は会議だけで済むものではなく、その前後に延々と纏め上げる作業があります。この経過をネットワークの普及と有効利用により、時々刻々と、メーリングリストで流せば、参加者全員が、細かい決定までの流れを把握できます。すばやい意思決定と、組織の目的の明確化がはかれ、同時に参加者全員による意識の共有も図れます。

 まず医師会は事業部制として、大きく4つぐらい外務と内務と医療と福祉にわけ、恒常的な事業は部門単位で管理する。委員会はプロジェクトのみの一過性のもののみとする。会議はネットワークで行いFace to Faceの会議は極力減らす。予算は事業部で管理、あまった予算は新規事業につぎこむ。何よりも退屈な会議に出なくて、全員参加で十分審議を尽くせるシステムができるのが大きいと思います。

 会議はメーリングリストでほぼできるので、技術的制約はありません。できるだけ多くの方の参加(普及率がすべて)と、どこで誰が何をしているのかについての出来事とknow-whoデータベースを継続的に構築することが大切と思われます。

2−2)医師会は広域化して二次医療圏と一致させる
a)患者さんは2次医療圏で動き、必ずしも医師会内では動かない
b)介護保険は地方自治体の財政状況のため広域化している。
c)医師会は参加者は若干増加しているが、組織率の低下、財政基盤の脆弱化もある。何らかのテコ入れはしたほうがよい
 地域包括ケアを考えれば自治体に対する受け皿として、また介護の市場化に対抗して、基礎体力をつけるために統廃合すべきです。

 統廃合によるデメリットは、域内の交通費の増大。会議開催が難しい等があげられますが、これはネットーワーク組織になれば、かなり解消されます。
3)医師会の活性化
 何でもそうですが、新規の技術導入時は、参加者へ多大の努力を要求します。教育に集中的に多大な時間と投資をしなければいけません。これがネットワーク普及への最大の障害です。

 医師の年齢構成は、厚生省の平成10年医師調査によれば、診療所に従事する医師の平均年齢は、2年前の58.5歳から58.3歳に下がり、世代交代は進んでいますが、70歳代が22.5%と40代に次いで多く、上下2つの年齢層に山があります。一般社会より、比較的高年齢者が多い構成になっています。このような状況を反映してか、また零細な施設が多いため、なかなか電子化がすすみません。地域の中核病院も経営状態が厳しく、医師は忙しいため、協力できかねる面もあります。その他の医療従事者もパソコンは敷居が高いようです。

 魅力的なビジョンを掲げて、積極的に宣伝し、周囲の理解を得ることが大切ですが、新しい技術の習得に不活発な組織に未来はありません。諸兄の協力を望むものです。「何をしてもらえるかより、何ができるかに楽しみを」(大橋克洋)という精神を大切にしていただきたいと思います。若手の医師にとって効率の良い、魅力的な医師会にすることが大切です。
4)システムはシンプルに柔軟に
 全体のシステムはシンプルにして、できるだけ使用シフトを少なく、汎用品を多用する。教育効率を高めるためには、必要な概念です。一寸便利なソフトは、往々にしてコストもかかるし、教育に時間を取られます。独自開発ソフトは減らす。それはオープンシステムを作ることを阻害します。

 現在は、全国レベルで、横のネットワークができつつあります。ネットは地域内だけで完結するものではありません。したがって広範囲な視野を得るためには、積極的にいろんなネットワークへ入る必要があると思われます。たとえば、現在のデファクトスタンダードである電子メールを使いこなせれば、全国のいろんな情報ネットワークで討論できます。十分にPCに習熟した方ならどんなソフトを使用しても問題ないですが、残念ながら、医師会の大多数の先生方はPCにはそれほど興味もなく、面倒でなければよいという方々が多いと思われます。

 会員の教育と、今後の各位の広がりを考えたら、地域内のシステム構築も、最小限のソフトで、パソコンにプレインストールされたブラウザとメールでまず構築するのが実際的です。またシステムは、現場のニーズに合わせ、生き物のごとく毎日変更していくべきものと思われます。


○まとめ
1)医師会組織はネットワーク組織に変化していかないと時代に対応できません。会員各自が積極的に技術習得をすべきと思われます。
2)ネットワークは医師会単位でなく二次医療圏で組むべきです。
二次医療圏一患者一カルテを目指し、地域の包括ケアという概念を確立する。そのためには医師会を統廃合し広域化すべきです。
医師会の組織改変は、同時に医療の合理化につながります。
3)会員間のネットワークのみでなく、一般へのアカウンタビリティを考えれば、一般人などもふくめたネットワークも考慮しなければいけません。
4)バーチャル医局(インターネットは楽しい)
 各個人各組織がインターネットに接続すれば、時間と空間の制約を外したバーチャル医局で対話ができます。
現実の医局と異なるのは、顔を合わせないということだけ。しかも実際の医局より優れるのは、広がりが違う。
情報孤島から抜け出しましょう。なによりもインターネットは楽しいし、勉強にもなります。
では皆さん、いつかネット上でお会いしましょう。

参考文献
http://www.orth.or.jp/Isikai/content/degital.html

本田忠 デジタル化について 

http://www.hmf.gr.jp/kaiaku/db/messages/110.html
本田忠 二次医療圏について

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/tiiki.html
本田忠 医療情報ネットワークの構築法

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/tiiki.html
本田忠 第一次医療情報システムの反省

http://www.mpt.go.jp/policyreports/japanese/papers/99wp/html/B1010000.html
平成11年度通信白書

http://www.medipad.com/
MEDIPAD

http://www.city.gifu.med.or.jp/toukou.html
河合直樹 1999年11月全国の医師会情報ネットワークの構築状況

http://wshiivx.med.uoeh-u.ac.jp/ml/index.html
八幡 全国の医師会情報ネットワークの構築状況

http://nmcg.shiga-med.ac.jp/pediat/ALLERGY/Academic/19991120/med-info.htm
市民の皆さんは医療ネットワークへなにを望んでいるのか<

http://www.sorifu.go.jp/survey/y-index.html
総理府の暮らしと情報通信に関する世論調査(H7.1

http://www.kodomo.co.jp/paper/inet/index.htm
滋賀県内の複数の医療機関で外来を訪れる家族を対象にアンケート調査

http://www.miyazaki-med.ac.jp/jima/jima.html
市民サービスについて

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/kaigyoui.html
本田忠 開業医とネットワーキング

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/tiikicom.html
本田忠 地域のコミュニケーション

http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jacs/JJCS/v3/n1/p41_45
日本医療情報センターの実施したアンケート調査

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/virtual.html
本田忠 バーチャル医局について

http://mi.med.u-tokai.ac.jp/ogushi/sld020.htm
神奈川県医師会でのインターネット利用状況

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/tiiki.html
本田忠 医療情報ネットワークの構築方法

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/zyouhouka.html
本田忠 情報化ということ

http://www.onh.go.jp/incho/shiryo/network.html
インターネットの利点 井上通敏

http://www.nhk.or.jp/bunken/NL/n011-n.html
接触率と日常比

http://art.osaka-med.ac.jp/~friend-2/toku/ima.html
高橋徳 インター医師会ネット

http://www.osaka-med.ac.jp/~friend-2/toku/paper/isikaihp97.html
高橋徳 医師会のホームページの現状97

http://www.takatsuki.osaka.med.or.jp/monogatari/index.html
佐藤一太郎医師の物語(平成7年度 医療システム研究委員会報告書)

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/saigai.html
本田忠 災害医療

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/henyou.html
本田忠 公的介護保険の意味


http://www.mpt.go.jp/policyreports/japanese/papers/98wp1-2-7.html
平成10年度通信白書

http://www.orth.or.jp/Isikai/content/21seiki.html
本田忠 21世紀の医師会