医師の宿日直について

本田整形外科クリニック 本田忠 2011/1/6


医師が時間外手当を求めた裁判
 大変珍しい事ですが、2010年11月、大阪高裁で、県立病院の産婦人科医が、未払いの時間外手当を県に求めた裁判がありました。判決は、就業規則上は「宿日直」の扱いだが、実態は異なり、救急外来患者への処置や緊急手術などが24%あり、時間外手当の支払い対象となるとの判断です。県側は最高裁に上告しました。
医師の「名ばかり管理職」問題
 医療法で「病院に医師を宿日直させなければならない」となっています。この医療法のいう「宿日直」は、「夜間・休日に入院患者の容体が急変した際に、治療ができるように待機している状態」です。一方、労基法第41条は、「病室の定時巡回、検温等の軽度または短時間の業務を行う場合に認められ、通常の労働の継続は認められない」、いわゆる「寝当直」であるとしています。受診者数が多くて仮眠さえもとれない状態では、日給の1/3に当たる「宿日直手当て」しか支給されないことは問題とされました。
待遇改善
 県立病院では、宿日直手当てに、加えて超過勤務手当を支給、救急業務では、特殊勤務手当を支給するなど、待遇改善をおこないました。
「医師の職業意識」に依存してきたひずみ
 医師は当直明けでも「通常勤務」をしているわけです。代わりがいません。原告である医師も「そもそも提訴したのは、あまりにも過酷な勤務状況の改善を求めたため」としています。しかし週40時間厳守をするなら、今後は医師の2交代制や、医師がいなければ診療時間を制限せざるを得ません。患者さんも、夜間や休日の急変時でも、「主治医を呼んでほしい」と言えないことになりかねません。しかしこれは患者さんの感情としても納得しがたいでしょう。根底に医師不足があるわけで、応招義務とあわせて難しい問題です。


参考
医療法
http://joshrc.org/files/20021128-001.pdf
基発第0319007号平成14年3月19日厚生労働省労働基準局長
医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について
http://zeniro.s57.xrea.com/houki/81kihatsu0319007.doc
奈良病院裁判判決文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090610152331.pdf