気になる手足のしびれ

 平成19年10月10日 鮫公民館
   本田整形外科クリニック 本田忠


はじめに
 痺れは多様な原因でおこります。神経由来、循環障害などです。多くは神経由来なので、今回は整形外科の範囲の病気を説明します。模型や図解本も用意しましたので今から皆さんに回します。神経の名前などは難しい漢字が多いですが、これは江戸時代末期の前野良沢や杉田玄白の蘭学事始で、作られた古い漢語が多いためです。

脊髄とは:図1
 脊髄は脳につながっていて、脊椎で保護されています。身長によって違いますが長さは大体45cmで一番太い所で、1cmくらいです。頚髄で8本、胸髄から12本、腰髄から5本の神経が枝のようにでています。脊髄末端(馬尾;馬の尻尾に似ている)からは仙髄神経がでています。合計で31本あります。
各レベルの脊椎のつぎめの椎間孔から対で出ています。この神経の枝は木の根に似ている事から神経根といいます。その先は枝分かれして末梢神経となって首から下の四肢や体幹の動きや知覚を支配します。
 頚椎は7つ、胸椎は12個。腰椎は5個あります。脊髄は脊椎より短いため、脊髄の区分と脊椎のレベルはずれています。

髄節とは:図2
 髄節は,31対のそれぞれの神経根が支配している部分です。神経根が犯されると,その髄節の反射,感覚,運動が障害されます。

脊髄本体が損傷を受けた場合
 転落や交通事故などの外傷によるものが多い。損傷のレベル以下の全部の髄節の障害がおこります。不完全損傷では,運動や知覚の部分的低下がおこります。完全損傷では,損傷髄節以下の完全麻痺となります。
障害高位レベルで起こる影響:図2
知覚障害の範囲で脊髄損傷のレベルが診断できます。
C4より上:重症の場合,呼吸麻痺を生じ,致死的となることが多い。
C6〜C7:肩の運動と肘の屈曲は通常できる。それ以下の麻痺となる。
T4:乳首レベル以下の麻痺。
T10;臍以下の麻痺。対麻痺といいます。
S3〜S5神経根,またはL1の脊髄円錐 膀胱および腸制御の完全な喪失。
 *略語は脊椎を指す。
予後
 脊髄は中枢神経であり切断または変性した神経は回復しません。

神経根レベルで障害された場合:図2
 脊髄が入っている空間を脊柱管といいます。神経根は一本づつ、椎間孔からでます。椎間孔は狭いため、骨または軟骨の突出で容易に神経根が圧迫されて、その支配域の単髄節の障害がでます。老化による骨の突出(骨棘)による圧迫の場合脊柱管狭窄症といいます。高齢者に多い病気です。軟骨=椎間板で押された場合を椎間板ヘルニアといいます。若年者に多い病気です。圧迫するもので病名が変わるだけで症状は同じです。腰の場合はたとえば、L5が押されれば足背の知覚障害が出ます。S1が犯されれば足背の外側に知覚障害がでます。
治療
 多くは慢性なので、薬物治療や安静に良く反応します。手術はあくまで最後の手段です。高齢者の方が多椎間にわたるので残念ながら若干成績は悪いようです。早め早めに直すことが肝要です。


図1,2


末梢神経レベルで障害された場合:皮神経の知覚帯分布:上肢と下肢参照
 外傷や圧迫で障害されます。障害されれば、各末梢神経の支配部位の知覚障害と運動障害がおこります。解剖的な理由で、障害されやすい場所が決まっています。これは神経が皮膚に近くてかつ直ぐ下が骨の所。軟部組織が薄い所で障害されやすいからです。例えば上肢では橈骨神経は上腕伸側にあります。よく恋人の頭を腕枕して、圧迫されて下垂手になります。「土曜の夜の麻痺」「ハネムーン症候群」などというしゃれた名前がついています。尺骨神経は肘で圧迫されます。これは不用意に肘をついて電気が走る部位です。
治療
 保存的治療に良く反応します。しかし障害の回復程度は1日1mmです。ビタミンB12などを気長に飲んでいく必要があります。また途中で改善傾向が止まってしまい、障害が残るなら神経の除圧などの手術を行います。


図3,4